032 ホームラン競争
ついにオールスターが始まった。無論、新人で20本もホームランを放っているAKIRAは必然的に選ばれる形となり、101万票を獲得してリーグトップの投票数を叩きだした。ここからAKIRAへの待度とスター性がうかがえる。
他に阪海から輩出された選手は2名。ザ・キャプテンの石井と助っ人外国人のアンドリュー・ショルダーだ。両者ともにシーズンの疲れが出ているのか絶賛浮き沈み中なのだが、それでもオールスターには選ばれていた。
「ここが、オールスター初戦の舞台か」
愛媛県の芭蕉スタジアムという球場がオールスター初戦の舞台だった。そこでは最初に国家独唱を行った後、始球式があり、その次にホームラン競争が始まる。第一戦目のホームラン競争はAKIRA対バリーから始める。バリーはラ・リーグのジャイアントスネークという球団の助っ人外国人で、ホームラン数は15本打っている。鎖骨まで伸びた髭がチャームポイントのオジサンだ。そのバリーとAKIRAは対戦するのだ。
「お互いに全力を尽くそうゼ」
バリーが握手を求めてきたので、AKIRAはそれに応えた。そして、ホームラン競争は幕を開けた。スタジアムの大歓声がAKIRAの鼓動を高める。オールスターは夢の舞台でもあるため尚更緊張しているというのに、地響きのような応援を全身から受けているのだ。男なら魂が震えないわけがない。
バッターボックスに立つと、独特のフォームで打席に立った。日本人打者というよりも外国人打者に近いフォームだ。この場合はトップハンドトルク打法と言うべきだろうか。
第一球目。当たり前だが真ん中のストレートを投げ込まれた。そのボールに体全体を使って振り切ると、ジャストミートした当たりは場外へと消えて行った。推定記録は170メートルといったところか。これには観客もどよめきを隠せないでいた。
何を隠そう、AKIRAはオーダーメイドで造ってもらった98センチと1450グラムの最重量球のバットを使っているため、ど真ん中のストレートをジャストミートさえすれば飛距離は簡単に出てしまう。しかし、このバットは重たいのが弱点なので、変化球で緩急をつけられてしまのが課題となる。
カキーン! カキーン!
2球目、3球目と150メートル越えのホームランを連発させると、球場内のボルテージは最高潮に上がっていた。ただでさえ高卒ルーキーがホームラン競争をしているというだけでマスコミが注目しているのに、150メートル以上の飛距離を出すとなればファンも大喜びだろう。AKIRAが見える範囲の中では、おばちゃんが鼻水と涙を垂れ流して嗚咽を漏らしていた。久々に日本人パワーヒッターが出てきたという事実に感激してしまっているのだろう。顔だけで判断するのは申し訳ないが、外国人を嫌ってそうな顔立ちをしているのだ。当たり前だが、カメラのフラッシュも眩いほどに焚かれていた。
4球目は惜しくもピッチャーライナーだったが、5球目に滞空時間13秒の大飛球を打ち上げて、違う意味で球場を騒然とさせた。いつまで立っても落ちてこないので、AKIRA自身も不安になってしまうほどだ。
5球目、6球目、7球目は連続でスタンドに運ぶ。どれも場外では無かったがボールは弾丸ライナーで飛び込んで行った。これでホームランは6本だ。
8球目、9球目はヒット性の当たりだったが、これはホームラン競争なのでヒットは加算されない。そして運命の10球目が来た。終わりよければ全て良しという言葉通り、AKIRAはこれまで以上に全力で振り抜いて三振覚悟でフルスイングした。
バンッ。
しかし、ボールにはかすることもなく、バットのスイング音だけが虚しく場内に響いた。これでAKIRAのホームラン数は6本ということになる。場内は割れんばかりの声援を送っている。ところが、ベンチに戻ったAKIRAは悔しそうな表情を浮かべて、呆然と立ち尽くしていた。
「おい、どうしたよ」
心配になったのか、石井が話しかけてきた。
「もしかしたらお客さんの期待に応えられなかったかもしれない」
「何を弱気になってんだ。170メートルの場外弾を見られてきっと満足してるだろうよ。お前みたいにあそこまで飛距離を飛ばす打者はメジャーでも中々いないぞ」
「気休めはよしてくれ。俺は10本ホームランを打ってお客さんを完璧に喜ばせたかったのに」
AKIRAにはそういう計画があったようだ。
「ホームラン競争に出られるという事実だけでも凄いんだぜ。球界にパワーヒッターだと認められたという事だからな」
「そうか。確かに落ち込んでいても仕方ないな」
「大体、お前の悩みは贅沢過ぎるよ。俺もホームラン競争やってみたかったぜ」
「やったことないのか?」
「俺はホームラン王とは無縁の存在だから、声にもかからない」
「そうか。石井先輩は球界を誇るアベレージヒッター型だからか」
AKIRAはそれで納得するのだった。
「俺にもっとパワーがあれば、ホームラン数を稼げたのになと毎度のように思うよ」
「そう言いながら先輩も前半戦だけで7本もホームランを打ってるじゃないか」
「よしてくれ、たったの7本じゃないか」
「49歳にしては凄いと思うが」
AKIRAはそうだというのだった。




