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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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087  各々の考え方


 リーグナンバーワンの防御率を持っているブライアンから、先制のツーランホームランを放つ事に成功した阪海ワイルドダックスは浮かれた気分になっていた。知念は下半身にコーラをくっつけて、まるで小便をするかのように腰を振りながらコーラの液体をぶっ放す。しかも相手ベンチの方向に向かってだ。今時、こんな自由奔放な高卒一年目はいないであろう。


「いえええええい!」


 瓶から放たれるシュワシュワとした液体がグラウンドの地面を濡らす。これはプロとして恥ずべき行為として、敵チームのファンが知念に向かって空き缶やポテチの袋を投げ込んでくるではないか。皆、顔面を真っ赤にさせて怒り狂っている。


「調子に乗るな。このガキャアア!」


「お前は何もしてねえだろうが!」


 しかし、知念は観客席から放たれるゴミを華麗に躱しながら、踊りを披露する。まさに挑発と挑発を重ねた熟練の技だ。これにはキャッツの熱狂的なファン達もますます怒り狂って、暴言やらブーイングを知念に浴びせる。しかし、知念はその言葉に屈する事も無く、むしろ心地が良さそうにして鼻歌を唄っているではないか。


「弱い奴ほど良く吠えるってな」


 知念の煽りは止まることを知らなかった。そんな知念のはしゃぐ姿を監督やコーチ、そしてAKIRAでさえも無言で見つめている。彼の敵チームのファンを刺激する能力は恐らく両リーグでもトップクラスだろう。ある意味では、尊敬の念を抱かざる終えない。


「あの暴虐な行動は擁護出来ないが、それでも敵チームの指揮を下げる術には長けているな」


 プライベートでは不安症でネガティブなAKIRAだが、野球選手として仕事をする時は全く違う。弱い自分をロッカーに置いて、冷静かつポジティブな思想になっている。だからこそ知念をそういう視点で見る事が出来たのだ。


「お前はどんな欠陥人間にも必ず救いの手を差し伸べるタイプだな」


 隣の光太朗が話しかけてきた。


「知念は欠陥人間では無い。野球人として最高の体と精神力を持っている」


 そう、あれだけ他球団のファンに貶されても、あっかんべーを可能にするタフな精神力を持っている。それでいて、何故か許される雰囲気を醸し出しているのだから。


「そんなもんかね」


 だが、光太朗は半信半疑なようで首を捻っていた。


「素晴らしい精神力だ。俺もあれぐらい本能に従って、自由奔放に闘いたいものだよ。だが俺は、理性を重んじるから好き勝手にプレーする事が出来ない」


 AKIRAは理性こそが野球をする上で大事なのだと感じている。本能に従うだけでは工場できない。本能から与えられたミッションを理性を通して選択肢に変え、最後は自分自身が取捨選択する。それがAKIRAの考え方だった。無論これは、AKIRAが考えに考え抜いた理論であり、皆の意見とは違う。


 それを裏付けするかのように、知念はAKIRAと正反対のプレーをしているのだ。毎試合のように乱闘騒ぎを起こして、ブルペンの電話を破壊する。そして敵チームを煽る行為をタイミングを見計らって行うのだから。


「おいおい。お前が言うと皮肉にしか聞こえないが」


「アイロニーでは無い。心から素晴らしい奴だと思っているさ」


 AKIRAはそうだと言うのだ。すると、知念が戻ってきたと思うとやってやったという表情を浮かべながらベンチにドカンと座った。実にフテブテシイ態度で監督よりも前の席に座りたがるような男だ。しかしそれがAKIRAには頼もしくて見えて仕方がない。これぐらい堂々とした態度ならば相応の成績を求められる。


 知念は好成績を残しているからこそ、傲慢な態度でもチームメイトには何一つ怒られる事は無い。あの秩序を重んじる石井ですら、知念の事は何も思っていないのだ。やはり結果を残している人間は説得力のオーラを帯びているとうだ。


「あいつら、まんまと俺の挑発に乗ってきやがったぜ」


 ガムをくちゃくちゃを噛みながら、知念が話しかけてきた。


「口先でお前に勝てる奴はいないな」 


 そう、AKIRAは素直に褒め称えていた。


「何言ってんだ。あんたもそれなりに口が強いだろう」


「俺がだと?」


 AKIRAは面喰ってしまった。


「あんたの言葉にはそれなりの説得力がある。それなりだがな」


「いいや。俺の口から出た言葉を鵜呑みにしてはいけない。これは俺から出た言葉であて、断じて自分の物じゃないからな」


 そう、自分の心が発する言葉こそが大事なのだとAKIRAは考えていた。


「ってことは、その言葉も信用するなって事か」


「ほう。察しがいいな」


 相手の考えている事は完全には読めない。家族なら話は別だが仕事の同僚から出た言葉を完全に信用してはいけないのだとAKIRAは感じている。


「生憎だが、俺はあんたと思考回路が良く似ている。あんたの言葉を信じるよ」


「それが知念恭二という男の結論ならば、俺も否定はしない」


 AKIRAを思う信仰心はチーム内に輪のように広がっている。いくらAKIRAが「俺の言葉を信用するな」と頑なに言っても、チームメイトは絶対にAKIRAの考えを信じる。それぐらい、今の彼は人に好かれる能力を持っているのだ。




 その後。





 ホームランを打たれたブライアンだったが、特にテンパる事は無くむしろさっきよりも冷静になった雰囲気がある。AKIRAがそう思っていると、どうやら考えは的中していたようで、6番、7番、8番バッターを三者凡退に打ち取ったのだ。


 さっきとはまるで別人のようなピッチング内容ではないか。これには、感心せざる終えない。いくら相手が敵チームのエースだったとしても、同じ人間には変わらないのだ。彼の頭の中にも哲学は存在し、その哲学が何なのか、確かめたくなるAKIRAだった。


 だからと言って、敵のベンチに乗り込んで「貴方のフィロソフィーを教えてくれ」と言う訳にはいかないので、AKIRAはモヤモヤとした気持ちを押さえながらもセンターの守備位置に就くのだった




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