040 襲われるAKIRA
各球団はAKIRAの猛撃を躱すためにありとあらゆる対策を練っていた。しかし、持ち前の野球センスと恵まれた環境を生かして、その網をかい潜って来たのだ。そのせいかどうかは不明だが、二年目のジンクスが後半戦に訪れるという異常事態が発生していた。無論、AKIRAはそれさえも打撃フォームの改善で潜り抜け、もはや打つ手なしの状態だった。
ここまで来れば他球団の監督としては怪我をしてくれる事を願っていることだろう。かつて矢部という捕手がブラッシュボールばかりを投げてきて、当てる気満々のリードを取っていた。それによりAKIRAは矢部のリードだけで17個の死球をぶつけられて、うち9つが頭部死球という冗談にはならない殺人級のリードをされていたのだ。しかし、矢部はとある事件で改心をして懺悔の道を歩んでいる真っ最中だ。もう、AKIRAにこのような悪意あるリードをとってくる捕手はいないかに見えたが、知らないうちに死球擦れ擦れのボールが増えるようになってきた。それにともなって四球も増え、いつのまにかAKIRAの四球数はリーグトップにまで登り詰めていた。
本来なら積極的に打つスタイルなのだが、投手陣たちが逃げの姿勢で戦っているもんだから、まともに勝負してもらえない回数が増えて行った。もちろん、AKIRAとの真剣勝負を望む投手もいるのだが、その投手達は相次ぐ故障で二軍落ちを余儀なくされていた。
残ったのは逃げ腰の投手ばかりだ。これではAKIRAのモチベーションなど保たれる訳がない。次第にAKIRAは四球で歩くのが当たり前になっていく。
当然だが、地元ファンは怒り狂っていた。AKIRAのホームランを一目見たい、AKIRAががむしゃらにバットを振っている姿が一目見たい。そんな思いで球場に身に来るファンの人達が大勢いるのだ。
観客動員数も去年に比べて10倍増えて、あれほど閑古鳥が鳴いていた阪海球場が連日満員という嬉しい悲鳴を上げていたのだ。ところが、こうも四球続きになっていてはファンも良い思いはしない。
AKIRAの打席では野次が増えるばかりだ。もっとも矛先は相手投手に向けられているのだが。
「へぼピッチャー!」
「ストライクを投げろ!」
「18歳の小僧に気持ちで負けていいのか!」
投手からしてみれば、下手に勝負するよりも歩かせた方が得策だった。しかし、こうもブーイングが多くてはボール球を投げにくい。ひとまずストライクを一球投げようという魂胆のボールが、真っ直ぐに飛んできた。
「こいつを……待っていた!」
AKIRAは歓喜の声を荒げながら、バットをフルスイングさせた。すると、ボールとバットが激突して渾身の一撃がライト方向に延びていき、そのまま阪海ファンのまつスタンドに叩き込まれた。
「ウオオオオオオオオオオ!」
実に10試合ぶりのホームランでファン達もボルテージが上がっていた。敵側のファンさえも悦びの声を出しているのだ。もはやAKIRAはこの歳で国民的スターの階段を登っている。弱点は無く、まったく非の打ちどころがない。
こういった選手の対処法を監督達は知っていた。今まで面子のために敢えてしていなかったのだが、このままではAKIRAがとあるタブーを犯してしまう恐れがあるため、一派の者達が裏で活動を開始していた。
◆
「いやあ……今日のホームランは最高だったな」
石井の車には光太朗とAKIRAが乗っていた。後輩思いの石井が二人を連れて、いつものスナックに行こうとしているのだ。車の中ではAKIRAのテーマソングがひっきりなしに流れている。とあるアイドルグループの歌なのだが、AKIRAはそのアイドルグループの熱狂的なファンだ。石井に勧められて聞き始め、それ以来彼女達の虜になっている。
「まったくだぜ。やっぱAKIRAはホームランが良く似合う!」
あの一連ですっかり仲よくなった二人だった。しかも光太朗は石井にも心を許して、今では石井軍団の若頭として派手に暴れ回っている。もちろん、良い意味で。
「若い奴は元気が有り余ってていいな」
「何言ってやがる。一番元気なのは石井さんだろうが」
「ガハハ、そいつは違いない」
三人は幸せそうに歌を合唱しながら目的地まで走っていた。ところがだ。急にユラユラとした物体が飛んできたと思うと、それがこちらに近づいてくるのだ。
「ヤバい、RPGだ!」
AKIRAが叫ぶと、車は急停車して寸前のところで最悪の事態を回避した。後ろでは標的を失った弾が木に当たって、大爆発していた。それは車内にも響き渡る程の轟音で、三人は思わず耳を塞いだ。
「車を捨てるぞ!」
石井の声と共に、三人は車から降りて夢中で走った。後ろからは銃撃が聞こえてきて、明らかに三人を殺しにかかっているのだ。それでもなんとか銃弾の網をかいくぐって、近くのコンビニに避難した。




