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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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009  行きつけの店


 交流戦が終了した。阪海ワイルドダックスはぶっちぎりの最下位だった。ショルダーが来日して野手陣の成績は上がっていたのだが、肝心の試合を作る投手が壊滅的だった。エースも不在、先発投手は全員怪我による調整で二軍暮らしを余儀なくされている。いくら野手が強くても投手がいなければ話しにならない。そこで白羽の矢が立ったのが高卒ルーキーのAKIRAだった。彼は外野手としてドラフト一位で示されたのだが、元々はピッチャーを本業としていたため、ワーグナー監督はAKIRAを投手として登板させ、また野手としても出場させるという二刀流に挑戦させていた。無論、これは先発等投手が帰ってくるまでの間だけだ。いくら170キロのフォーシームが投げられるとしても、それだけで抑えられるプロでは無い。ボールのキレがなければ話にならなかった。


 AKIRAの先発記録は4勝0敗と一見良いように見えるが、肝心の防御率は5.64とかなり低い成績を残していた。やはりワーグナー監督の見る目はあったようだ。もし、他球団がAKIRAを投手として獲得していれば、一年目で先発ローテを守る事は恐らくなかっただろう。しかし、野手としてのAKIRAは非の打ちどころが無かった。


 打率.251 17本 34打点 35盗塁。


 高卒ルーキーがチームトップの成績を残していた。これには他の野手達も見習なくてはいけない。特にそう思っているのが石井だった。石井は今年で49歳になるのだが、いまだに現役を続けていた。『若い物には負けん』という気迫を背負いながら日々トレーニングに励んでいる。ザ・キャプテンということもあって、誰よりも早く練習場に着いて、誰よりも早く練習を開始して、誰よりも遅く練習を続ける。そんな石井の努力が実を結んだのか、交流戦が終わって打率は.201。一時期の打率とは比べ物にならないほど打率が上昇しており、交流戦最終日には値千金となるホームランを放った。


 打率.201 2本 9打点 2盗塁。


 とても50歳が近い人間の成績では無かった。異次元級の成績を残す二人は歳の差は離れていても、話しは合うため、良く共に行動していた。この日もそうだった。この日は交流戦が終わって一日目だ。休日なのでノンビリしようと寮でゴロゴロと昼寝していたAKIRA。そんな時、ふいに着信音が鳴り響いた。


 AKIRAは驚いて布団から跳ね上がり、スマートフォンを確認した。すると、石井が電話をかけていたのだ。AKIRAは電話をとった。


「もしもし。渡辺です」


「かしこまるなよ」


 石井先輩はそう言った。


「ああ、悪いな。で、どうかしたのか?」


 AKIRAは素直に詫びを入れた。


「せっかくの休日だ。俺のお気に入りの店に連れて行ってやるよ」


「本当か。それは楽しみだ」


「ってことで、20時に迎えに行くわ」


「なんだ。随分と遅いな」


「その店は開店時間がちょっと遅くてな」


「そうなのか。俺は田舎育ちだから良くわからんが、都会にはそういう店が有るんだな」


 AKIRAは関心をしていた。


「そういう事だ。じゃ、また後で……」


 石井が喋っている途中で、AKIRAは電話を切ったのだった。



 ■



 AKIRAは言われた通りに寮の前で待っていた。すると、眩しい光が襲ってきたと思うと、石井が乗っている車がやってきた。石井が乗っている車は外国の高級車だった。


「ちょいと待たせたか?」


「大丈夫だ。そんなに待っていない」


 待っていないと言っている。


「そうか。だったら行くぜ。乗りな」


 車は10分程走った後、灯りが点いた場所に到着した。一軒家に見えるが、どうやらここが目的の場所らしい。


「ここがそうなのか?」


 助手席の扉を閉めて、AKIRAが話しかけた。


「そうだぜ。中に入りな」


 石井と共に中に入ると、そこにいたのはスナックのママだった。しかし、ただのママではない。


「いらっしゃーい」


 一目で分かった。彼女は男だ。女の格好をした男がスナックのママをやっているのだ。AKIRAは隣の石井に恐る恐る尋ねた。


「こっちなのか」


「ばか野郎。俺は妻子持ちだぞ」


 ところが、石井の目線が急に怖くなった。所謂、野獣の眼光である。


「まっ。噂のAKIRA君じゃない」


 すると、ママが話しかけてきた。


「石井が、いつもお世話になっています」


 と言って、AKIRAはふか深くお辞儀をした。


「そんな堅苦しい挨拶なんていらないわよ。さあ、こっちに来て!」


 ママに呼ばれて、二人はカウンターに座った。


「石井先輩……この人を紹介してくれないか?」


「京子ママだ。彼女とはもう20年近くの知り合いだな」


 20年の知り合いだというのだ。この京子ママとは。


「私がまだピチピチの頃、彼と知り合ったのよ。あの時はお互い若かったわね」


「俺が打率.355で首位打者を取れなかった年だ。嫌でも覚えてる」


「あの時はホームランをいっぱい打つ選手がいて面白かったわ。もちろん今の野球も面白いけど、昔ほどじゃないわね。その点、AKIRA君には期待してるわ」


 そう言いながら、京子ママは投げキッスをしてくるのだ。オカマの扱いには慣れていないため、AKIRAは反応に困ってしまう。


「気持ちはありがたく受け取っておこう」


「AKIRA君って筋肉隆々よね。それで良く170キロも出せるわね」


「若い証拠さ」


 と、石井は言うのだった。


「ちょっと触らせてくれないかしら?」


「ママ、もう酔ってるのか?」


「失礼ね。まだ二杯しか飲んでいないわ」


「結構飲んでるな」


 思わず、AKIRAはそう口にした。


「でも、AKIRA君は18歳だからお酒飲んだら駄目よ」


「分かっている。ブラックコーヒーをくれ」


「よし。今日は盛り上がろうぜ!!」


 こうして、AKIRAと石井は丑三つ時までスナックで騒いでいたのだった。たまには、休日にこうやって羽目を外すのも悪くは無い。





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