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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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071  プロらしからぬ守備


 こうして、阪海ワイルドダックスの一行は静岡県の朽木球場に辿り着いた。ここは高校野球静岡県大会にも使われる伝統的な球場で、両翼101メートル・中堅123メートルを誇る。そのため、高校野球では滅多にホームランが出ない球場として名高いが、それでもプロ野球ならば話は別であった。特に阪海には飛ばし屋が3人もいるため、ホームランの心配はあまりなさそうだ。


 ここでいう3人とは勿論、自己最長170メートルのホームランを放ったAKIRAを筆頭に、弾丸ライナーでボールを突き放つ知念と飛距離だけならメジャー級の光太朗だ。この3人に共通して言えるのは、やはり筋力トレーニングとウエイトトレーニングを欠かさない事だろう。そして、体重が減ったり増えたりしないというのも影響している。3人とも高校時代から体重は全く変わっていない。逆に言えば、高校時代にプロ野球選手としての肉体が形成されていたとも言える。


 この中では光太朗が一番年上なのだが、2年前までは全く活躍しておらずチーム内での祖業が悪かった。常に守備では怠慢をし、打席でも調子が悪い時はバットすら振らないという最悪の選手だった。そのせいか、グッズ売り上げも最下位を独走し、下から二番目の石井を突き放して、グッズ売り上げ0という不名誉な記録を叩きだしていた。


 ところが、光太朗はAKIRAと出会ったことで何もかもが変わった。人と接するようになり、野球選手としての能力も向上した。何が直接の原因なのかは本人しか分からないが、とにかくAKIRAと接触したおかげで見違えるような成績を叩きだした。今までの光太朗ならば、



 打率.238 3本 28打点



 この程度が関の山だったのが今の光太朗は4月だけで5本もホームランを放っており、打率で言えばチーム3位に位置付けている。打順も6番に固定されて立派な中距離ヒッターとして覚醒したのだ。今年で31歳になる光太朗は遅咲きのバッターとしてこれから活躍する事だろう。


 しかし、かといって、元来苦手である守備が向上されることはないようだ。彼の守備は野球界の歴史の中でも文句なしにワースト1位だと懸念されている。比較的簡単な守備位置であるレフトですら彼にとっては激ムズのポジションらしく、去年の失策数は51という有り得ない数を叩きだしていた。守備機会の多い内野手でもここまでの失策数は滅多にお目にかかれない。それを外野手で叩きだしているのだから、ある意味才能があるのかもしれない。


 今年になってから多少の守備改善はみられるが、それでも守備レベルは小学生から中学生レベルに上がっただけだ。彼の捕球技術、肩の力、守備範囲のどれもが両リーグでワーストなのは変わりない。よって阪海はいつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えながらここまで前進し続けているようなものだ。


 車中、AKIRAが感じていた『謎の違和感』は光太朗という爆弾が爆発する前触れなのかもしれない。




 ****************




「いやあ……破竹の二連勝と言われてバカにされてた頃が懐かしいぜ」


 光太朗はベンチの椅子にひっくり返って「ケッケッケ」と歯茎を剥き出しにして笑っていた。既に試合は9回の表まで進んでいて、阪海ワイルドダックスが3点リードしてなおも攻撃中だ。それで光太朗も余裕の表情を見せているのだろう。だが、常に危機感と隣り合わせのAKIRAから言わせてみれば、たったの3点リードでは満足に笑う事すらできない。せめて10点リードならば話しは別だが、阪海の劣ったリリーフ陣を考えれば、とてもじゃないが前向きにはなれない。


「おいおい、バスの中で油断をするなと注意したばかりだろう」


「固いこと言うなよ。3点もありゃ勝ったも同然さ」


 チームの勝利を疑わないのは別に悪い事では無いが、そこから生まれる慢心が野球選手としての注意力を削いでしまう。プロならばどんな状況だろうが決して油断をしない強い精神力が必要の筈。ところが、この光太朗という男はその注意力が欠如しているようで、油断という二文字が今の彼には一番合っている。ここまで無意識に物事をポジティブに考えられるのはある意味羨ましいとAKIRAは思ったが、事はそういうレベルではない。


「前向きなのは良いが、試合終了まで油断はするなよ」


「へいへい。分かったよ」


 ここで、バッターの石井が三振してスリーアウトチェンジ。各々が9回の裏の守備に就いた。本来ならばここで守備のスペシャリスト山室がレフトの守備をする筈だったが、先程送りバント要因として監督が代打に出してしまった。なので今回は光太朗がそのままレフトの守備位置に就く事になる。


 センターの守備位置に入ったAKIRAは横目でチラリと光太朗を見る。ハッキリ言って山室を代打に出したのは監督の愚策だとAKIRAは感じていたのだ。今日の光太朗は打撃では調子が良く、ホームランも放っている程だ。だからと言って守備まで完璧なのかと言えばそうじゃない。この男の守備はあくまでも中学生レベルだと考えた方がいい。


 そして、試合はAKIRAの思っていたように進んでいた。リリーフ陣がボコボコに打たれ、あっという間にノーアウト満塁。打席にはダイスターズの4番打者がバッターボックスに入っている。


「嫌な予感がする」


 AKIRAがそう感じた瞬間、バッターが初球打ちした。打球はレフト方向にグングンと伸びていくも風の影響で失速していた。これなら光太朗でも捕れるレベルだ。


「オーライ、オーライ」


 光太朗は余裕綽々な顔で、グローブを突きだした。


 だがだ。ボールは風の影響を受けてぐにゃりと曲がり、光太朗の頭を乗り越えてフェンスに当たってしまった。たちまち、バンザイをしながら尻餅をつく光太朗。





「おいおい、嘘だろう!」





 尻を押さえて蹲っている光太朗をバックアップに向かうAKIRA。彼は日本人唯一の100メートル9秒台の俊足を生かして、転がっているボールに向かって一直線に走った。そして、ボールを手に取って、これまた日本人最速の170キロを投げる左腕からバズーカ砲の軌道で本塁に投げた。


 ボールは風をまとってストライク返球で本塁に帰った。だが、ダイスターズの走者は既に全員が本塁に帰還していた後だった。そう、屈辱的なランニングホームランを許してしまったのだ。これで、逆転サヨナラとなり阪海の三連勝は夢に終わった。


「そんな……バカな」


 光太朗はなんとか立ち上がるも口をアングリと開けていた。本塁ではダイスターズの選手達が喜びの舞を踊っているのだ。


「こうなると予測しておくべきだったな。少しライト寄りの俺も悪かった」


 完全に光太朗の失態だったが、何故かAKIRAも責任を感じていたのだった。




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