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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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054  インタビュー


 秋季キャンプという事もあって走り込みをしたり、盗塁技術を向上させたり、ひたすら素振りに励んだりと色々とやられることはたくさんある。だが、AKIRAは他の選手が練習に取り込む中、一人屋内で椅子に座っていた。周りにはカメラが置かれていて、目の前には一人の男性が同じく椅子に座っている。AKIRAはインタビューを受けているのだ。しかもこのインタビュー内容は1月1日にスペシャルとして放送されることが決まっていた。


「今日はよろしくお願いします」


 番組ディレクターの男が挨拶をしてきた。


「いえいえ、こちらこそ」


 同じようにAKIRAも挨拶を返す。今日という日を待ち望んでいた反面、緊張して弁当が喉を通らなかったという出来事もあったが、こうしていざ本番を迎えると不思議に緊張はしていなかった。むしろ恐ろしいぐらいに平常心を保っている。


「チームには溶け込めましたか?」


 今回のインタビュー内容は今年1年を振り返って、自分自身がどうおもっているのかという内容だった。テレビなので、ありきたりな答えは出来ない。AKIRAの深層心理を吐露する勢いじゃなければ番組としても成立しないのだ。よってAKIRAも自分自身の思想を披露する予定だった。


「うーん……それはまだですね」


「意外ですね。陽気な性格なのに」


「やっぱり空回りしてしまいますよ。胸に秘める思いが熱いですからね」


 AKIRAは偉丈夫の熱血漢だ。それ故に、時々チームメイトがついていけなくなることが多々見受けられた。それでも石井は最後まで隣にいてくれたので心強かったが。


「開幕戦でサイクルヒットを打ったのは驚きでした。打った感触はどうでしたか?」


「まさかという思いが強かったかな。サイクルヒットは運も絡んでますから、こんなに早い段階で達成出来るとは思いませんでしたよ」


 AKIRAは開幕戦にサイクルヒットを放ち、球界をザワつかせた。その後も幾度となくヒットやホームランを放ち、4月の月間MVPを獲得したのだ。高卒1年目の野手がMVPを獲るのは50年振りの快挙だ。ちなみに半世紀前に月間MVPを獲得した選手は鬼崎喜三郎である。


「AKIRA選手を語る上で欠かせないのはパワーですが、どうやって筋力をつけたのでしょうか? 未来の野球選手に向けてアドバイスをどうぞ」


 無茶振りだと思ったが、AKIRAは真面目に考えた。


「僕の父親は元テニスプレイヤーですから、幼少の頃から筋力を鍛える環境が整っていたんですよ。だから子供の頃から筋トレの魅力に取りつかれていましたね。こんな感じで子供の頃から腕立て伏せや腹式呼吸やらで腹筋を鍛えてやるといいですよ。特に思春期というのは成長の速度が異様に早いですから、その機を逃さずにトレーニングに励んでください」


 AKIRAはテニスプレイヤーの父親とバレーボール選手の母親の間に産まれたという珍しい血統の持ち主だ。それ故に、幼少時代から英才教育を受けて毎日が勉強の日々だった。子供の頃からスポーツ選手としてのスキルを叩き込まれたので、大半のスポーツは難なくこなす。


「噂によると、高校一年生の時に握力測定器が振り切れたとか」


 100以上は高校に置いてあるような測定器では到底測れない。高校生が握力を100超えることなど製作者も考えようがなかったのだろう。


「ええ。筋トレの成果です」


「きっとチーム内でも握力は一番でしょうね」


 高卒一年目がだ。本来ならば有り得ない事である。


「そうですね。筋力には誰にも負けない自信がありますよ」


 間違いなくアジア人でAKIRAのパワーに勝てる者はいないだろう。しかし、世界は広い。だからこそAKIRAは努力をするのだ。


「筋力も素晴らしいですが、瞬発力も群を抜いていますね」


「それは中学時代の部活内容が関係していると思います。僕は中学時代陸上部に所属していたので」


 有名な話しだ。なんせ、AKIRAは14歳という若さで世界陸上に出場し、見事銅メダルに輝いたのだから。中学時代から既にAKIRAはスターとしてメディアに取り上げられていた。そんなAKIRAが野球に目覚めたのは高校時代に野球部にスカウトされたからだ。人生何が有るか分からない。そのおかげで、こうしてインタビューを受けているのだから。もしもAKIRAが陸上を続けていれば、また違った意味でのインタビューがあったかもしれない。やはり運命の分岐点は面白いものだ。


「高卒1年目が盗塁王を獲ったのはおよそ50年振りですね」


「ありがとうございます」


「50年前は鬼崎選手が盗塁王を獲りましたが、彼の事をどう思っていますか?」


「世界でも有数の知名度がある日本人は彼だけですよ。日本の総理大臣より認知されているかもしれませんし、凄いですよ。あれだけ長く現役でプレーできると言うのは」


 半世紀以上プロ野球選手として活躍を続けられるのは鬼崎ぐらいだろう。そんな鬼崎を生んだのは阪海ワイルドダックスであり、AKIRAの所属するチームだ。しかも若い頃の鬼崎とAKIRAのプレースタイルが酷似しているため、巷では鬼崎の再来と噂になっているようだ。


「AKIRA選手も鬼崎選手と同様にあまり怪我をしないですね」


「ええ。今年は運が良かったですよ」


「あれだけデットボールを食らったのはAKIRA選手ぐらいでしょうか」


 明らかな故意死球も多々見受けられたが、それでもAKIRAは怒りを表情に現さず甘んじて判定を受け入れた。投手に喧嘩を売ることもなく、ましてや審判に怒鳴りつけたことも無い。AKIRAは滅多な事では起こらないのだ。


「22個の死球はさすがにやり過ぎでしたよ。ほとんどが矢部選手のリードだったので仕方ないですけどね」


 矢部なら仕方ないとAKIRAは諦めていた。しかし、後半戦の矢部は別人のように大人しいリードになって顔面擦れ擦れのブラッシュボールどころか死球すら要求してこなかった。なので、22の死球の大半が前半戦にぶつけられている。


「器が大きいですね」


「鈍感なだけですよ」


 瞬間、周りは笑いに包まれたのだった。



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