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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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006  投手としてのAKIRA


 石井の打撃能力が徐々にだが蘇ってきた。6月10日時点で打率は.195。一時期の低迷期と比べると確実に打率は向上していて、尚且つ長打力も上がってきた。ところが、対照的にオーナー兼監督兼プレイヤーのワーグナーは交流戦開始の5月20日から現在に至るまでホームランどころかヒットの一本も打っていなかった。その理由は日本の変化球中心のピッチャー陣に対応できていないのと、マスコミやファンの過度の期待が肩にのしかかり、ストレスになっていた事も原因の一つだ。


 そんなワーグナーに更なる受難が立ち塞がる。なんと、一軍の先発投手全員が怪我をして故障者リストに入ってしまったのだ。投手が怪我をした理由として考えられるのは、中継ぎ不足を解消するために完投ペースで投げさせていたからだろう。それで投手の疲労がたまって、怪我に繋がったという事だ。


 しばらくはただでさえ少ない中継ぎ投手を先発として投げさせていたのだが、ことごとく試合を壊していくので、仕方なく二軍でさえ炎上を繰り返している投手を一軍に投げさせている。無論、そんな付け焼刃がプロ野球で通用する筈もなく、すぐさま別の投手を起用して投げさせる事となった。


 その投手とは。


「今日の先発はAKIRAだ」


 ワーグナーにとって、これは苦肉の策だった。野手として獲得した高卒ルーキーを大事な交流戦で先発させるという暴挙に出たのだ。しかし、チームからは何故だか拍手が送られていた。


「俺が投手か」


 意外にもAKIRA自身は不安や葛藤など負の感情は湧いてこなかった。


「去年、この地で170キロを叩きだしたお前を見込んでの起用だ」


「監督。だが俺はフォーシームしか投げれない」


 そう。だからワーグナーは野手としてAKIRAを獲得したのだ。たとえ170キロの直球を投げれたとしても、それ一つしか武器が無いのであれば、プロでは通用しないと考えた。


「大丈夫だ。今から変化球の握りをコーチに教えてもらえ」


「はあ!?」


 さすがのAKIRAも仰天した顔でワーグナーを見つめていた。


「無いよりマシだ。それに、これ以上最悪の事態が起こる筈もないだろう」


「わ、わかった」


 こうしてAKIRAは一軍投手コーチから変化球の握りを教えてもらって肩を作った。そして、地元の阪海球場で投手のキャップを被ってマウンドに飛び出したAKIRA。球場からは割れんばかりの歓声と、どよめきが混じっていた。


「1番レフト。内岡」


 現在打率.356でラリーグトップを独走中の内岡が右打席に入った。AKIRAと内岡は視線をあわした後、お互いのルーティンに戻った。


 一球目。サイドスローから放たれる直球が内角の内側に決まった。審判は片腕を横にまげて「ストライク」とコールする。すると同時に場内がザワザワと蠢き始めた。


 AKIRAは不思議そうに後ろを振り返ると、電光掲示板には167キロと表示されていた。そう、いきなり日本新記録を樹立したのだ。惜しみない歓声を送られたAKIRAはお礼とばかりに二球目を投じる。


 ズバシイイイイイインンン!!!


 轟音と共にキャッチャーミットに収まった。今度の球速は170キロである。リーグトップクラスの打撃力を誇る内岡でさえ、今の球は反応出来なかった。


「ストライーク」


 審判が二球目もストライクと判断する。


 三球目だ。今度はストレートが真ん中高めに浮いてしまい、あっさりとセンター前に弾かれてしまった。AKIRAは一塁に到達する内岡を確認した後、切り替えるように次のバッターに集中を始めた。


 ところが二番バッターにも単打を許してノーアウト一塁二塁のピンチを迎えてしまった。次のバッターは三番ファーストの松下だ。彼はチャンスには滅法強い。


「来いよAKIRA。格の違いを教えてやるぜ」


 松下は威嚇していた。しかし当のAKIRAは冷静な様子でポンポンとストレートを投げ込み、あっという間にノーボールツーストライク。追い込んだ後の三球目だった。


 松下がストレートだと確信して振った球はフォークボールだった。角度も制球もプロが投げる生きたフォークとは言えないが、それでも松下のタイミングをずらすには十分だった。ボールはころころと三塁に転がり、三塁アウト、二塁アウト、一塁アウトのトリプルプレーに打ち取ったのだ。


「うおおおおおおお!!!」


 AKIRAはマウンドで吠えた後、すぐにバットを持って左の打席に入った。


「一番ピッチャーAKIRA」


 すると、AKIRAは初球の甘いカーブを完璧に捉えて阪海ファンの待つスタンドに叩き込んだ。先頭打者ホームランである。


 これで波に乗ったAKIRAは7回と3分の2を1失点に抑える好投で、次のピッチャーにボールを託した。すると、AKIRAの熱が伝わったのか投手陣は9回まで1人のランナーを許さずに、無事勝利を収めたのだ。


 結局、この日のAKIRAは3打数3安打。ホームラン1。打点1。7奪三振の活躍で見事勝利投手に輝き、この日のヒーローインタビューに選ばれたのだった。











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