表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
77/426

077  独自の練習方法


 光太朗に足りないものは守備だけではない。外野にも関わらず平均的な足しか持っておらず、お世辞にも足が早いとは言えなかった。その事を見抜いたAKIRAは再び、あの公園に光太朗を呼んでいた。ここで走塁の特訓をしようと思ったのだ。と言っても、技術的な事は走塁コーチが教えてくれるのでAKIRAが教える事はそうじゃない。どうやって足を速くするかという基本的な事だった。


 そんな基本的な事をAKIRAがどうやって教えるか。それはとても単純な事だった。普段でもよくやる走り込みをひたすら繰り返す。なんせ、光太朗という人物は練習嫌いなので当分走り込みなどしていない。AKIRAが「走り込みをしてくれ」と言うと明らかに嫌そうな顔をして項垂れていた。どうやらこの男は走ることがあまり好きではないようだ。だが、走り込みをすることで野球選手としての足腰が鍛えられる事は言うまでもない。


 思うに、光太朗は基本練習を疎かにすることにより、ここまで守備が劣化したと思われる。劣化した守備を修正するためにはやはり訓練を最初から積むことが大事だとAKIRAは思っていた。なので、走り込みを何回もさせるのだった。



 *****************



「はあはあ……めちゃくちゃ疲れたぞ。くそったれ」


 芝生の上に大の字で寝転ぶ光太朗に、AKIRAはスポーツ飲料を提供した。それはAKIRA自身がCMに出演している際に飲んでいるスポーツ飲料でもある。軽い宣伝行為のようなものだ。


「これを飲んで元気百倍だ」


「ハハ。例のCMの奴か」


 そう笑って、光太朗がペットボトルを受け取るとキャップを外して中身をグビグビと飲み始める。さっきの練習で喉が渇いていたのだろう。それはそれは大胆に飲んでいるのだ。


「美味しいか?」


「ぷはっー! これだよ!」


 いかにも幸せそうな顔だった。その顔を見ているとAKIRAも満足した様子でニッコリと微笑みかける。


「俺はこのジュースを中学時代から飲み続けている。だから、こうやってCMキャラクターに起用されただけで天にも昇る気持ちだ」


 全国的に有名な商品のCMに出演するという事は、全国的にも顔が知られているという事になる。長らくスター不足だったプロ野球界にとっては久々のスーパースターの出場で嬉しい悲鳴を上げている事だろう。それにより地味な国際試合も盛り上がりを見せて、客数も上昇する。お客さんは試合を見に来ている訳じゃなくて、選手を見に来ていると言っても過言ではない。存在だけで球場を賑わせるスター選手が今の時代には必要なのだ。


 AKIRAのように毎試合出場するスター選手は、歴史的にも数多くいた。だが、メジャー流出によってスターの数は年々減少しており、今では野手のスターはAKIRAしかいない。それでも去年から期待性の高い若手が続々と他チームにも入団しており、これから野球界がどうなっていくのか注目である。


「そうなのか。俺様はCMに出た事がないからよく分からんよ」


 光太朗はそうだと言うのだ。分からないのだと。


「そうだな。あまり野球選手はCMに出ないもんな」


 テレビが大好きで毎日かじりついて番組を見ているAKIRAにとって、今どんなCMが人気なのかは一目瞭然だった。その中でも野球選手が出演しているCMは数える程しかない。ほとんどがメジャーリーガーばかりで、日本野球界でCM出演しているのはAKIRAぐらいだ。だからいつも謎の孤独感を感じてしまうのだが。


「あれって球団側にもギャラが発生するんだろ?」


「そうだな」


「だったら余程じゃなきゃ抜擢されないよな」


「俺みたいな若造でも抜擢されるんだ。そのうち改善されるさ」


 それがAKIRAの意見だった。いずれCM業界は野球選手が主になってくると。


「そうなるといいな」


「さて、無駄話はこれぐらいにして特訓を再開するぞ」


 AKIRAは偉丈夫の体を動かして起き上がったと思うと、口笛を吹いた。すると、後方から黒い塊が猛ダッシュで走ってきたのだ。その黒い塊は一直線にAKIRAの元にダイブする。


「ドドドド、ドーベルマン!?」


 そう、AKIRAが呼んだにはペットのドーベルマンだった。あまりにもAKIRAが巨大すぎてチワワのサイズに見えるが実際は最強犬らしく70センチ程の大きさがあった。


「俺の愛犬だ。名前はカルフという」


 舌を使って、ご主人様の顔を舐めている。どこまでも従順なペットだ。


「なんでドーベルマンなんて連れて来たんだ?」


「さっきも言っただろう。訓練をするって」


「ん? 犬を使って何の訓練をするんだ」


 光太朗は首を傾げていた。


「よし、俺がお手本をするから見ていろ」


 そう言うと、AKIRAとカルフは同時にダッシュしたと思うととんでもない速さで芝生を駆けて行き、ほぼ同じタイミングで往復して戻ったのだ。これには光太朗も口をアングリとしてワナワナ震えている。まさにAKIRAの走力は人間離れしており、ドーベルマンと同じスピードで走る事が出来たのだ。


「早すぎるぞ、おい!」


 喉から捻りだしたように叫んでいた。


「さっきのようにカルフと一緒に走るのが訓練だ」


「犬と一緒に走るだって! おいおい冗談だろう」


「大丈夫だって。光太朗先輩ならやれるさ」


「やれるやれないの問題じゃなくて、まず勝てないぞ」


「いいか。この練習は勝ち負けじゃない。やってみれば分かると思うが」


「……分かったよ」


 こうして、光太朗は渋々だが、AKIRAの意見を受け入れたドーベルマンのカルフと一緒に走り込みを開始した。


 当然の如く。


 光太朗は置き去りにされている。だが、これもAKIRAの予想範囲内である。そもそもこれは勝ち負けが基準ではなく、この勝負の中で光太朗が何を感じるかが問題だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ