表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
61/426

061  開幕戦、乱闘


 3月28日、開幕戦が始まった。AKIRAは当然の如く開幕4番起用が決まっていて、石井も3番遊撃手でスタメンだ。光太朗も危なげながらも5番左翼手で起用された。しかし、AKIRAの親しい選手で唯一、山室はベンチに追いやられていた。去年4割近いアベレージを記録して、規定打席未到達でありながらも200本安打を達成した山室。そんなスター選手がベンチ入りする理由。それはオープン戦の不調と、ある選手の存在だった。


 山室のオープン戦打率はわずかに.038。監督は贔屓目に多く打席に立たせてチャンスを与えたのだが、まるで魔法がとけたかのようにヒットが出なかった。そんな中、1人の選手が目まぐるしい活躍をしていた。その名も知念恭二。彼は豪快なアッパースイングからホームランを量産し、ヒットを打ち続けていた。走塁面も守備面も何の問題もなく、むしろ平均以上の成績を叩きだしていた。


 彼のオープン戦打率は.689という驚異的な高打率で終わり、ホームラン数も両リーグで2位という圧巻の成績だった。しかも守備位置は山室と同じ右翼手だ。ワーグナー監督がどちらの選手を使うかは火を見るより明らかだった。


「ついに俺様の時代がきたようだ」


 知念は打順表を見ながら、呟いていた。相変わらず18歳という若さなのに髭がボーボーで無精髭のようになっている。まるで、どこかのメジャー球団を意識したかのような髭の量なのだ。これにはAKIRAも苦笑いを浮かべている。


「おいおい、開幕戦なのに髭を剃らなかったのか」


「髭を伸ばせば大成するってよく言うだろ」


「意外と迷信深い奴だな」


「何かに頼ることは必要だろうが。特にプレッシャーのかかる大一番では」


 プロ野球選手にとっては精神状態を安定させることは非常に大切な事だ。その精神安定剤なるものが知念にとっては髭なのだろう。


「確かにそうだな。お前の言ってることは正しい」


「貴様が4番に起用されたのは気に喰わないが、俺は俺の覇道を貫かせてもらう。邪魔はするなよ」


「当たり前さ。お互い全力を尽くそう」


 AKIRAはそう言って、またもや右手を伸ばして握手を求めたのだが、結果は同じだった。勢いよく払われて舌打ちをされたのだ。本来ならば怒っても不思議じゃない行動だった。だが、奴の強気な態度は野球にとっても必要な闘争本能なのでAKIRAは特に怒る素振りを見せず、むしろ笑顔を見せていた。最近の高卒は真面目な奴ばかりだったので、それが歯車となって自分と似た猪突猛進タイプの知念に好意を抱いていた。




「プレイボール!」



 球審が手を挙げて試合の開始を宣言した。今回の開幕戦はカーツという球団だ。カーツは財政難で傾きかけの球団だが、不思議と強い選手が集まっていて、去年は3位に位置づけていた強豪球団だ。故に、ぶつかる気持ちでいかねばならない。


「1番右翼手ライト知念」


 アナウンスが響き渡ったと思うと、同時にブーイングが球場を包み込む。特に敵側のスタンドから罵声のような声が響き渡っている。額に血管を浮き出して、汚らしい言葉をぶつけている。どれもこれもが放送禁止用語の類である。


 知念がこれだけ非難されるのは明確な理由が存在している。それは知念という人物の性格に問題があった。常にファンを軽蔑した目で睨みつけるのは勿論だが、かつて生放送で、インタビュワーが言葉をかんだ事にブチ切れ、マイクを奪い取ってインタビュワーの後頭部を殴りつけるという行為が過去にあった。それはプロレス的感覚で知念は罪に問われなかったが、この事件がきっかけで、知念がインターネットで袋叩きにあったのは言うまでもない。


 あまりにも行動が尋常ではないので、アンチの存在を爆発的に増やすのは時間の問題だった。もはや知念を好んでいるファンは数少ない。だからこそ公式戦で成績を残すことが名誉回復の絶対条件だ。


「!」


 その瞬間、投手から放たれたボールはすっぽ抜けて、知念の背中に直撃した。知念は小刻みに震えたと思うと、相手投手を睨みつける。


「…………」


 だが、相手投手は年下に謝るのが屈辱的なのか目も合せずに、キャッチャーにボールを返すようにグローブを前に突き出していた。これにはベンチで見ていたAKIRAも不愉快な気持ちになった。あの優しいAKIRAが不快に思う程だったので、当てられた本人は怒り心頭になっていることだろう。特にそれが知念ならば。





「この野郎!」





 知念はバットとヘルメットを投げ出し、相手投手の胸に飛び込んだと思うと、馬乗りになってボコボコに殴り始めた。これにはカーツの選手も血相を抱えてマウンドに走りだし、知念を羽交い絞めにする。


「知念を救出するぞ!」


 知念の危機を感じたAKIRAは言葉を荒げて、皆の顔を見た。すると、皆もAKIRAと同じように決意に満ち溢れた顔をしている。


「応!」


 AKIRAは先頭を走り、マウンドに向かった。その後に石井が続き、他の選手も熱気を放ってついて来ている。


「俺達の知念をイジメる奴はどこだ」


 こうして、両チームの選手が入り乱れて乱闘が始まった。開幕戦の初球で乱闘騒ぎなど聞いた事もなかったが、それでも選手たちは拳を交わしていた。特に知念は暴れに暴れ回って、敵チームの主将の腕にかみついていた。


「やめろお前達!」


 審判が割って入ろうとしたのだが、追い出された。ある意味、試合並に白熱した乱闘は5分間続いたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ