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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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075  AKIRA流、守備練習


 神野光太朗の打撃は確かに復活したかもしれない。だが、光太朗の衰えた守備力のままでは、やがて他チームから狙い撃ちをされて集中砲火されかねない。もしそうなった場合、いくら光太朗が打とうともチームは確実に失点を重ねて敗北してしまうだろう。このままでは阪海のリーグ優勝は夢のまた夢だと思ったAKIRAは俺流の守備特訓を光太朗に授けることにした。


 その理由は、選手としての共通点が彼と被っている事と、以前試した練習方法が光太朗に合っていたからだ。そうした理由からAKIRAも実際に行っていた守備練習の方法を光太朗に教えるため、二人はとある自然公園に来ていた。平日の昼間という事もあって、閑古鳥が鳴いている。いるのはベンチに座っているお年寄りぐらいだ。改めて二人の邪魔をする者はいないだろうとAKIRAは踏んだ。


「どういう事だよ。公園なんかに呼び出しやがって」


 光太郎はさっきまで眠っていたようで髪の毛が寝癖を帯びて大爆発している。方々から髪の毛がわんさか伸びて、まるでウニのようだ。


「これから守備練習を行う。グローブをはめろ」


「公園で守備練習だと!? 今の時代にそんな事をしたら、公園の管理人が顔真っ赤にして飛んでくるぞ!」


 さすがの彼も動揺している様子だ。しかし、さすがにAKIRAの言う事はなんやかんや言いながらも聞くようで、きっちりと左手にグローブを装着しているではないか。


「光太朗先輩は何か勘違いしているようだな」


 腕組みをしながら、不敵な笑みを漏らす


「勘違いだと?」


「そうだ。確かに硬球を使えば怒られるかもしれない。だが、これを使えばさすがの管理人さんも怒るような真似をしない筈だ」


 どこからともなく、AKIRAはフリスビーを手にしてチラチラと見せた。それはまさしく犬に使う玩具で、どこにでも売っている何の変哲もないフリスビーなのだ。おかしい点を一つ上げるとするならば、やたら白と赤にコーティングされているところぐらいか。


「フリスビー……だと!?」


 まさかのフリスビーにさしもの光太朗も唖然としていた。ここにきて予想外のブツを出されて困惑しているように思える。


「これを使って守備範囲を拡大させる」


 AKIRAは自信満々に言うのだが、肝心の光太朗を見ると口角を上げて腹の底から笑い始めているではないか。目に涙も浮かんでいて、相当ツボにはまったようだ。彼のゲラゲラという大声が公園中に響き渡る。


「イヒヒ……ちょい待てよ。真面目な顔して何を取り出すかと思えば犬用のフリスビーかよ。お前も冗談が使えるようになったのか」


「冗談ではない。これは俺も良く使っている練習道具だぞ」


 AKIRAは真面目な顔をしてそうだと言うのだ。


「へいへい。それで、どうやって使うんだ?」


「簡単だ。俺が投げるから、犬みたいにジャンプして口で咥えろ」


 あの遊びをヤレと言うのだ。


「なんだそりゃ。グローブの意味あるのか?」


「球場の雰囲気を少しでも味わった方がいいだろう」


 雰囲気はとても大事だ。今回のようなシュミレーション訓練では特にそうである。球場でこんな練習をしていると、たちまち怒られるので球場が使えない。そうなればこの公園を少しでも球場の雰囲気にさせる事が重要だとAKIRAは考えていた。それ故のグローブである。


「だからと言って、マジでフリスビーを使うのかよ」


「男に二言は無い」


 AKIRAの目は決意の炎に燃えている。常に真面目で、二の心を持たないのがAKIRAという人物の特徴だ。決して嘘をつかず、真っ直ぐに野球をプレーしようと常に模索している。その結果が、このフリスビーでの守備練習なのだから。


「わ、分かったよ。それだけ言うのなら試しにやってみるさ」


「行くぞ!」


 最速170キロ左腕から放たれたフリスビーの軌道は人間業とは思えない程のスピードと飛距離でグングンと伸びていく。まるで本物のボールを追いかけているかのように、光太朗は必死に走っていた。この公園はとにかく広大な人工芝が広がっているため、AKIRAの投擲したフリスビーはどこまでも飛んでいく。障害物も無いため、比較的キャッチしやすい筈だ。


「こんにゃろう」


 光太朗は必死に走って、飛んでいるフリスビーに向かって猛ダッシュしていた。それこそ、試合中でも見せない程の走りっぷりで、外野手がボールを追いかけている動作がキッチリと完成されていた。


 そして。


 目と鼻の先まで距離が近づくと、外野手がジャンピングキャッチをするかのように、美しく跳躍し、口でフリスビーを咥えたのだ。たちまち、光太朗は受け身の体勢をとってゴロゴロと転がっている。それでも咥えているフリスビーを落とす事なく、やがて動きが制止した。


 野球で例えるなら、スーパープレイだ。値千金のアウト。


「やーったやったやったできた、やっーたやったできた!」


 光太朗は本物の犬のように鼻歌を唄いながら喜びいさんでAKIRAの元へと帰ってくる。だが、AKIRAは厳しいコーチの目をしてこういうのだった。


「良くやった。これを後、20回続けるぞ」


 その瞬間、光太朗の笑みが消え失せて、フリスビーをボトリと地面に落とすのだった。



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