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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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038  事件勃発


 左打ちのバッターは一塁に近いため、足が速ければ内野安打になりやすい。この日もそうだった。AKIRAは三番センターとして試合に出場している。相手先発投手はボンバーズの谷だ。いつも速い球に慣れているAKIRAは谷の奇妙な投げ方と最速125キロのボールに翻弄されつつも、なんとか食らいついてバットに当てた。



 ボテボテボテ。



「!」


 しかし、ボールはゴロで一塁と投手の間に転がっていた。足の速いAKIRAは死にもの狂いで疾走し、ギリギリのところで何とかセーフをもぎ取った。打撃や守備だけではなく、こういった走塁技術も兼ね備えているのだ。一塁に立っていると、ボンバーズの助っ人外国人が話しかけてきた。何やら訛りのあるスペイン語を話しているようだが、マルチリンガルのAKIRAはすぐさま内容を理解して、流暢なスペイン語で返していた。


 内容はこうだった。『そんなに体がデカいのに良く走れるな』と。どうやらこの外国人選手の話しを聞いていると、彼はドミニカ出身の一塁手で自慢のパワーが持ち味で来日したらしい。ホームランもたまに打つが、その分ゴロが多くて困っている。そこでAKIRAのように足が速ければ内野安打で出塁出来るのになという愚痴だった。


 そしてAKIRAはこう返した。『自分は中学時代に陸上をしていたから足が速い』のだと。するとその外国人選手は目を見開いてオーバーリアクションをしながら爆笑していた。どうやらジョークだと思われているらしい。


 ビシュ!


「!」


 牽制球だ。話をしている時に牽制球が送られてきたのだ。AKIRAは反射的に一塁に戻ったのだが、あやうくアウトになるところで冷や汗をかく。谷が12球団で1番を争う程、牽制が上手いというのが頭の中からスッポリと抜け落ちてしまっていた。


「ペラペラぺらぺーら」


 外国人バッターも『奴の牽制には気を付けな』と小声で呟いてきた。どうやらこの選手はAKIRAに惚れてしまったらしい。敵チームの選手にも関わらず、まるでスパイのように耳打ちしてくるのだ。どれも全く参考にはならない事ばかりなのだが、それでも暖かい言葉を背中から貰っている。


 ここまで来ると、この選手の喜ばせるのは一つしかない。谷がボールを投げた瞬瞬間、二塁に向かって勢いよく走りだした。まるで猪突猛進のイノシシのように真っ直ぐ走り抜く。


 キャッチャーの返球より少しだけ早く二塁に到達した。泥臭いが、取り敢えず二盗に成功した。そう思った次の瞬間。


「アウト!」


 審判の片手が挙がった。


「!」


 さすがのAKIRAも仰天して暫く言葉を失って佇んでいた。すると、審判がAKIRAを睨みながら『早くベンチに帰れ』という眼差しを送っているではないか。これには信じられないといった様子で首を横に振ってしまう。


「どうした? 早くベンチに帰りなさい」


 言葉だけは優しそうに聞こえるが、審判は確実に苛ついているだろう。こめかみを疼きながら、眉毛もぴくぴくと動かしているのだ。


「あ……あれはセーフじゃないのか?」


「私に口答えをしないでください。さ、帰った帰った」


 AKIRAは納得できなかったが、渋々ベンチに戻って行った。すると一番に石井が歩み寄ってきて声を出していた。


「どんまいどんまい。誰だってミスはあるさ」


「……いや、俺はミスをしていない。ミスをしたのは審判さんだ」


「審判も人だからな。ミスはする」


「そうだな。切り替えよう」


 石井の一言で何とか冷静を取り戻した。しかし、これは前兆に過ぎなかったのだ。次の打席、すっぽ抜けたボールを頭部に直撃したAKIRAはガツンという脳が振動する音が頭の中で聞こえて、地面に倒れ込んだ。記念すべき20死球目だったのだが、こんな記録で喜んではいられない。AKIRAは気力で立ち上がって一塁に歩き始めたのだが、どうも様子がおかしい。違和感を感じたまま一塁ベースに立っていると、またしても外国人選手が話しかけてきた。


「ペラペラペラペラぺーら」


「!」


 ようやく気が付いた。谷が危険球退場をしておらず、平気な顔でピッチングを続けているのだ。これだけだと谷が悪いように思えるが、本当に悪いのは危険球退場のコールをしていない主審だった。


「あの危険球野郎を退場させろ!」


 耳を澄ますと、球場からは罵声と混乱の声が響き渡っていた。頭部死球を与えたのに退場させないのは何事かとだ。ただでさえ熱い阪海ファンは怒り狂っていた。


 こうしてAKIRAはこの試合で不可解なジャッジを受けて5打数1安打に終わった。それに、どう考えてもボール球だったのにストライクと判断されたりと散々な程に。これはおかしいと感じたAKIRAが、ためしに自分の名前をツイッターで検索してみると、案の定、審判を批判する書き込みが多数見られた。


「今日の審判さん、何か無愛想だったんだよな」


 と言って、いつまでも気にしていてはしかたないので、寝て忘れることにした。




 すると翌日の朝、AKIRAの耳に信じられないニュースが飛び込んできた。


 いつものように朝のテレビをつけていると、ボンバーズの投手コーチが逮捕されたというニュースが流れてきた。あまりにも衝撃的なニュースにテレビにかじりついて見ていると、昨日の審判団も一緒にお縄になっているではないか。


『ボンバーズの一軍投手コーチである鈴木容疑者は審判団に賄賂を渡して、特定の選手に誤審をするように要求した事が分かりました。鈴木容疑者は大筋の容疑を認めており、警察側の事情聴取を素直に応じているとの事です』


「賄賂……だって?」


 スマートフォンの着信音が部屋に鳴り響いた。それは石井先輩からだったのでAKIRAは急いで電話に出た。


「昨日の審判が賄賂を受け取って逮捕されてるぞ!」


「ああ、俺も今テレビを見て確認した」


「恐ろしい事だ。鈴木さんはきっとお前を封じる手が見つからなくて審判を買収したのだろう。過去にもそんな事件はあったが、もう50年近く前の話しだ」


「どうもおかしいと思ったら、こういうことだったのか」


「審判制度の廃止も有りあえるかもな」


「まさか、それはないだろう」


 AKIRAは散々な目に遭ってしまったが、これも1年目に驚異的な成績を叩きだしている反動なのだとポジティブに考えることで、なんとか心のモヤモヤを晴らすAKIRAだった。




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