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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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053  秋季キャンプ


 既に秋季キャンプは11月6日から始まっていた。本来ならば秋季キャンプというものは若手を育成するためのものであり、レギュラークラスの選手やベテランの選手は疲労蓄積を防ぐためにキャンプの免除が許されている。


 本来ならばシーズンフル出場したAKIRAもキャンプ免除を球団側から受けていたのだが、『ここで休めば2軍の選手たちに追い付かれるかもしれない』という危機感に苛まれたため、急遽キャンプ入りを志願して沖縄に飛んだ。


 キャンプ地の辿り着くと、石井がサングラスを装着してとある選手をマンツーマンで鍛えていた。その選手とは。


「玉井、もっと腰で打て」


「ういっす!」


 そう、この間の合同トライアウトで獲得した玉井選手だった。玉井は重度の打撃力不足で不振に喘ぎツネーズを戦力外通告された。しかし、1軍出場を経験していることと、今年で24歳という若さに目を付けた石井が本格的な打撃改造を行っていた。既に打撃コーチとしての有能さは抜き出ており、AKIRAの打撃能力を覚醒させた持ち主だ。それだけに周囲からの期待が掛かっている。


「お、AKIRAじゃないか!」


 すると、石井がAKIRAの存在に気が付いた様で声を掛けてきた。AKIRAは片手を振って石井の元に近づいて行く。


「石井さん。俺も今日から参加する」


「さすがの熱意だ。向上心をヒシヒシと感じるぜ」


「AKIRAさん。アッシの名前は玉井と申します」


 玉井は年上の筈だが頭を下げてAKIRAに挨拶してきた。これにはAKIRAも困惑してt両手を横に振る。


「よしてくれ。俺は後輩だぞ」


「いいえ。この世界は決して年功序列ではありません。実力主義の世界なのですからアッシなんて舎弟も同然ッス!」


「だからと言ってだな」


 きっと、困った顔が表情に出ていることだろう。それでも玉井は敬語をやめなかった。それどころか顔を上げたともうとキラキラとした目でこちらを見てくるではないか。


「それより、アッシはAKIRAさんのパワーに惚れ込みやした! 飛距離もさることながら綺麗な放物線を描いてるので!」


 AKIRAは飛距離で言えば両リーグナンバーワンと言われている。ドーム球場でのホームランはほとんどが看板直撃という異常なるパワーを持っているのだ。そのせいで未成年なのにビール1年分を貰って困り果てたという事件もシーズン中にはあった。


「そうか。それは嬉しい」


「是非とも間近でAKIRAさんのホームランが見たいッス!」


 そこまで言われるとAKIRAも人間だ。とたんに上機嫌になって鼻孔を膨らませる。ついでに鼻息も荒いのだ。


「いいだろう。越智さん!」


 バッティングピッチャーの越智さんを呼び出し、AKIRAは打席に向かった。すると、越智さんの右腕から放たれたボールにタイミングを合わし、フルスイングで振り抜いた。



 ドンガラガッシャンンンン!!




 球とボールがぶつかった瞬間に雷鳴の如く轟音が辺りに響いた。ボールは天高く上がり猛スピードで飛んで行った。推定飛距離180メートルの場外弾だ。


「スゲエエエエエエエエエエ!」


 玉井はワクワクした顔でこちらを見ながら大絶賛の声を送っていた。ここまで悦ばれるとAKIRAとしても非常に嬉しくなる。


 それから、二投目、三投目、四投目と次々にホームランを放つ。しかも全てが場外へと消えていく特大アーチだ。たとえフリーバッテイングとは言え、あそこまで飛ばすのはAKIRAぐらいだろう。


「ふん!」


 五投目も難なく場外へ運んで、バッティングを終えた。すると、玉井は両手をバンザイしながら駆け寄ってきて尊敬の眼差しで見つめてくるではないか……!


「流石っス! アッシじゃ到底あそこまで飛ばせません!」


 ホームランどころか一本もヒットを打っていないのだから当然だろう。


「玉井さんも筋力をつければきっと飛ばせるようになるぞ」


「本当ッスか! 頑張るッス!」


 もはやどちらが先輩か後輩なのか区別できない。嫌、そもそも先輩後輩を超えた関係になりつつあるのか。


「野球は筋肉スポーツだ。力さえあればどうとでもなる」


 多少、技術が劣っていても筋肉がカバーしてくれるというのだ。実際、AKIRAのミートポイントは低いので打率はそこまでじゃない。それでも筋肉がスタンドまで運んでくれるというのだ。


「脳筋じゃないですか! でも嫌いじゃないッス!」


「いいか。石井先輩の教えに従えば必ず打撃は良くなるからな」


「オッス! 頑張ります!」


 玉井はそう言うと、今度は石井の元に走り寄って再び頭を下げていた。こんなにも練習熱心な若者を捨てたツネーズは勿体ないなとこの時AKIRAは思っていたのだった。


「越智さん。手加減してくたでしょう」


「ああ。中継ぎ炎上タイプのボールを投げた」


 越智さんはどんな投手の球でも投げられることが出来る。故にボールのキレが全くない棒球も投げることが可能だ。無論、その反対も。


「俺を立たせてくれるために」


「違う。玉井君のためじゃ」


「玉井さんの?」


「彼はAKIRAという人間を崇拝しておる。じゃから君を活躍させて玉井君の快楽神経を刺激してやったのじゃ」


 AKIRAは誰からも好かれる人間だ。彼を嫌っているものはこの日本にほとんどいない。その圧倒的なパワーは見る者全てを魅了し、陶酔させてしまう。



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