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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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044  いざ愛知へ


 シーズンを通して闘ってきた選手はどうしても体が疲れに溜まってしまう、表面上には出ていないが内面ではもの凄く痛めつけられている筈だ。試合に出ている以上、必ず死球を与えられたり精神的な意味でも辛い日は必ずあるだろう。特にスタメンクラスの選手はシーズン中にまともに休むことは出来ないので、こういった疲労感はオフシーズンまで残っているものだ。


 10月下旬には日本シリーズが終了して完全にオフとなった。日本シリーズは無類の強さを誇るマ・リーグの覇者ツネーズが4勝0負のぶっちりで日本一を飾った。AKIRAはそんな日本シリーズを羨ましく思いながらも、沸々と内に情熱を秘めながら観戦していた。いつかこの舞台に立ってやると本気で思いながら。


 11月5日。この日はオーバーホールのために愛知県の総合リラクゼーション施設に石井軍団、山室、東川の5人が行く事となった。オーバーホールとは一定時間の間、野球の事を完全に忘れて身も心も休む事を意味する。ようするに精神を安らがせるのだ。


 無論、野球道具を持っていくなど御法度で、5人は球団側が用意したバスに乗って必要最低限の荷物だけを持って出発した。目指すは愛知県にある総合リラクゼーション施設だ。パンフレットを見ると、そこは温泉施設は勿論の事、ゴルフ場やテニスコートまであるではないか。5人には関係ないが、美容エステなるものも存在している。無論、宿泊施設もそれなりに豪華だ。


「いやあ、楽しみだな」


 AKIRAは隣に座っている石井に話しかけた。


「毎年恒例の行事だ。いくら金が無くてもオーバーホールは大事だからな」


 石井はそうだと言うのだった。プロ野球選手にとってはオフシーズンのオーバーホールが重要なのだと。確かにこの疲労感を清めるのは並大抵の事では無理だ。まして、寝だめ程度では休まらないだろう。シーズン中、怪我や疲労感とは無縁だったAKIRAでさえも、シーズンが終わると一気に疲労感が溜まったのだ。それだけ緊張を持ってシーズンに臨んでいたという証拠になるが。


「毎年って、この行事は何年やってるんだ?」


「鬼崎さんがドラフトで入団した頃からの伝統行事らしいぞ」


 プロ野球歴30年の石井ですらまだ入団していない頃から毎年続けていると言うのだ。無論、AKIRAはこの世に生まれてすらいない。


「そんなに長いのか」


「そうだな。歴史は半世紀以上ってところか」


 その期間、プロ野球とメジャーで活躍している鬼崎さんはどんな体をしているのかと不意に疑問に思う。まして彼は70歳を超えた高齢だ。疲れを溜めない秘訣があるのだろうか。


「そこまでして選手に気を遣ってくれるのはありがたい」


 AKIRAは心から感謝していた。こんなペーペーの自分でも連れて行ってくれるのだから。むしろ感謝してもしきれない。


「そうだな。こっちはタダで体を休めるんだから、感謝しないとな」


 二人は某狩猟ゲームをしながら、会話をしていた。このゲームは通信プレイが盛んで、全国のプレイヤーとパーティーを組んで様々なモンスターを狩る事が出来るのだ。二人はインターネットに接続して、全国の皆様と狩りに出かけている。無論、二人がプロ野球選手であることは秘密にしている。このゲームは全国的にヒットしているゲームなので、二人もきっと知らないだけで、数々の有名人とパーティを組んで狩猟に出かけているのだろう。まさに皆が一つになって遊べるゲームだ。


「しかし、アンドリュー・ショルダーが退団したのは痛いな」


 AKIRAは剣を薙ぎ払いながら、口にしていた。アンドリュー・ショルダー退団の事を。


「優秀な外国人選手だったのにな」


 今年はシーズンの途中から参加したのにも関わらず、打率は.303でホームランを30本も打っている。規定打席に到達せず、しかも休み休みでこの成績を叩きだしたのだからさすが元メジャーリーガーと言ってもいいだろう。しかし、ショルダーは日本の人工芝に適応することが出来ず、今年メジャーの某球団とマイナー契約を結んだ。日本に染まって性格も良くなったショルダーはマイナー契約だが何とかアメリカに復帰することが出来たのだ。これは応援してあげないといけないとAKIRAは胸の内に思っていた。


「いくら優秀でも、人工芝が主流の日本では居場所がないな。向こうは天然芝が主流だと此方は聞いている」


 今年は膝や腰の怪我が多くて、何度も何度も一軍と二軍を行ったり来たりしていた。メジャーでは怪我をしないので有名な選手がだ。彼の居場所はある意味、メジャーリーグにしかないのだ。


「仕方ない。彼の分まで俺達も頑張ろう」


 モンスターの頭に打撃をぶち込みながら、石井はそう言っていた。


「目指すは日本一だ」


「大きく出たね。さすがAKIRA君だ」


「長らく経験していないのだろう?」


「そうだな。鬼崎さんが日本に帰ってきた10年前を境に日本一どころかクライマックスシリーズにも出場していない」


 鬼崎喜三郎は1年だけ日本球界に復帰していた。すると、鬼崎は代打だけで40ホームランを放って、堂々とメジャーリーグに復帰したのだ。まさに伝説の二文字が良く似合うバッターだ。


「皆で行こう。あの舞台に」


 AKIRAはそう決意するのだった。



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