029 Twitterで罵り合い
神野光太朗はもはや暴徒と化していた。野次を出しているファンを怒鳴りつけたり、荒れている外国人投手からデッドボールを喰らって激情したりと、イカレた行為が日常茶飯事になっていた。無論、そんな状態で一緒に飯を食べに行く約束など出来るはずも無かった。
「なあ、光太朗先輩」
AKIRAは光太朗に話しかける。
「またお前か。今度こそぶっ殺してやろうか」
二人は練習場で会話をしていた。
「おいおい、そんな物騒なこと言うなよ」
「要件はなんだ。早くしろ。俺様は寝るのに忙しいんだ」
光太朗は練習嫌いなので、ここ10年間野球の練習は一切していない。練習場でも寝転んでガーガーとイビキを立てて寝ていることが大半だ。後は、スマホでゲームをしてるか、タバコを吸ってるかだ。
「ツイッターフォローしておいたぞ」
「くそ! 余計な真似しやがって」
すると、光太朗は飛び起きてスマートフォンを開いていた。AKIRAは後ろから鼻筋を伸ばして覗き込んでいたのだが、光太朗の顔がワナワナと震えているのが分かった。
「どうした?」
見ると、光太朗は誰もフォローしていない。AKIRAもそうだが、他の野球選手のアカウントをフォローする気はまるでないらしい。
「誰に許可取ってフォローしたんだよ!」
光太朗が振り向きざまに睨み付けてきた。相変わらず憎悪で目が曇っている。
「フォローするのに許可がいるのか?」
AKIRAは首を傾げた。
「あったりめえよ。用もないくせにフォローしてんじゃねえぞ」
「悪かったな。お前の哲学が知りたくてな」
「ヤフーニュース見てたら分かるだろうが。俺様がどれだけ荒れてるかってことぐらいはな」
光太朗はツイッターでも現実世界でも、こんな感じだ。二の心が無いのは構わないことなのだが、一言呟くだけで炎上する性格の持ち主であることは言わずもがなだろう。平気でフォロワーに「殺す」と言って警察沙汰になりかけたことや、嫌いな選手の車を金属バットでボコボコにした画像を載せて、大炎上になったことなど日常茶飯事だ。そのためか、光太朗のフォロワー数は他の野球選手に比べても圧倒的に多い。大した活躍もしていないのに、他チームの名選手と同じぐらいなのだから驚きだ。ちなみに光太朗のフォロワー数は15万人を突破している。その半数はアンチと呼ばれる人達なのだが、日夜罵り合いと貶しあいが繰り広げられている。と言っても、ほとんど光太朗の独壇場であるが。ともかく、ネットでもそういう輩なのだ。
「なあ、ファンに暴言を吐くのは止めようぜ。俺達はファンがいないと米だって食えないんだぜ。彼らが応援してくれるから俺達の存在意義があるんだ」
AKIRAは若干18歳にして、その域に達していた。もしも明日から野球ファンがいなくなると、野球選手はとたんに無職になってしまう。だからこそファンは大切にするべきなのだ。野球選手は接客業と似た職種なのだと、AKIRAはそう理解をしていた。しかし、光太朗は違っているようだ。
「うるせえ。俺にファンなんか一人もいねえよ。いつだって一人ぼっちなのさ」
「観客にそんな態度をとるからだろう」
「餓鬼のくせに上から指図するんじゃねえよ!」
光太朗は相変わらず怒鳴り散らしていた。
「なあ、一緒に野球の練習をしよう」
「ちょっと黙ってろ。俺様は今からションベン垂れたフォロワーのガキどもの相手するんだからよ」
そう言うと、光太朗は自身への誹謗中傷で埋まっている通知を開いた。すると、口に出すのも恐ろしい程のありとあらゆるサイバー犯罪の攻撃を受けているのだ。それでも光太朗は屈せずにやり返している。どこまでも卑劣な輩だが、光太朗を攻撃しているフォロワーもまた極悪非道な奴等だった。
しかもその火種はAKIRAのアカウントにも飛び散っていた。純粋にフォロワーさんと楽しんでお喋りして、幸せな交流をしているAKIRAなのだが、何故か光太朗のアンチ共が呟きを荒らしていた。
「尻尾撒いて、お前のアカウントに逃げ込んだ様だな」
つまり、光太朗に口喧嘩で負けた鬱憤をAKIRAに向けているのだと言うのだ。とんでもない輩共だ。顔が見えないからといって調子に乗って、自分がAKIRAより上の人間なのだと勘違いした発言も多々見受けられる。しかし、AKIRAは。
「それぞれに個性が出ていて面白いな。この人達」
まったく怒っていなかった。自分のアカウントを荒らされても、表情一つ崩さないのだ。堂々とした出で立ちで、普段と変わらない何気ないツブヤキを発信している。
『今日は感性豊かな返信でいっぱいだね。やっぱりツイッターは新しい発見があるから面白い(^○^)』
AKIRAはそう呟いていた。
「!」
それに反応した光太朗はすぐさま返信した。
『だまれ。おまえバーカ』
光太朗の呟きだ。
『ツイッターで黙ったら駄目じゃん(・。・)』
そう突っ込みを入れるAKIRAだ。
「ぐううう!」
すると、光太朗は何も発信しなくなった。口喧嘩では百戦錬磨の光太朗がだ。初めてツイッター上の喧嘩で負けたのだ。
「どうした?」
項垂れている光太朗を見て、AKIRAは心配そうな表情で語りかけた。
「こんな感情久しぶりだ」
変化だ。光太朗の身に何かの変化が起きているのだった。




