059 笑顔の契約更改
12月3日、ついにAKIRAが契約更改をする時がやってきた。AKIRAは慣れないスーツに身を包んで、阪海の球団事務所に訪れた。これで来季の年俸が決まると思うと、胸がはち切れんばかりに緊張して鼓動が高まる。やるだけのことはやり、自分のポテンシャルを生かした最高のパフォーマンスはやったつもりだ。後はどうやって年俸の額を増やすかが重要だ。
AKIRAは高卒一年目である事を危惧して代理人を付けていない。単騎で球団側と勝負をしなければならない。もしも、球団側が予想よりも遥かに下の金額を提示した場合、AKIRAとしても『FAやメジャー行きの意志』をチラつかせて、少しでも多くもらうつもりだ。そうでないと割に合わないからだ。
そうこうしているうちに約束の時間がおとずれた。AKIRAはコンコンコンと三回事務所の扉をノックした。すると、奥から『はい、どうぞ』という言葉が聞こえてきたので、AKIRAは扉を開けて一礼をする。
「失礼します」
ソファーには覆面姿のワーグナーとGMの加藤さん。そしてもう一人は知らないオジサンが座っていた。どうやらこの三人が契約更改をしてくれるらしい。
「よく来たな。まあ、座ってくれ」
ワーグナーにそう言われたので、AKIRAもソファーに座った。まるで面接のようなポジショニングで、AKIRA自身も緊張を隠せない。
「私は査定人だ。早速だが、本題に入ろう」
三人目の男は査定人だったらしい。言葉通り、単刀直入な性格だ。
「分かりました」
「今年、君の年俸は1500万円だったね」
「そうです」
「それで、この成績か。なんとも素晴らしい」
1500万円の選手とは考えられない程、活躍しているというのだ。
「ありがとうございます」
座ったまま、AKIRAは一礼をした。
「高卒一年目で盗塁王は鬼崎喜三郎以来の快挙か。それにホームラン数もリーグ二位という破格の成績だ。ゴールデングラブ賞も獲り、守備にも文句ひとつつけられない。これで打率も良くなれば5ツールプレイヤーとして活躍すること間違いなしだな」
どうやら、この査定人はちゃんとタイトルを含めて年俸額を計算してくれているようだ。漏れが無くて良かったとAKIRAはホッと胸を撫で下ろす。
「さて、これはAKIRA君の試合数統計じゃ。契約更改はとても些細なプレーでも評価に繋がる。君は積極的にチームプレーも行っていたようじゃから、その面は高評価じゃ」
AKIRAの手元に分厚い資料がボンと置かれた。加藤GMはそれをペラペラとめくり、一から百まで説明をしていた。打点が絡むヒットの重要性とホームランでも勝利に結ぶホームランかどうか、また、走塁面でも決勝点を踏んだ時の評価はそれなりに金額面が多い。守備に至っては最多刺殺と最多補殺も記録しているので、その金額もプラスされているようだ。
「凄いですね。こんなにも査定が細かいとは思いませんでした」
「こちらとしても大雑把にやるつもりはない。君に適切な年俸を提示するために、色々な人が絡んでいるのだよ。たとえばここにいるワーグナー監督も一役かってもらった」
監督も査定に協力したというのだ。まるで成績表をつける教師のように。
「そうだったのですか」
さすがのAKIRAも言葉を失った。これだけ多くの人が自分のために動いていたと思うと、言い返す言葉すら見当たらない。むしろ感謝の念がこみあげてくるぐらいだ。
「そういうことだ」
「さて、君の年俸はオーナーである私が直接言わせてもらう」
「はい。お願いします」
AKIRAは真剣な表情で、オーナーの言葉を待った。
「ズバリ、1億だ」
「1億……!」
想像していたよりも遥かに多くの金額を提示され、胸の鼓動がなりやまない。実に8500万円のアップはAKIRA自身も想像出来なかった。せいぜい、多くても5000万円ぐらいだろうと勝手に思っていたからだ。
「AKIRA君のおかげで球団の人気はうなぎのぼりだ。ハッキリ言って、1億でも安い。だが、君も分かっている通り、新人選手に多くの額を提示することは出来ない。ベテラン選手との兼ね合いもあるからな」
「いえいえ、十分でございます」
AKIRAは喜びを隠しきれない。ここまで評価されているとは正直思わなかった。
「来季も同じように好成績を残してくれるのであれば、こちらとしても期待以上の年俸を提示できるだろう」
「粉骨砕身の勢いで頑張らさせて頂きます」
「よし。ではここにサインを」
こうして、AKIRAはサインをして契約に合意した。そして、記者たちがウキウキした様子で待ち構える報道席に移動した。そこでは多くのメディアが集まっていて、無数のフラッシュが炊かれていた。
「AKIRA選手、ズバリいくらだったのでしょうか?」
「1億です」
その瞬間、会場はどよめきに包まれた。高卒一年目で年俸が1億を超えた選手は長いプロ野球界にも一人として存在していない。まさに、AKIRAは伝説を作ったのだ。
「来季に向けて、何か意気込みはありますか?」
「来年は3割を打ちたいですね。そのためにはもっと筋トレをしないと」
やはりAKIRAと筋トレは切っても切れない関係性にある。
「では、ファンに向けてメッセージをお願いします」
「俺みたいな厄介者でも求められる場所があるって分かりました」
AKIRAは笑顔で、そうだと言うのだった。




