062 好調の秘密
去年の後半戦、最強の打撃フォームを手に入れたと自負していたAKIRAは、今年も目まぐるしい成績を収めていた。4月終了時点の打撃成績はこれだ。
打率.458 13本 43打点 20盗塁
去年の4月成績の倍である。しかもAKIRAはパワーだけではなく、ミート力も上がっていた。去年は自分のフォームがまったくない状態で打っていたようなものだから、プロの打撃コーチに教わって、フォーム改善をした結果は想像以上のものだったらしい。当然の如く、AKIRAは4月の野手月間MVPを獲得していた。
まさに無敵状態と言っても過言ではない。多数のメディアからAKIRAは注目され、様々なテレビ局から取材の申し込みが殺到していた。何故、AKIRAがここまで覚醒したのか、その理由を皆が知りたがっている。だからAKIRAは正直に「打撃フォーム改造のおかげです」と言うのだが、各メディアは本格的にAKIRAの好成績の秘密に探りを入れていた。本当にフォーム改造だけが理由なのか知りたがっているのだろう。
あまりにも周りがAKIRA、AKIRAとうるさいので、AKIRA自身も今自分がどんな状態で取り上げられているのか気になって、ついにテレビで自分が出ている番組をチェックした。
テレビに映っているのはインタビューに答える自分自身の姿だ。AKIRAはまだ19歳なのに、絶妙な会話テクニックを活用。次々にインタビュワーや女子アナウンサーなどをイジリ倒して、ワイプに映っている有名人たちが爆笑の渦に巻き込まれていた。本人は特に面白いことを言ったつもりはないのだが、意外とウケがいいらしい。
『お笑い芸人の才能もありますね』
と、インタビュワーの人が言っていた。最初は冗談で言っていたのだと思っていたが会場の反応を見ていると、この人は本当に褒めてくれたんだと嬉しくなった。AKIRAはドラマだけではなく、バラエティ番組も好きなので、実はそっち方面の仕事をしたいと思っていた時期もあったのだ。それはまだ中学生の時だったが、今でも芸人としてテレビに出る夢は諦めていない。チャンスがあればバラエティにも出演したいとまで思っていた。
だが、AKIRAはこんな事を確認するために態々テレビのスイッチをつけた訳ではない。自分が世間からどのような評価を受けているのか、それが気になっていたのだ。
すると、テレビの画面が変わり「何故AKIRAがここまで打てるようになったか徹底検査」という大がかりな画面になると、自分が出場している試合が映った。丁度、この試合は覚えている。開幕戦に知念が暴れ回って乱闘を起こした時だ。この時は知念も高卒一年目という事もあって退場せずに、審判に注意されただけだった。
『注目すべきはココ』
と、アナウンサーが読み上げるとAKIRAのバッターボックスが映りだされていた。相手投手はボンバーズの谷であり、その画面ではAKIRAが谷の投げる超スローボールを完璧に叩き返し、スタンドに入れていた。自分でも何気ない一振りで何が注目すべき点なのか意味不明である。
「なんだよ、普通のホームランじゃないか」
AKIRAはそう言ってケチをつけると、今度はAKIRAの足の位置がドアップに映ったと思うと、アナウンサーが解説を始めていた。どうやらノーステップ打法の説明をしているらしい。あらかじめ足を開いて、ステップをせずにボールを打つというその名の通りなのだが、一般人向けに分かりやすく説明しているのだ。これにはAKIRAも成程という二文字を無意識に呟いた。実はAKIRA自身もノーステップ打法が何のメリットがあるのか良く理解していなかったので、タメになっていた。
『ですが、このノーステップ打法には弱点があります』
「!? 弱点だと!」
その一言に、AKIRAはテレビに接近して食い入るように見つめた。
『一般の方がこの打法で打とうと思うと、打者のスイングスピード、パワーが落ちてしまいます。プロの選手がこの打法を取り入れた時に補っているのが、筋肉です。その圧倒的な筋肉で体の反動が使えないというデメリットを払拭しているのです。しかも、AKIRA選手の握力は、両リーグナンバーワンで、測定不能!』
持ち上げ方が凄い。一旦デメリットを視聴者に伝えたと思うと、次はデメリットを微塵も感じさせない強靭な肉体のAKIRAが画面上に映ったからだ。全身が筋肉に覆われて、胸板が盛り上がっている。自分でも、とても19歳の体じゃないと笑みがこぼれてしまう程の規格外だったのだ。改めて、客観的に物事を見るのは大事なんだと骨身にしみる。
「うわっ……俺の肉体こんな感じだったのか。なんか恥ずかしいな」
思わず赤面しそうになる。本来ならば、テレビで自分の姿を見るだけで耐えられないのに、上半身裸の自分なんて見ると卒倒しそうになる。
『そして、AKIRA選手の秘訣はこれだけではありません。100メートル最速が9秒79という日本記録保持者であり、その脚力から放たれる内野安打の嵐は見る者全てを虜にします』
そうなのだ。今のAKIRAは単打の6割が内野安打だった。昔は陸上選手として世界陸上にも出場経験のあるAKIRAは自ずと内野安打も増えていた。
「そういうことか。俺は内野安打が去年よりも多くなっていたのか」
『内野にゴロを打てばセーフになる。こんな選手はかつていたでしょうか!』
と、アナウンサーは絶賛していた。
「ううむ……狙って打てるようになればもっと打率は上がりそうだな」
だがだ。内野安打に頼るのは時期尚早だと思ったAKIRAは、その考えを止めた。筋力が落ちてホームランが打てなくなった時まで取っておこうと思ったのだった。




