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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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043  ドラフト会議


 10月23日。この日はどの球団にとっても待ちに待ち続けていたドラフト会議が開催される日程だ。午後16時53分から開始され、高校生、大学生、社会人の三組の中で将来的に有望な選手が獲得される。他の球団でも若手の選手の活躍は期待されているが、その中でも阪海は特に期待されていた。何を隠そう、去年は渡辺明という球界の宝を引き当てて、今年は新人王や盗塁王を獲得して波に乗っている。そんな訳で今年もワーグナー監督のクジ運が期待されていた。


 石井軍団の三人は、AKIRAが住んでいる寮に集まって、テレビに釘づけになっていた。なんせ、ここから同僚になるチームメイトが指名されて入団するのだから。選手たちも妙な緊張感を醸し出して、手に汗を握っている。


「いよいよ始まるな」


 石井も緊張した面持ちでテレビを見ながら、AKIRAに話し掛けてきた。


「去年、この舞台に立たせてもらったがそこまで緊張しなかった。例えるなら高校面接程度か。だが、今はそれ以上に緊張している」


「ああ、俺様もだ」


 石井、AKIRA、光太朗の三人はいずれも高卒で入団したメンバーなのだが、ドラフト会議を見るだけで高校面接よりも緊張するのだという。一瞬大げさだと思うが、これにはきちんとした理由があった。ワーグナー監督が勝ちに拘り過ぎて、とある禁忌を起こさないか心配だったからだ。その禁忌とは。


『第一回選択希望選手 阪海 知念恭二 外野手』


「やっぱりかよ!」


 三人は同時に声を出して、テレビの前で騒ぎ始めた。普段温厚な筈の石井に至っては缶ビールを開けて、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み始めたではないか。それも悪い顔をしながら。


「こうなると思ってたんだよ」


 石井は首を横に振りながら両手を挙げてお手上げ状態だった。それは他の二人も同じで一気に疲れた表情を見せている。


「あんな暴れ馬を獲得してどうするのだ。監督は」


 それは今年の高校野球決勝戦で起きた事件だ。この知念恭二という男はあろうことか審判団に許可なく、試合中にサングラスを着用していた。それだけならまだいいのだが、おまけに試合中ベンチでスマホをイジリながらツイッターをしているという事態が全国で放送されてしまったのだ。しかしこれだけではない。極めつけは打席で起こっていた。知念恭二が右打席に入ると、その瞬間にすっぽ抜けたボールが頭部スレスレで通過したのだ。知念はそれに腹を立てて激怒し、バットを投げ捨ててマウンドに駆け寄り、ピッチャーの頬にグーパンチをお見舞いした。


 これらの散々たる態度がメディアが見逃すことも無く、連日のように知念を批判するニュースが流れていた。これにより世の奥様方やプロ野球関連のお偉いさんにも冷たい目で見られて、知念をドラフト指名してはいけないという空気が流れていた。


 だがだ。知念は性格こそ悪いかもしれないが、高校時代に叩きだした成績は群を抜いていた。高校通算で打率.401、71ホームランという圧倒的な数字だ。今回のドラフト会議では一番の成績である。これを見逃さないのがワーグナー監督だ。彼は世間の目やチームメイトの声などを一切気にせずに、強行手段に踏み切った。向こうからしてみれば強行でも何でもないかもしれないが。


「おいおい、さすがに誰も獲ってないぞ」


 他の球団たちはまるで空気のように知念を取り扱っているらしく誰も獲得しようともしない。そのおかげかどうかは不明だが、即戦力クラスの高卒野手を獲得する事に成功した。本来ならば涙を流して喜ぶところだが、生憎今回に限っては絶望的だった。あんな選手がいればチームの空気が悪くなる筈だからだ。光太朗が改心する前ですら、平気で20連敗以上するのだ。もしも評判通りのプレーをしてしまえば、即罰金になってしまう。


「これで決まったな。知念がドラフト一位で入団だ」


 石井が言うと通り、特に競合することもなく無事に知念を獲得することに成功している。これが吉と出るか凶と出るかは不明だが。


「マジかよ。どうすんだアイツ」


 光太朗はとたんに緊張の紐が解けたのか、元の鋭い顔つきに逆戻りした。


「どうやら、俺達のチームは暴れん坊と所以のあるチームらしいな」


 AKIRAは光太朗の目を見ながらそう言った。


「なんだよ、俺様に言ってるのか」


「まあ二人共。ここは落ち着こう」


 たまにはザ・キャプテンらしき行動も見せてくれる。二人の間に割って入って、一触即発状態を止めてくれた。


「言っておくが、こいつの才能はピカイチだ。必ず来年は一軍に上がってくるだろう。つまり、俺達のライバルってことだ」


 AKIRAはセンター、光太朗はレフト、石井はショートだがいつ外野にコンバードされるか分からない歳だ。それ故に、三人のライバルになると言うのだ。


「甲子園で見ていたが、奴は投手も務めていたな」


「投手として疲労が溜まった時はライトを守っていた」


「つまり、また監督は投手としてではなく打者として獲得したってことか」


 知念は150キロの速球を投げる本格派右腕として甲子園に殴りこんだ。公立の弱小

高校を持ち前の統率力で見事甲子園優勝に導いた立役者だ。しかし、またもや監督は投手として名を轟かせた男を外野で獲得していた。


「圧倒的に先発が足りないのに、外野で獲得して大丈夫なのか?」


 さしもの石井も不安に思っているようだ。


「どうだろうな。その辺はGMゼネラルマネージャーに任せてるとか?」


 それがAKIRAの意見だった。野手は監督が目をつけて、投手はGMに任せているのだと。実際、ワーグナーは野手を発掘するのは得意だが、投手発掘に関してはまるで素人だ。シーズン中に48歳の中国人投手を連れてくるという大胆不敵な真似をしてくれた。無論、その投手は今シーズンづけで退団となった。


「それだと、トレードとかFAで獲得するってことか」


 オフシーズンは選手の移籍が頻繁に行われる。自チームのエースピッチャーと他チームの4番打者がトレードされるのもなんら珍しくない。だからこそ石井のように阪海一筋30年というのは貴重な存在だ。しかし、本人の地味過ぎる風貌でスター性はまるでないのだが。


「以前は貧乏球団だったが、今は金を持ってるからな。上手く誤魔化せば他球団の選手を引っ張れるかもしれない」


「2年前はドラフトで選手と獲得する金も無かった」


 そこまで貧乏だったというのだ。しかし、謎の覆面男ワーグナーが監督になってから急に羽振りが良くなって、今では球団で一、二を争う程の金を生み出している。今年はAKIRAのキャラクターとスター性のおかげで客数が爆発的に増え、グッズも飛ぶように売れた。噂によるとAKIRA1人で8億円を稼いだとも言われている。


「こうしてドラフトで選手を獲得するだけでありがたいってことか」


「ああ。今までは戦力外になったオッサンを獲得するだけだったからな。所謂合同トライアウトが俺達にとってのドラフト会議って訳さ」


「絶望的なドラフトだな」


 他球団で使い物にならなくなった選手がほとんだが、たまに守備が上手くても打撃が下手という選手が戦力外になったりする。その選手をメインに獲得していたというのだ。と言っても年齢は30前半の選手が多かったりするので、打撃開花は無いと言っても過言ではない。


「しかし、今年はたくさんお金を稼いだはずだ」


「ああ、今度こそ期待が持てるぜ」


 こうして、三人は知念入団という最悪なニュースと向き合いながらもオフシーズンの補強に期待するのだった。



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