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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
78/426

078  練習努力の大切さ


 AKIRAは両リーグでナンバーワンとも評されるパワーを持っているが、それ以上に盗塁面は他のプレイヤーと比較にならない程まで優れている。近年の野球界は年間40盗塁をすれば盗塁王を獲れるぐらいの数しか皆が走っていなかった。ところが、AKIRAはそれを遥かに上回る数字を叩きだし、今年順調にいけば100盗塁越えのペースで走っている。


 何故、AKIRAがここまで盗塁する事が出来るのか。それは彼の持っていると驚異的な身体能力と努力によって生まれた最高の盗塁技術を兼ね備えているからに他ならない。彼の驚異的な身体能力は実に遺伝的である。両親はプロのテニスプレイヤーなのは勿論だが、祖父は名の知れたスペインのサッカー選手であり、AKIRAの血にはスペイン人の血が混じっているのだ。だからこそアジアでもトップクラスの身体能力を身に着けていた。


 これは努力というよりも生まれもった才能だ。このように才能がある選手が誰よりも努力すれば野球が上達する事は目に見えるものである。


 だからと言って、野球の全てが才能で決まる筈もない。さっきも言った通り最低限もしくはそれ以上の努力を積み重ねなければステップアップなど不可能に近い。だからこそ、AKIRAは光太朗にそれを教えてあげるのだった。



 **************



 あれから40分近くが経過していた。なんせAKIRAが止めろと言うまで走り込みは続き、光太朗はすっかりばてた状態で前方を走るカルフを見て意気消沈と化していた。極限状態と言ってもいいかもしれない。


「よし、やめだ」


 その一言を発声すると、光太朗は喜びいさんで芝生の上に座り込んで深呼吸をしていた。そこまで疲れていたという事なのだろうか。


「ハアハア……やっと休憩か」


「これを飲んで元気百パーセントだ」


 そう言うと、AKIRAは再びスポーツ飲料を手渡した。光太朗はペットボトルを手に取って勢い良く飲んだと思うと、あっという間に飲み干したのだった。


「プハッー! やっぱり何回飲んでも最高だな」


「そうだろう。理解者がいてくれて心強いよ」


 そう言いながら、笑うAKIRAだ。


「デジャブな感じだけど、まあいいか」


「さてと」


 早めに話題を切って、訓練に戻そうとするAKIRAだ。


「どうした?」


 光太朗は座ったまま尋ねていた。


「今の走りで何を感じた?」


「そうだな……常人は犬の走りに勝てる訳ないって思ったよ」


 改めて普通の事を感じたというのだ。これにはAKIRAも苦笑いを浮かべるしかない。


「そうじゃない。走っている途中で他の事を思い浮かばなかったか?」


 まるで事情聴取のような会話となっていた。


「走っている途中か。確かに感じた事は感じたな」


「何をだ?」


「一生懸命に走る爽快感を」


「それは素晴らしい兆候だな。その調子で頑張ればきっと成績も伸びるぞ」


 AKIRAはそうだと確信するのだった。何故かは分からないが光太朗の成績はグングンと上昇していくのだと。


「まさか、これを分からせるために俺を走らせたのか?」


「そうだ。勝ち負けが重要じゃないと言っただろう?」


 そう、重要なのはあくまでも走るという動作が楽しい事であり、最高の爽快感をもたらしているのだと。だから勝ち負けがどうだっていいのだ。実際、AKIRAは走る事が好きで中学時代は陸上部に所属していた。だから走り幅跳びや砲丸投げにはあまり興味が無く、純粋に走るという動作がメインの短距離走や長距離走に満足感を感じていた。だが、その満足感が陸上だけ満ち足りる事はなく高校時代は野球部に所属したのだが。


「確かにそうだ。お前の言っている通り、途中から清々しい気持ちにすらなった。こんな気持ちは久しぶりだよ」


「これを機に、自分からすすんで練習をしてくれるか?」


「ああ。練習っての退屈なものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしいと思ったから、これからは自発的に練習をしてみるさ」


 それはまさしく光太朗の決意だった。


「それは良かった。他人から言われて行う練習と、自分から行う練習は意味合いが全く違うからな」


 モチベーション的な意味でも違うというのだ。


「そうか。俺様はいつも他人から言われてようやく練習をするタイプだったからいつまで経っても上達しなかったのか」


 光太朗のようなタイプは世間一般にも大勢いるから困りものだ。何故か自分からはすすんでやらず、他人から言われて動き始めるタイプが。


「ああ……そうかもしれないな」


「AKIRAのおかげで、プロ野球選手として最低限の事に気が付けたよ。サンキューな!」


 光太朗から珍しく感謝の言葉が出てきた。感謝されると教えた方もやりがいを感じるものだ。それ故に素直に嬉しいと感じるAKIRAだった。


「どういたしまして」


 まさしく心からの笑顔だ。


「そうだ、今日は先輩らしく飯を奢ってやるよ」


 いつもならAKIRAに飯代を払わせるのだが、今回ばかりは光太朗が奢ってくれるというのだ。最近、財布事情が寂しかったAKIRAはこれも素直に喜んでウキウキな表情を浮かべざる終えない。


「それは楽しみだな」


「試合が終わったら行こうな」


 こうして、二人は食事に行く約束をしたのだった。



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