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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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042  諦めない心


 10月5日。この日は阪海ワイルドダックスの最終戦が行われていた。チームは首位と30ゲーム差を放されて最下位が確定している。しかし、それでも阪海ファンの多くが球場に足を運んでいるため、最後まで抜かりなくプレーする事が大事だ。


 中でも人一倍燃えていたのが石井だった。石井はチームを鼓舞して『最後まで気を抜くな』と訴えていた。ところが、そんな石井の熱意とは裏腹にチームは最下位という逃れられない屈辱感に耐えきれず、怠慢とも取れるプレーを連発していた。内野ゴロになると諦めて一塁までゆっくりと走ったり、キャッチャーも弱気なリードをしていて投手が撃ち込まれる羽目になる。


 結果、5回表の攻撃が終わって15対0という赤っ恥もいいところの結果になっていた。これではファンを悲しませるだけだと、石井軍団の三人は激怒していた。中でも声を荒げていたのは一番新人のAKIRAだった。彼はファンの大切さを知っているので、こんな恥ずかしいプレーを観客に見せてしまったことを悔やんでいる。だからこそ、怠慢を平気な顔で行っているチームメイトを許せないのだ。


 AKIRAが感情をむき出しにして怒るのは滅多にない。普段は温厚で大人しいのだが、やはり外見がプロレスラーも裸足で逃げ出すようなゴツイ体つきをしているので、いざ怒るとなるとチームメイトは委縮して、蛇に睨まれた蛙のように大人しくなっていた。18歳の少年に怒られて、だいの大人が泣きべそをかいているのだ。それだけ、自分達がやってきた不甲斐ないプレーに嫌気がさしたのだろう。


 こうして、AKIRAによる説教のおかげでチーム内がまとまりを見せるようになった。6回の表では今季で退団を決意したアンドリュー・ショルダーが、一塁と二塁の間を抜ける打球を横っ飛びで掴み取り、ファインプレーで場内を沸かせた。


「よう、取ったで!」


「来年はメジャーで頑張ってくれ!」


「あんたの侍魂は日本人にも劣らないぞ!」


 阪海のファンは両極端だ。このように観客を沸かせるプレーには大絶賛を送る。良い意味で、感情が激しいのだ。



「3番、センターAKIRA」


 6回の裏、AKIRAに打席が回ってきた。最後の最後まで自分の仕事をきっちりとこなそうとする意識がプロには必要だ。無論、AKIRAはこの打席でもヒットを打つことしか頭にない。最終戦だからと言って気を抜くのは言語道断だった。


「ストライーク!」


 相手投手が投げる落差のあるカーブを見送った。一球目から手を出そうと思ったが、思っていたよりも変化量の高いボールが来たので見送ることしか出来なかった。下手に振って、打ち上げてしまうよりかはマシだと、一瞬の内に判断した。


 二球目のボールは速球だった。しかもAKIRAにとって最上級に打ちごろの甘いコースに飛んでくる。AKIRAに130キロ中盤のストレートを投げることがどれだけ危険で、どれだけハイリスクなのか投手陣は分かっている筈なのだが。


 しかも、大好物のインコースに投げ込まれているではないか。これはもらったとAKIRAはフルスイングをして強引に引っ張った。


 ガギュウウウウウウンンンン!


 とてつもない轟音を立てながら打球はスタンドに叩き込まれた。最近までミートポイントを向上させるために軽打狙いをしていたせいか、しばらくぶりのホームランだった。


「ウオオオオオオオ!」


 阪海ファンは両手を挙げて喜びをあらわにしていた。おばさんとおじさんの夫婦らしき人物が肩を抱き合って、ピョンピョンと跳ねている姿が、ダイヤモンドを周るときに飛び込んできた。やはりファンの嬉しそうな表情を見ていると、こちらまでホッコリとした気分になって、最高に嬉しい。AKIRAにとっては人が喜んでいる姿を見ているのが一番幸せな瞬間だった。だからこそ、頑張れると言っても過言ではいない。


「やったなAKIRA!」


 チームメイトたちとハイタッチを交わした後、最後に石井が待ち構えていた。その隣には光太朗も立っていて両者ともに満面の笑みを浮かべている。


「さすが、俺様が見込んだだけの男だぜ」


 石井と光太朗もまるで自分の事のように祝福してくれる。やはりホームランを放った時は自分の居場所はここなんだなと改めて再認識される瞬間だ。


「石井先輩の最後まで諦めない気持ちが俺に乗り移っただけさ」


「ふふ、ちゃっかり先輩を持ち上げやがって。可愛いんだから!」


 石井軍団の三人は肩を抱き寄せあって、小躍りを披露した。それはまさに喜びのダンスと言えよう。あれだけ人嫌いだった光太朗もすっかり改心して、今ではチームメイトと目を見て会話をする程の成長が見られている。そんな光太朗はあの日の決闘以来、AKIRAに心を奪われてしまい、自分から練習に誘ってくるようになってきた。AKIRAは人から好かれる能力も天才的なのだ。実際、どこの新聞記事を見てもAKIRAを批判する声は見当たらない。それどころか常に絶賛されているのだ。メディアが厳しいと言われるプロ野球界で、これは異例中の異例。


「さあ、この調子でどんどんいくぞ」


「次は4番のショルダーだ。続けよ」


 そう言いながら、石井はネクストバッターボックスに行くのだった。



 ◆



 こうして、試合は激しい乱打戦を繰り広げて最終的に18対21で阪海がサヨナラ勝ちした。それもAKIRAの満塁ホームランでだ。これには各局の報道班が黙っておらず、大々的なニュースで報じていた。特に9時55分から始まるニュース番組ではAKIRAの等身大パネルが用意され、まるで世界を救ったヒーローかのように取り上げられているではないか。


 AKIRAはその野球ニュースを石井と一緒にスマートフォンで閲覧していた。後ろでは光太朗がニヤニヤと笑いながら覗き込んでいる。愛しのAKIRAが全国放送で大絶賛されるところを目の当たりにして、嬉しくてたまらないのだろう。


「おい、てめえが主人公みたいな扱いになっているぜ」


 満面の笑みだ。満面の笑みを浮かべて幸せそうな顔をしていた。


「よしてくれ。みんなが繋いでくれたおかげだ」


 自分だけではなく、他の皆も報じてくれと願っていた。心優しきAKIRAは自分だけが勝利に貢献したかのような報道の仕方に納得できないのだ。


「何言ってんだ。お前が勝利を決めたんだぜ!」


「そうだ。もっと喜びな!」


 しかし、2人の心底喜んでいる姿を見て、AKIRAも段々と幸せな気持ちになっていった。中学時代や高校時代は常人とかけ離れた成績を残し、あまりにも筋骨隆々な姿から、誰も近寄ろうともしてこなかったのだ。しかし、ここに来てAKIRAは普通に人と交流が出来て、恵まれた人付き合いも出来ている。何よりもそれが嬉しかった。


「そうだな。ありがとう、2人共」


 こうして、AKIRAの1年目のシーズンは幕を閉じた。しかし、まだこれはほんの入り口に過ぎない。これからAKIRAは様々な困難に立ち塞がり、試練と真正面に向き合う未来が待っているだろう。その度に這い上がってくれる事を期待して、彼の野球人生を見守り続けたいと切に願う。






 渡辺明18歳、1月21日生誕。

 身長202㎝ 体重113㎏

 左投げ左打ち

 ポジション センター、ピッチャー



 野手成績


 144試合

 打率.297 164安打 45本塁打 129打点 75盗塁


 最優秀新人賞 オールスター選出 ベストナイン ゴールデングラブ賞

 最多盗塁 月間MVP3回


 打率……リーグ10位

 安打数……リーグ11位

 本塁打数……リーグ2位

 打点数……リーグ2位

 盗塁数……リーグ1位



 投手成績


 防御率4.40 勝利数7 38奪三振  5完投





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