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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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052  加藤の決断


 捕手というポジションはチームの要と言われている程の重要なポジションだ。それ故にチーム内の投手事情は誰よりも熟知しているし、投手の癖も知っている。だから、他球団の捕手を獲得して投手の弱点を教えてもらうというのがプロ野球の定番となっている。加藤GMもそれが狙いなのかもしれない。


「確かに玉井さんの守備力は群を抜いている。肩も申し分ない……しかし」


 四球で出たランナーを盗塁死させたのだ。そこそこの速さと正確さを兼ね備えている。玉井はキャッチャーとしての守備は十分に一軍で通用していた。しかし、そんなキャッチャーが戦力外になるほど、野球界は充実していない。確実な欠点がある筈だと、AKIRAは分析していた。


「しかしなんじゃ」


 加藤GMが尋ねてきた。


「バッティングはどうなんだ?」


 AKIRAは加藤に問いかけた。


「壊滅的じゃ。今のままではどうにもならん」


 そもそもキャッチャーで打撃力の高い選手はそういない。守備につくだけで足腰に負担がかかり、本来持っているパワーが落ちてしまうのだ。9回には左手の握力はほとんど無くなってしまっている。


「どんな成績なんだ?」


 AKIRAはここ最近日本プロ野球界に興味を持ち始めたので、このような1軍半の選手の情報は知らない。ただでさえチームメンバーの情報も知らないのだから。


「まだ1本もヒットを打っていないようじゃ。40試合も1軍経験があってな」


 よっぽど酷いフォームなのだろう。ヒットが出ないという事は。


「それは……考え物だな」


 さすがにヒットを打ったことがない選手をレギュラーとして働かせるのはどうかとAKIRA自身も思っていた・


「じゃがじゃ。ここには優秀な打撃コーチが二人もおるではないか」


 そう言うと、加藤は二人の顔をチラチラと横目で見ていた。


「俺達?」


「AKIRAは山室の打撃力を開花させ、石井はAKIRAの打撃不調を払拭したと聞いたぞ。2人共優秀な打撃コーチじゃよ。少なくとも奴よりは」


 前の1軍打撃コーチは飲酒運転で交通事故を起こし、現在進行形で捕まっている。恐らく豚箱から出るのは6年程かかるだろう。


「まさか俺達が玉井さんの打撃を教えるのか?」


「少なくとも石井は来季の一軍打撃コーチ兼任を務めるじゃろ」


 選手と打撃コーチの兼任だ。兼任で成績を残すのは難しいと言われているが、今季の石井は10本もホームランを放っている。それも低反発球で。石井は年を取る度に打撃が好調になっているのだ。


「そうですね。引き続きコーチ兼任をしようと思っています」


 石井は軽く頷いていた。


「玉井の事は頼んだぞ」


「まさか、もう獲得を決めたのか」


 加藤は玉井を獲得することに決めたというのだ。


「何よりも動きが完璧じゃ。ここまでの動きに仕上げてくるのは努力のつわもの」


「だが、打撃力は皆無か」


 玉井の打席が回ってきた。玉井は甘いボールを初球打ちし、セカンドゴロでダブルプレーという最悪の結果になってしまった。首脳陣にいいところを見せれなかったと幻滅しているかもしれないが、合同トライアウトは選手の成績など一切気にしていないので、それは考え過ぎというものだ。


「田中のような準生え抜きのスターとして鍛えてやってくれ」


 田中は阪海に来てから打撃力が開花した。今では阪海だけではなく、他球団も喉から手が出るほど欲しがる人材に成長している。最も本人には出て行く気配が見当たらないが。


「戦力外から復活した捕手か。宣伝的にも効果ありだな」


 それでいて、玉井はツネーズを解雇された身なのだ。ツネーズは日本で一番球団ファンが多いと言われる球団だが、その球団もきっとお祝いしてくれる筈。


「今では田中が生え抜きだと勘違いしているファンも多くなった。それぐらいに無理なく溶け込ませてやってやれよ」


「そうだな。それで二番手捕手も獲得するんだっけか?」


 AKIRAはなんとなく石井に問いかけた。


「そうじゃ。その選手は37歳と高齢だがまだまだ二番手捕手としては活躍できると思っている。しかも他球団を色々と渡っているから投手の弱点とかも知っていそうだ」


 だと言うのだった。


「恐らくだが、そいつも攻撃が駄目で守備がやたら良い奴だろ?」


「正解じゃ」


「同じタイプの捕手を二人獲るってことか」


「値段もリーズナブルだし即戦力にもなる。一石二鳥じゃろう」


「打撃は到底1軍レベルじゃないのに……本当に大丈夫なんだろうな?」


 AKIRAにはその心配があった。なんせ守備力がいくら高くても打撃力が皆無ならば問題ありまくりだからだ。


「大丈夫じゃ。ワシを信じろ」


 目だ。加藤は高齢だが目の輝きを失っていない。


「で、その選手の名前は?」


五十嵐いがらしと言う」


「五十嵐か」


「ほれ、今から守備に就くぞ」


 五十嵐がキャッチャーのマスクを被っていた。どことなく雰囲気があり、決した肩が強いという訳でもないがそれなりのリードがある。


「いいリードだ」


「五十嵐は特に左投手サウスポーと相性がいい。中継ぎのワンポイントと一緒に併用して使うというのがワシと監督の意見じゃ」


「確かにそれはいいかもしれないな」


「これで決定じゃな」


 こうして玉井と五十嵐の獲得を決意した加藤はその夜に連絡して、二人共が秋季キャンプに合流する予定だそうだ。


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