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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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082  粘り打ち


 知念恭二という男は昔から乱暴者だった。しかし類まれなる努力家で野球に関しては一切手を抜かない。いつも練習は最後まで残り、どっちがより遅くまで練習するかAKIRAと維持の張り合いをした程だ。その結果は知念が睡魔に負けてぶっ倒れ、AKIRAが寮まで連れ帰ったというなんとも間抜けな結末だったのだが。


 それぐらい負けず嫌いで努力家な知念は決して天才というタイプでは無い。小学生の時は平凡なピッチャーとして、評価に困る選手だった。中学生でも同じで部活内の2番手投手といった感じだ。背もそれ程大きくなく、細身だった。


 そんな知念が大爆発したのは高校三年生の時だ。身長が急激に伸びて、筋力もゾウか。以前のようなもやし体形が何処にやら、筋力派パワーピッチャーとして弱小高校を全国大会に導き、見事チームを優勝させた。


 ピッチャーとしての才能が開花し、最速150キロ近くの速球を投げる知念が今こうして野手としてバッターボックスに立っている理由。それは監督が外野手として指名しただけではない。


 ピッチングよりもバッティングの方が優秀だった。それだけの事だ。今では投手と外野手の二刀流を成功させている選手もいるが、知念はそんな器用なタイプではない。中途半端になって話題だけが先行するようになると感じたようで、真のプロフェッショナルを極めるためにはどちらかを捨て、どちらかを選択するしかないと判断した。


 そして、今に至る。知念の結果が正しいかどうかは判断できない。それでも本人が決めた道なのだから他の者は見守るしかない。


 特に境遇が似ているAKIRAは知念の事を自分のように投影していた。AKIR自身も投手ではなく外野手として入団した類なので、どうしてもただのチームメイトという位置づけには出来ないのだ。




 ******************



「まずはボールか」


 AKIRAは喉から声を絞り出すようにして呟いた。それほどまでに、ベンチを纏わりつく空気は凍りついているのだ。


「そのようだな」


「奴の球種は実に単純だ。ツーシーム、フォーク、ナックルボール、この三球手しかない。ボールを絞るには簡単だ」


「でも石井さんは打てなかったぞ」


 後ろで肩を落としてガックリとしている石井をチラ見しながら光太朗が言っていた。次に来る球種が分かっていたのに打てなかったのだから、ヤマを張るのは間違っているというのだ。


「相手だってナックルカーブばかり投げないさ。必ず何処かで甘いボールを投げてくる。そこを突いてやれば案外打ち崩せるかもしれないぞ」


 AKIRAはそう考えていた。


「おいおい、そう簡単に上手くいくのかよ」


 だが光太朗は半信半疑のようだ。


「まあ、見ていろ。きっと甘いボールを投げてくる」


 こうして二人は知念の打席に集中する事にした。すると知念は既にツーストライクスリーボールで追い込まれている。あれからファールで粘り、体勢を崩されながらも球数を多く投げさせているのだ。前に飛ばなければ後ろに飛ばしてブライアンのスタミナを少しでも減らそうと考えているようだ。


 知念は真剣な表情そのものだ。普段の打席では決して顔色を変えない、それはバッティングに集中している事を現す。だからこそ故意に死球を当てられると集中力は切れて憤慨してしまうのだろう。


 生憎、ブライアンはコントロールの鬼なので死球の心配はないようだ。だからと言って安心は出来ないのだが。


 そして7球目。


 ブライアンから放たれたフォークボールにバットは空を切り、空振り三振。どうやらストレートに的を絞っていたようで、ストレートと同じフォームで放たれるフォークに惑わされたようだ。ブライアンのフォークは決して変化量が特別な訳でない。どこの投手でも投げられそうな平均的なフォークだ。


 それでも知念を相手に空振りにとれる理由は、ストレートに的を絞っていてもナックルカーブが無意識に頭をチラつかせるからだろう。


「くそ!」


 ベンチから帰ってきた知念は不機嫌そうにバットを振り回し、あろうことか電話を殴りつけていた。だが阪海のチームメンバーはもう慣れっこなので何とも思わずに、誰ひとりとして知念の様子を見ている者はいない。


「……知念でも駄目だったか」


「次は松本か」


「よし、俺はネクストバッターサークルに行ってくる」


 こうしてAKIRAはバットを持って移動した。あまりにも重々しく他者を寄せつけない重量級バットだ。ボクシングで例えるならば余裕でヘビー級である。そんなバットを平然と持てるのはプロ野球界でAKIRAぐらいしかいない。他の選手も持てない事は無いが皆それぞれが顔をしかめる程だ。


 そして3番の松本が右打席に入った。彼は去年まで阪海の正捕手として出場していたが、バッティング力を買われてファーストにコンバートされたのだ。お世辞にも守備力は高いとも言えない。むしろ低い方だ。それでも去年は低反発球で20本近く打った実績があるのでホームランを打つパワーは持っている。


 と言っても、打率があまりにも低く、現時点で打率が2割を切っている。それでも松本は左キラーなので今回は3番に抜擢されたのだ。


 松本という男は身長こそ175センチとプロでは低い方だが、それでも体重と筋力があるのでホームランを打つ事が出来る。期待して当然だった。


 だが、松本は初球のストレートを打ち上げてセンターフライに終わった。期待が一変、絶望に変わった瞬間である。


 トボトボとベンチに帰ろうとしている松本に、すれ違いざまに声をかけた。


「積極さも大事だが、今回は待つべきだったな」


「……何も言えねえ」


 そしてAKIRAと松本と一緒にベンチへと帰り、グローブをはめて守備位置に就くのだった。



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