027 遊撃手としてのAKIRA
練習場にて、AKIRAは内野手に交じってノックを受けていた。石井も年齢的にショートの守備は疲労感が溜まるはずなので石井が怪我をした時に、代わりとなる選手を発掘するためであって、全ての一軍選手が対象の試験のようなものである。AKIRAは最後尾に位置していた。そこから皆の守備を目で確認しているのだった。
「行くぞ」
そう言いながら、ワーグナー監督自らがノックをしていた。守備の名手である山室や一塁専門の助っ人外国人、ショルダーなども参加しているのだが、てんで駄目だった。まずキャッチングがへたくそで、ボールをトンネルしたり、キャッチしてもグローブからボールをポロポロとこぼす選手が続出している。今の所、セカンドの田中が一番いい動きをしているのだが、田中は二塁の名手として試合に出場しているため、遊撃手に起用するほどの価値は見いだせなかった。素人目から見ても明らかに二塁手の方が適正があると判断できるほどに。悪くは無いのだが平凡なのだ。
「次、AKIRA」
監督に呼ばれて、守備につくAKIRAはどことなく雰囲気があった。まるで最初から遊撃手だったかのような感じである。
カキーン!
しかも難なくボールをキャッチして、ファーストに送球した。コントロールも良く、安定感があった。監督も目を光らせているのが分かる。
「次は本気で送球してみろ」
監督はAKIRAにそう要求した。
「ああ」
すると、監督はわざと遊撃手と三塁手の間を抜ける絶妙なノックをしてきた。しかし元来足の早いAKIRAは守備範囲が広く、なんとか打球に追いつくと右グローブでキャッチし、体を回転させながらジャンピングスローで一塁に送球した。
ズバアアアアアアアアアンンンン!
まるで、キャノン砲のような豪快な送球をして一塁ミットにボールは収まった。しかも一塁手は、まるで女のように怯えた表情になっているのだ。
「素晴らしい送球だ」
監督が拍手を送ると、他の選手たちもパラパラと拍手を送り始めた。
「確かに送球はいいかもしれないが、AKIRAは左利きですよ」
監督の隣で見ていた石井がそう言った。
「それがどうした?」
しかしワーグナー監督は顔色一つ変えなかった。
「左利きの遊撃手は送球するたびに反転しなければいけないからです。今のように」
石井は、三遊間の深い当たりだと内野安打になる可能性があると言っているのだ。
「何を言っている。今の送球を見ただろう? 完璧ではないか」
長年メジャーで遊撃手を守り続けたワーグナーならではの考えだった。
「しかし、左利きの遊撃手は日本球界に一人も存在していませんよ」
「為らば、AKIRAが最初になるかもな」
「監督がそう言うなら」
「AKIRA合格だ。石井が怪我や疲労で休む時は遊撃手で起用するからな」
「了解だ」
こうしてAKIRAは遊撃手としても試合に出場する予定になった。左の遊撃手はアマチュアにはいるだろうが、プロの世界にはいない。それだけ左というデメリットは生じてしまうのだ。
「まさか、AKIRAが俺の後釜候補になるとはな」
ベンチで休憩しようとした時、石井が話しかけてきた。
「よしてくれ。ただでさえ厄介事が増えたのに」
これから、AKIRAはセンターとショートの守備練習をこなさなくてはならないのだ。とても大変であると自分自身で理解していた。
「悲しいかな。これで、打撃も守備も走塁も全部お前に劣るぜ」
それだけ遊撃手としての守備が良かったという事だ。
「何を言っている。俺は正式にコンバートするつもりはないぞ」
「遊撃手はどうしても打撃が劣るからな。お前みたいに打てる遊撃手がいてくれれば助かるというのに」
「おいおい、この前は投手一本でやれって言ってたばかりじゃないか」
某有名ハンバーガーチェーン店に二人で言っていた時だ。石井は確かにそう言っていた。
「一時的にだよ。たまには寄り道もいいんじゃないか」
「他人事だと思って……」
AKIRAはベンチに帰ってスポーツ飲料をがぶ飲みし始めた。丁度今は夏待っただなかなので、どうしても喉が渇いてしまうのだ。それに汗も尋常じゃないほど噴き出てしまう。
「170キロの弾丸を投げる遊撃手は他にいないだろ。お客さんは喜ぶだろうぜ」
石井も隣で水分補給を始めた。
「お客さんの期待に答えられればいいがな」
「なあ、お前はまだ一年目なんだから、色々なポジションに挑戦しろ。それから取捨選択して投手になればいい」
根本的な石井の考え方は変わっていないようだ。
「なんだ、結局投手に行きつくのか」
「俺は投手の方がいいとおもうけどな……」
「そこまで投手にこだわる理由はなんだ?」
「実を言うと、俺は投手入団でさ。投手の才能を持ってるお前がもったいなく思える」
「野手転向したのか」
「そういうことだ」
「それで4000本近くヒットを打ってるのか」
「正直、俺の話しはどうでもいいんだ。良く聞けAKIRA。前半戦だけで20本ホームランを打てる選手はざらにいる。しかしだ。170キロの速球を投げる選手はお前だけなんだぞ。しかもまだ発展途上だ。これから球速が上がる可能性は十分に考えられる」
石井はそうだと言うのだった。




