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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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051  合同トライアウト


 11月10日。今日は12球団合同トライアウトが行われる日だ。戦力外通告を受けて行き場を失った選手を救済するシステムとして、選手だけではなく多くのプロ野球関係者が集まる。阪海の首脳陣も例外ではなく、今年は加藤GMと将来のGM候補石井、そしてAKIRAが行く事になっている。AKIRAを誘ったのは他でもなく石井だ。野球選手は技を吸収する事が大事なので、この合同トライアウト視察に参加する予定となった。もっとも、スタメンクラスで今季40ホーマーを放っているAKIRAは、今更戦力外の選手から吸収するスキルなんて無いのだと、最後まで渋っていた。しかし、石井が説得させたのだ。これだけ石井がついてこいというのだから、最後には認めて一緒に行くこととなった。




 午前10時に3人は山口県の鳥居球場に訪れた。そこで合同トライアウトが開催されているのだ。関係者席に座ると、さっそく選手たちがシート打撃を行っていた。無論、投手や守備についている選手も戦力外でチームを退団した者だ。中には見たことも無い選手も大勢いた。


「AKIRA君。将来的にも君は監督やGMになる可能性を大いに持っている。だから、ここで選手を見る目を養ってくれ」


 今年で78歳を迎えるベテランGMが話しかけてきた。この人は阪海のGMを長年務めており、セカンドの田中、ライトの八木、サードの別府をトライアウトで獲得して一軍のスタメンクラスにまで鍛え上げた持ち主だ。中でも田中は犠打数の日本記録を塗り替えるほどの成長を見せており、セカンドの守備も12球団でトップと言われるまで成長した。このように阪海は他球団でクビになった選手を多く獲得して選手層を厚くしていた。なので、今年も阪海の動きはメディアや野球ファンに注目されている。


「そうか。それが理由で俺は呼ばれたのか」


 将来と言ってもいつになるか分からないが、監督やGMをする際に少しでも選手を見る目が養われていた方がいいという加藤と石井の考えだったようだ。まだ考えが早いような気はするが、これもプロ野球ならではの考えだと納得するAKIRAだった。


「日本の野球界は名選手がコーチや監督になったりするからの」


 加藤もその一人だ。彼は阪海が生んだ2000本安打達成者で、監督時代は鬼の加藤と言われた持ち主。しかし、10年前に高齢を理由に監督の座から降ろされ、今では阪海のGMとして活躍している。


 ところが、そのGMも辞め時が迫っていた。78歳という高齢がネックとなり、加藤自身も後継者を見つけようと考えていた。そこで白羽の矢が立ったのが石井だ。


「俺もいずれは阪海の監督を目指している」


「いや、石井はGMになってワシの後を継いでくれ」


「加藤さん……」


 シミジミとしていた。加藤も歳には勝てないようで、老害化してきているのだ。


「ワシはもう長くは無い。完全な老害になる前にキッパリと辞めないとな」


「それはいいが、選手を見なくていいのか?」


 選手そっちのけで会話をしている二人に向かってAKIRAが呼びかけた。


「おお、そうじゃったな」


「それで、どうなったんだ?」


「そこの投手が三者凡退に打ち取ったぞ」


 AKIRAはマウンドにいる投手の名前を知らなかった。対戦した覚えが無いのだ。


「おおそうか。奴は確かボンバーズの二軍選手じゃな」


「二軍選手か……どうりで知らないわけだ」


 AKIRAはチーム事情から開幕一軍を余儀なくされたので二軍スタートをしていない。だから、名前も顔も知らないというのだ。


「彼は23歳でボンバーズをクビになったようじゃ」


「まだ若いな」


「一度も一軍経験は無し」


「だが、三者凡退に打ち取ったのは好評価だと思うぞ」


 AKIRAはそう言うのだったが、加藤GMは首を横に振っていた。


「ワシの目は節穴じゃない。打ち取ったバッターはいずれも1軍経験のない選手だったわい。2軍の投手が2軍のバッターを打ち取っても好評価にはならん」


 なんと、会話に専念していたと思われた加藤GMはちゃっかり選手たちのシート打撃を見ていたのだ。


「……厳しいんだな。トライアウトってのは」


 AKIRAは思わず生唾を飲み込んだ。ここでいい成績を残しても評価には繋がらないというのだから。


「いいや、単純じゃよ。1軍経験があって動きが軽やかな選手を獲得すればいいのだからな」


「つまり、1軍経験のない選手は?」


「誰も獲らんよ。少なくともプロ野球関係者はな」


 独立リーグ、韓国野球、台湾野球の関係者もこの地で選手たちを獲得しようとしている。プロで一軍経験のない者はこういった日本プロ野球よりもレベルが劣るリーグに目をつけられる事が多い。


「成程、1軍経験のある選手に的を絞るのですか」


 石井はそう呟きながら紙にメモしていた。


「そうじゃ。そこで、わしは2名の選手に注目している。いずれも1軍に出場しておる」


「それはどんな選手だ?」


 と、AKIRAは尋ねた。


「ほれ、そこで捕手を務めている選手じゃ。名前は玉井と言う」


 どうやら加藤GMは三者凡退に打ち取った投手ではなく捕手のリード力に注目

していたようだ。


「玉井か。確かツネーズの3番手捕手だったな」


「彼はリード力、捕球技術は高い。少々打撃に問題があってツネーズでは干されていたようじゃが」


 今季三冠王を獲得した矢部の前ではどんなに打撃が良くても使われない。


「彼を獲得するつもりなのか?」


 玉井は確かにリード面や補給能力に欠点は見受けられない。


「ああ、正捕手としてな」


 だが、加藤は正捕手として獲得するつもりなのだと言っていた。


「待て。そうなると、松本はどうなるんだ」


 今シーズンに正捕手としてチームの要だったのは松本という捕手だった。彼は守備力が悪く、送球にも難はあるが、今時珍しくホームランを打てる捕手だったので我慢して使われていた。捕手の強打者と言えば両リーグでも矢部が代表的だが、矢部以外にはこの松本しかいない。


「松本は打撃がいいからの。ファーストに転向させるようじゃ」


 ワーグナー監督はコンバートを示唆しているらしい。こうして、打撃のいい捕手はコンバートされやすいのだ。あれだけボールを捕球していると、どうしても試合終盤になると手が痺れて握力が落ちてしまう。それに中腰という無理な体勢も選手には多くの負担となる。だからパワーヒッター気味の捕手はコンバートされて強打の捕手がいなくなってしまうのだ。


「成程、空いた正捕手の座に彼を入れるのか」


 玉井は見るからにまだ若い顔立ちをしているので、年齢的にも大丈夫そうだった。打撃はまだ見ていないので、どうもこうも分からないが。


「ああ。阪海にいる捕手は皆、守備が悪い。言い方は悪いが使えないのじゃ」


 戦力外になった玉井を正捕手にするという計画を練るほど、阪海の捕手事情は壊滅的だ。とてもじゃないが1軍レベルの守備力を誰も持ち合わせていない。そこで1軍経験のある玉井を獲得しようというのだ。


「それだと、二番手捕手はどうなるんだ?」


 AKIRAは素直な疑問を投げかけた。


「それもここで視て獲得する」


「おいおい、心配になってきたぞ」


 他球団をクビになった捕手を2名雇い、来シーズンに正捕手と2番手捕手として使うのだと言うのだから不安で胃が痛くなるのも当然だった。





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