041 スーパースターへの階段
「い、いらっしゃいませ!」
三人は血相を抱えて飛び込んだので、店員が驚いた様子でこちらを見ていた。
「警察を呼んでくれ、大至急だ」
「分かりました……って、AKIRA!」
目の前にスター選手がいることで、店員の目がよりいっそう丸くなっていた。
「サインはこの事態が終わってからだ。とっとと警察を呼んでくれ」
「はい、只今!」
店員が電話をしようと奥の部屋に向かった瞬間だ。突如にして窓ガラスが撃ち込まれて次々と割れていく。しかも粉々にだ。
「ヤバい、見つかったぞ」
三人は一番奥の棚に身を隠すのだが、凄まじい数の銃弾が飛んできて、商品をめちゃくちゃに破壊している。
「なんだよ、これ!」
「知らん、俺にも何がなんだか……」
石井は姿勢を低くしてかぶりを振っていた。
「一人やってくるぞ……裏に周る」
AKIRAはこんな時こそ冷静さを失ってはいけないと思い、中腰の姿勢で歩き始めた。すると、顔を黒い布で隠している奴が一人入ってきて、店内を捜索し始めた。AKIRAはその男の背後に忍び寄って、ガツンと一発後頭部を殴りつけた。
「ぐはっ!」
男は声を上げて、倒れた。AKIRAはその男から銃を奪い取り、店内から出てクリアリングを開始した。その要領で物陰に隠れると、人影が近づいてくるのが見えたので、AKIRAは牽制を開始した。
奪い取った銃を使って、近づいてくる人間たちに鉛玉を飛ばしていた。すると、男達は慌てふためいている様子で背中を向けて逃げていくではないか。
「ふう」
これ以上追う必要はないと感じたAKIRAは店内に戻って、震えている二人に安全を伝えた。石井はその一言で安堵したのか、AKIRAに抱きついてきた。
「おお、良かった。無事だったか!」
「俺が死ぬわけないだろう。そう簡単にな」
「くそったれ、なんでこんな目に!」
光太朗は怒り心頭のようで、伸びている男に近づいて、黒い頭巾を乱暴に脱がせた。瞬間、光太朗の手が止まって、男を見続けているではないか。不思議に思ったAKIRAは光太朗を呼びかける。
「おい、どうした? 狐につままれた顔をして」
「俺はこいつを知っているぞ。それに御前も知っている筈だ」
「なんだと」
AKIRAが伸びている男の顔を覗きこむと、確かにその男に見覚えがあった。二人で決闘をしていた公園にやってきたツイッター絡みの連中だ。特徴的なモヒカンをしていたので、まだ記憶の中に残っていたのだ。
「こいつら、まさか仕返しに?」
「確かめる必要があるな」
話しを聞いていたのか、石井が後ろからペットボトルを持ってきて、飲料をその男の顔にびちゃびちゃとかけているではないか。
「ごほごほごほ!」
男は咽かえりながら起き上がったと思うと、石井が馬乗りになって男の首根っこを掴んだ。
「てめえ、俺の可愛い後輩を危険な目に遭わせやがって!」
「ち、違うんでさあ! 俺は雇われただけで!」
「誰に雇われた! 言え! さもないと」
石井はAKIRAから銃を奪い取って、男の額に向けた。男はとたんに涙を浮かべながら必死に命乞いをしていた。
「クレイジーオクトパスの監督に雇われました」
「……成程、そういうことか」
石井は納得した様子で、今度は男の顔面を殴りつけた。男はそれで再びノックダウンして気絶してしまった。
「おい、どういう事だよ。一体何が起きてるって言うんだ」
光太朗は恐怖からか取り乱していた。
「狙いはお前じゃない、まして俺でもない。AKIRAだ」
こちらの目を見ながら、そう言っていた。
「俺だと?」
「そうだ。クレイジーオクトパスの監督はプロ野球界のタブーに敏感な男で、タブーを破りそうになっているお前を殺しにきたってわけだ。文字通りのイカレ野郎だぜ」
「野球界のタブーを俺が破りそうになっている?」
「高卒一年目の野手で新人王を獲った者は野球界で一人しかいない。それは現人神と名高い鬼崎喜三郎さんだ。あの人が現役でいる限り、高卒一年目の野手が新人王を獲得してはいけないとされている」
野球界には多くのタブーがあると言われているが、AKIRAは無意識にそのタブーを破ろうとしていたのだ。もちろん、これは誰かが勝手に決めたタブーなので破っても構わない。しかし、今のような報復をされてしまうと言うのだ。
「そんなバカな」
「いいや、あの監督は鬼崎さんに心を奪われている。彼ならやりかねんだろう」
「好きな選手の面子を守るために、俺を殺そうとしたのか」
「だが、ツケは払って貰う。今後このような事件が起こらないためにも、あの監督には法の裁きを受けさせるさ」
その翌日、世間は騒いでいた。クレイジーオクトパスの監督が殺人未遂の疑いで逮捕されたからだ。しかも、AKIRAを狙ってという事だからか、ネットでも大騒ぎになっていて、AKIRAのツイッターには心配と不安の声が殺到していた。何を隠そう、あの店員が店内の写真を撮影していて、それをインターネットに流していたからだ。当然、それでフォロワー達はAKIRAが銃撃戦に巻き込まれた事を知っていた。
ファン達はAKIRAの無事を心から安堵していた。そして、この事件がきっかけにAKIRAの知名度は更に高くなり、名実ともにスーパースター選手になろうとしていた。暗殺事件に巻き込まれて生還したプロ野球選手など、長いプロ野球の歴史にも一人としていない。この事件を切っ掛けに、今後AKIRAのファンは爆発的に伸びるであろう。
そして、ファン達に護られるようになって、AKIRAの命を狙おうとする者は出てこなくなるはずだ。そうなることで、故意死球も減少していき、これからはきっとフェアな試合が出来るだろうと、AKIRAは心から喜んだ。




