063 更なる高みへ
まさにAKIRAこそが至高のプレイヤーだと言う事がテレビでは紹介されていた。だが、そんな無敵超人にも苦手な投手がいた。それこそ、高校野球決勝戦で延長戦まで投げ合った男、速水だ。彼は最速163キロのフォーシームを投げては、高速に変化する球を自由自在に投げていた。コントロールが悪い荒れ球なのだが、AKIRAはその荒れ球を苦手としていた。なんせ、日本の投手は綺麗に変化する優等性タイプの変化球が非常に多く、AKIRAはその優等生タイプの変化球を得意としていた。
なので、どちらかというと荒れ球で押されるのが不得意なのだ。それでもスター度―を得意としているAKIRAは4月には荒れ球にも対応できる。だが、5月から熱くなるまでは成績が落ち込むという癖のようなものがあるので、その時に荒れ球を投げられれば凡打を重ねてしまうかもしれない。
せっかく両リーグで唯一4割を打っているので、このまま好調をキープしたい。そ思ったAKIRAは親友の石井に相談していた。しかも試合中にだ。
今日はナイトゲームでツネーズと対戦していた。ツネーズと言えば、昨年三冠王を獲得した伝説の捕手、矢部が所属しているチームだ。矢部は相変わらずホームランをかっ飛ばし、打率も3割を超えている。だが、現時点では全ての成績においてAKIRAが上をいっていた。本来ならば新人選手は2年目のジンクスにかかり、成績を落としそうなものだが、AKIRAは既にノーステップ打法を取り入れて、スランプを克服している。その反動かどうかは定かではないが、とにかくAKIRAは打ちまくっているのだ。
と言っても、それが本当にシーズン終了時まで続くのかと言えば断定は出来ない。もしも、新たなるスランプの壁にぶち当たればどうしようもない。だからこそ先輩の石井にスランプ克服方法を尋ねる必要があった。
「石井先輩?」
「どうした」
今は2回表の攻撃で、8番バッターの玉井がバッターボックスに入っている。玉井は今のところ指導が効いているのか、打率.203とまずまずの成績を収めている。今年のボールも低反発球を取り入れているので、捕手がこれだけ打っていれば及第点なのだ。矢部が異常なだけであって。
「スランプはどうやって克服すればいい?」
「お前……スランプとは真逆の状態じゃないか」
打率.458 13本塁打 43打点
まさに覚醒状態と言っても過言ではない。しかしAKIRAは先の事を見据えていた。こんな好成績がいつまでも続くと思ったら大間違いだと自分でも自覚しているのだ。いくら世間が『100年に一度のスーパースター』と報じても、決して天狗にはならない。もしかしたら、それがAKIRAの強みなのかもしれない。
「いいや。違う、こんな好成績が長く続く筈もない」
「確かにそうだ……選手には必ず波が存在する」
さすがプロ野球歴31年目の大ベテランだ。調子の波を心得ているようだ。
「だが、石井先輩は調子も成績も安定している」
打率.250を維持しているのだ。低反発球時代だろうが高反発球時代だろうが、ここまで安定した打率を維持できる選手はそういない。それも高齢になった今ではホームラン数が伸びているぐらいだ。昔は一桁しか打てなかった石井が、ここにきて二桁のホームランを打てるようになった。
「俺は現序維持しか出来ないのさ」
「大したスキルじゃないか。プロ野球で現状維持を出来る選手は珍しい、何か秘訣でもあるのか?」
AKIRAは思い切って聞いてみた。
「いいや何もしていない」
何もしていないというのだ。
「本当か?」
「ああ。何も考えずにボッーと生きてきただけだよ」
「成程……余計な事を考えないことが現状維持の秘訣なのか」
「まて、俺みたいになるなよ。現状維持で満足する奴は上に行けないぞ」
石井は迫真の顔で「やめろ」と言い始めた。
「……言われてみればそうだな」
そうなのだ。AKIRAは好調をキープするという事だけ考えていたので、これ以上成績を伸ばそうという気持ちが薄れてしまっていたのだ。それでは努力の方向を見誤って、成績が落ちるのも当然である。
「ああ。せっかくだから5割を目指して打ちまくれ。俺みたいに現状維持で満足する奴には絶対になるなよ」
「そうだな。やってみよう」
すると、玉井と東川がヒットで繋ぎ、今日1番でスタメンのAKIRAに打順が回ってきた。AKIRAは左打席に向かって、得意の構えを見せる。
その瞬間。
パチパチパチ。と、真っ白なフラッシュが炊かれる。AKIRAの構えは投手を威圧するような特殊な構えなので、球場に来たファンが記念に撮影をしているらしい。しかもその数は尋常ではなく、全方向からAKIRAは写真を撮られているのだ。こんな選手は今の日本にはAKIRAぐらいしかいない。
投手もAKIRAの放つ威圧感に押されたのか、ボール先行のピッチングをしていた。だが、今のAKIRAはボールもストライクもヒットに出来る技術を持っていた。
逃げ腰のピッチングスタイルは通用しない。それを知らしめるように、AKIRAはピッチャーから放たれるストレートにタイミングを合わせていく。
バギュウウウウウウンンンン!!!!
フルスイングで振り抜くと、ボールがバットの真に当たって、とてつもない咆哮を上げた。ボールは天高く伸びていき、ドームの壁を突き破ったと思うと、場外に飛び出て行った。
「ウオオオオオオオオオオオオオオ!」
打球の行方を見届けると、AKIRAは心の底から声をあげた。すると、観客のボルテージも最高潮に達したようで、両腕を上げて歓喜の渦に巻き込まれている。しかも、中には涙腺を緩め、泣いているファンまでいるではないか。
推定飛距離155メートルの特大スリーランを放ったAKIRAは、ガッツポーズをしながらダイヤモンドを周っていた。あまりの規格外ホームランに、敵側の選手まで拍手を送っているではないか。矢部の改心によりツネーズの選手達も心が洗浄されたようだ。例え敵であろうとも、リスペクトする気持ちを持ち合わせている。
「凄いね。さすがAKIRA君」
ホームベースに戻ってくると、矢部が爽やかな笑顔を振りまいていた。以前はホームランを打つ度に唾を吐きかけてきた粗末な男だった。しかし、今は別人のように態度を改めている。
「ありがとう、お互いベストを尽くそう」
こうしてAKIRAは現状維持という言葉に惑わされることなく、更なる高みを目指して前に突き進むのだった。




