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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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088  止まる事を知らない、AKIRA現象


 センターの守備位置を守っているからといって必ずしも球が飛んでくるという事は無い。試合によっては全く捕球せずに終わる事もあれば、つけまとわれているかのように球がポンポンと飛んでくる事もある。特に日本のピッチャーは投げるまでに異様な時間がかかり、テンポの悪い選手が大勢いる。それで試合時間が伸びて、守備に就いている選手達にも暇な時間は必ずやってくる。


 では、そんな時AKIRAは何をしているかというと、何かを考えながら軽いストレッチに励んでいる。ずっと緊張感を保ったまま体を動かさないのは、体に悪いことは分かりきっている。なので、彼はひたすら体をほぐして柔軟な体を維持しようと試みている。やがて、その時間さえも死節時間だと考えに至ったAKIRAはストレッチをしている最中にも色々な事を頭の中で実況するようになった。


 それは目の前の試合でもそうだが、これから起こりえそうな試合展開を自分の中で実況してイメージトレーニングをする。実際にその展開が訪れると、予備知識として蓄えられているので慌てずに済む。常に精神を安定させる事が大事だと知っている彼だからこその思考だ。


 無論、考え過ぎて目の前の試合に集中出来ないと言って常に頭の中を空っぽにしている選手もいる。その類が知念恭二だろう。彼はAKIRAと真逆の性質を持っているので、恐らくその筈だ。頭の中では何も考えず、ひたすら飛んできたボールを追いかけて捕球するというタイプである。


 どちらが正しいかと言われればどちらも正しい。


 人間は個体によって考えも違えば、体質も違う。自分に合った成長方法を見つける事こそが野球選手として成功するための道だとAKIRAは問いかけている。だが、実際はそうではない。AKIRAに憧れ、やがて崇拝するようになった子供達が大勢いて、彼らの間で筋力トレーニングがブームと化しているようだ。


 筋肉増量の商品が飛ぶように売れ、ジムに通う子供達が続出しているのだ。昔は小技小技の軽打バッターこそが日本人らしいのだという風潮が流れていたのにも関わらず、AKIRAという存在が出てからその考えは180度変わってしまった。今では小学生でも握力が80を超えている子供もいるそうだ。


 だが、そんなAKIRA現象に異議を唱える者こそAKIRAその人だった。無理に筋肉をつけると膝に負担が溜まって後で後悔するとインタビューでも散々訴えているのだが、まったく効果が無いのだ。それもその筈。


 子供達はAKIRAという絶対的象徴に憧れているのだ。自分もああなりたいという尊敬の念を根本的に変える事など、もはやAKIRA本人にも止められない。この現状を見守るしかないのである。


 と言っても、この現象でいずれAKIRAのようなパワーヒッターが出てくるのも時間の問題だろう。長年、日本人パワーヒッターの絶滅問題に悩んできたプロ野球業界には涙を流し、嗚咽を漏らす程嬉しいだろう。


 AKIRAという一人の選手が野球の根本を変えてしまった。日本人でも筋肉さえあればホームランをたくさん打てるのだと思い込む子供達が爆発的に増え、結果的に小学生パワーヒッターは続出している。


 しかし、彼らはAKIRAの圧倒的パワーにのみに注目して彼本来の特性を見ていない。それこそ、守備力の高さだ。もはや歴代ナンバーワンとも呼ばれているのだが、どうしても守備の機会は少なくなってしまうので彼の守備成績は地味になりがち。


 しかし、高卒1年目が144試合をフル出場をして0失策なのは評価されてもいい。子供達がもっと広い視野で物事を見れるようになれば、5ツールプレイヤーとして開花する者が一人でも現れるかもしれない。それを期待するばかりである。




 ****************



「スリーアウトチェンジ」


 AKIRAが色々と考えている内に、何時の間にか2回の裏の攻撃は終わっていた。阪海の絶対的エース東川のウイニングショットが光り、この回はわずか4球で三者凡退に打ち取った。


 これにはさすがのキャッツも困惑していると思い、ベンチに帰ったAKIRAは彼が守備に就く様を見ていたが、そうでもない。むしろニヤニヤと笑ってどこか余裕な表情にも見える。AKIRAの勘違いかもしれないが、彼らは東川攻略の糸口を見つけているのかもしれない。


「3回の表はピッチャーの東川からか」


 後ろの石井がボソリと声を出していた。


「あの先輩は確かバッティングも上手かったような気がするぜ」


 それに乗っかるように光太朗も会話に参加してきた。


「そうだ。東川先輩は打撃力も相当高いぞ」


 AKIRAは彼のバッティングセンスを誰よりも早く見抜いていた。それこそ彼が打席に入ると豪快にフルスイングし、初心者が見れば『中軸のバッターか?』と錯覚する程の勢いでバットを振るのだ。ほとんどは当たらずに三振になってしまうが、まれにバットあがボールに当たるとピンポン球のように弾き返され、スタンドに吸い込まれるケースも存在する。


 そう、東川はパワーだけなら並の4番バッターぐらいある。ただミートがあまりにも低いので滅多に当たる事は無いのだが。


 それでも敵投手は警戒するに決まっている。下手に甘いコースに投げるとホームランになる可能性があるとバッテリーは予想し、手加減など一切しない。おかげで、東川は他のバッターと同じような配球で責められるのだ。



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