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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
84/426

084  ジャッカルの走り


 1回の裏、AKIRAのファインプレーにより球場が歓声に沸く中、再び彼に脚光が浴びせられる。2回の表は4番のAKIRAから始まるのだ。これにはお客さんも黙ってはいられない。


 AKIRAは無数のフラッシュが炊かれる中を闊歩して行く。その姿はまさに、決闘に赴く侍のようだ。


 バットというつるぎを手にした彼はとても様になっている。見た目も抜群に良く、筋肉隆々な体から溢れる威圧感は人々を魅了してやまない。必ず打ってくれるという雰囲気を醸し出しているのだ。


 こんな選手は滅多にいない。彼はまさに4番にこそ相応しい男なのだ。日本球界ほど、4番打者が出てきて盛り上がる球界は無い。だからこそ、チーム内でもっともスター性の高い打者が起用されている事が多い。


 だから4番に打席が回ると観客たちも興奮して、旗を豪快に振りかざし、地響きの歓声を轟かす。


 そしてAKIRAが打席に入った瞬間、異様な盛り上がりを見せる。それはホームだろうがアウェイだろうが関係ない。お客さんの何割かはAKIRAをこの目で見たいという一心で球場に足を運んでいる。だからこそ、他の4番打者が打席に周った時とは明らかに盛り上がりが違う。


 AKIRAが左打席に立つと、ボルテージが最高潮に上がり、観客たちは嬉しくなって小躍りする。その小躍りが波になって球場全体に伝わり、まるで地震の如く揺れるのだ。テレビ中継ではAKIRAの打席だけ『一部映像が乱れています』という一文が表示される。


 それぐらい、彼は人々から尊敬の眼差しで見られて憧れの存在と化している。まだ19歳の青年だと言うのにここまでの人気を誇るのだから目が丸くなるものだ。




 ******************




 球場は割れんばかりの歓声に満ち溢れている。観客たちは一斉にAKIRAの打席に注目して瞬きする瞬間すら与えられない。AKIRAの打席を1秒でも長くみようと、真剣に目を凝らすのだ。


 ここまでファンに恵まれればAKIRAとして嬉しい物である。しかも応援歌はAKIRAの好きなアイドルグループの歌なので余計にテンションが上がる。


 だが、AKIRAは決して表情に見せない。打席で余計な事を考えると結界が出ないと分かりきっているので、ありとあらゆる情報を遮断して、眼前のピッチャーを見据える。


 するとブライアンは委縮された顔立ちになって、身震いをしていた。若干19歳の青年から放たれる百獣の王の如く威圧感に恐れをなしたのか、32歳のブライアンは顔面に大量の汗をかいている。


 これは、対決する前から相当なプレッシャーを放っているという証拠だ。偉丈夫の体、打撃フォーム、バットの構え、その全てが規格外で、ピッチャーからしてみれば震えあがるのも当たり前かもしれない。ただでさえ、球場はAKIRAの応援歌で一体化して、ホームなのにアウェイにいる感覚に陥っている事だろう


 だがだ。いつまでも震えていたら勝負にはならない。ブライアンは首を大きく振って意を決したのか、大きく脚を上げてピッチングフォームに移行した。そして大きな腕から豪快に放たれたボールは、インコースの高めイッパイに決まる。


「ストライーク!」


 主審はストライクと判定した。AKIRAもストライクゾーンに入っている事が分かっていて、敢えて見逃したのだ。今日のAKIRAは一味も二味も違う。防御率ナンバーワンのブライアント直接対決する事を楽しみにしていたからこそ、こんな早い段階で打つわけにはいかなかった。


 いつも苦い顔をして打席に立っているAKIRAだが今日ばかりは顔色を良くしている。初めて野球をやっていて楽しいと感じているかもしれない。それぐらい、奴を打ち崩したくて心の中ではワクワクしている。しかし、態度には絶対に出さない。


 本能に従ってプレーしていると酷い目に遭う事を経験しているので、理性で何とか跳ね上がりそうな自分を押さえていた。やはり適度な緊張感が人には必要なのだ。リラックスして打席に立つとロクな事は無い。慢心して、凡打を重ねるだけだから、


「いいボールだ」


 AKIRAはキャッチャーに話しかけた。無論、キャッチャーはAKIRAよりも年上である。


「それはどうも。天下のAKIRA様にお褒めの言葉を頂いてこちらとしても光栄だよ」


「俺は天下など取っていないさ」


 キャッチャーがボールを投げ返すと、再び打席でルーティンを開始するAKIRA。先程、打席では緊張感が必要だと言っていたが緊張していたら体が固まってしまう。だからこそ、打席から出てバットを軽く振ったり、大きく伸びをする。ある種の気分転換という行為だ。この軽い運動が意外にも効果があり、体の凝りをほぐしてくれる。



「最初はストレートか……真っ向勝負でもするつもりなのか?」



 常に疑問は絶えない。なぜならば疑問に感じるからこそ、頭の中でどんな球が来るのか想像できる。現実に起きている事を想像するという事はすなわち、予測するという事だ。どんな球が来るのか頭の中で整理して、その球を弾き飛ばすイメージをする。イメージというのは非常に大切な物で、AKIRAは常に理想の自分をイメージしてから打席に立っているのだ。



 そして2球目。



 あのナックルカーブが飛んできた。しかもストレートかボールか判別し辛い絶妙なコースに撒いてきたのだ。しかし投げてきたところはAKIRAの大好物のインコース。体に当たりそうなぐらい近いボールを好む傾向の彼にとって、その球は打ちごろのコースだった。



 しかし。



 思っていた以上にバランスを崩された。体勢が悪くなり、なんとかバットが前に出たものの、打球はコロコロとショート方向に飛んでいる。


 これが並の左打者ならばアウトになって当たり前の当たりだ。


 ところがAKIRAという選手には足がある。俊足を生かして一心不乱に駆け抜け、一塁に駆け抜ける。その姿は獲物を狩るジャッカルのように美しく、頭がまったくブレていない。陸上で経験した走りが、美しさを寄り引き立てているのだ。


 そして、ショートが捕球して投げてる頃には、AKIRAは既に一塁ベース状で伸びをしていた。深いところに転がったのが功をそうしたようだ。


 これで先頭バッターのAKIRAが出塁し、ノーアウト一塁。次の打席には5番バッターの芝田が立っている。彼はドラフト4位で入団した社会人野球出身のルーキーだ。即戦力と期待され、その期待に応える活躍を最近しているのだった。


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