026 スター選手とは
スターというものは常に目立つ。どんなことをしても世間の目から逃れられることが出来ず、責任と期待を背負って一生生きていかないといけない。プレッシャーで偏頭痛を引き起こす人もいれば、呼吸困難になる人だっている。すくなくとも現役で生き続ける限り、そういったプレッシャーは何度だって訪れる。たとえ金と名誉を手に入れたとしても、精神的に休まることはない。むしろ精神が疲れてしまう。
この日もそうだった。AKIRAは某有名ハンバーガーチェーン店に石井と共に来店して大混乱になっている。噂を聞きつけた野球ファンが外に押しかけて、店内の覗き込んでいるのだ。だからこそスターには休日なんて存在しない。
「いや……参ったなこりゃ」
カメラのシャッター音がひっきりなしに轟く。AKIRAがハンバーガーを食べているところを写真で撮られているのだ。無論、この画像はすぐさまツイッターに流れるだろう。
「高卒スターは羨ましいな。俺なんて誰にも注目されていないぜ」
石井は自虐をしていた。
「俺は自分をスターとは思っていないさ。周りが勝手にスターに仕立て上げているだけだ」
そう、スターかどうかというのは自分ではなく周りが決める。AKIRAは人々から選ばれたと言っても過言ではないが、本人はあまり乗り気ではないようだ。
「お前の行動には華があるんだよ。プレーにしても私生活にしても」
「俺のどこに華があるってんだ?」
「そんな奇抜なファッション……どう見ても一般人は着ないだろう」
石井はAKIRAの着こなしに注目していた。AKIRAは西部劇のガンマンそのものの格好をしているのだ。18歳の高卒には考えられない服装である。しかし、
「俺は1800年代のアメリカとバイクが好きなんだよ」
だからこそ、この服装になったというのだ。
「それだよ。圧倒的な成績を残して、普通とは違う見た目と感性を持っている……それがスターの絶対条件なんだ。俺なんて見た目は普通だし、考え方も普通だからスターになり得なかったのさ。これが」
スターには身なりが大切だ。なぜならファッションが人を作るからだ。全裸の男や服装が地味な人間には誰も憧れを持たない。AKIRAのように奇抜なファッションをしているほうが、人は興味を持つのだ。それは一般企業でも同じこと。上に伸し上がりたいのであれば、常に見た目と格好には最新の注意をしなければならない。石井のように地味な男はたとえ成績が良くても誰も評価してくれない。服装が持つ魅惑の魔力は人生にも影響するのだ。
「そうか」
「お前の生まれ持ったスター性には眼福するぜ。まったく」
「俺は無意識にスター性を放出させているのか」
本来、AKIRAのように生まれ持ったスター性を放出させている人間は大勢いるのだが、AKIRAのように露出度の高い職業者はほとんどいない。大体は一般企業に埋もれてしまっているのだ。日本では逆にスター性のない人々がスポーツ選手になっている事例が多い。だからこそ他のスポーツ選手はスター性を出すために苦労しているのだが、この男はスター性を無意識に放出させる特性を持っている。
「お前みたいに皆から好かれる人間は野球界にはいないぞ。ほとんどな」
ムードメーカーは希少価値が高いのだ。アメリカでは大勢いるのだが、何故か日本では絶滅危惧種である。
「嫌われている方が楽だけどな」
しかし、AKIRAはそうだというのだ。嫌われている方が楽なのだと。
「どうしてだよ」
二人はハンバーガーを口にふくんでモグモグしながら喋っていた。
「そっちの方が燃えるのさ。俺を嫌ってる奴に目に物みせてやろうってな」
「AKIRAは逆境が好きなのか。くうう……熱い男だな!」
石井はそう言った。
「ピンチの時こそ人間は頭がフル回転するだろ? それと一緒だ」
あの頭の回転が異様に早くなる現象が好きだというのだ。AKIRAは。
「お前もピッチャーで登板してるときはピンチに滅法強かったよな」
データにも出ている。AKIRAはソロホームランを打たれるばかりで、スリーランやまして満塁ホームランは滅多に打たれることは無かった。満塁時の防御率は0.86というとんでもない数値を叩きだしているのだ。AKIRAはピンチの時こそ本領を発揮する逆境男なのだ。逆にそれが弱点とも言えるのだが。
「こんな事を言うのは罰当たりかもしれんが、テンションが上がるのよ」
ピンチの時にテンションが上がるというのだ。
「一塁に足の速い選手がいてもか?」
「好きなだけ走らせればいい。打者を抑えればいいだけのことだ」
AKIRAは冷静な口調で言っていた。
「やっぱり、お前は天性のピッチャーだな」
「やめてくれ。俺はただのノーコンピッチャーだぜ」
「ただのノーコンピッチャーが170キロのフォーシームを投げられる訳ないだろ。170キロを投げるピッチャーなんて過去にはいなかったし、お前はピッチャーで頑張るべきだと思うのだが」
「嫌、いまのところ160~167が限界だな。球速が落ちている」
高校野球決勝戦で170キロを叩きだした時より球速が下がっているというのだ。
「それでも日本最速じゃないか」
二番目は同い年の速水大道が出した163キロだ。
「だが、世界にはもっと早い奴がいるんだろう?」
「そうだが、お前の場合はもっと球速が上がると思うぞ」
「やめてくれ。俺は打撃だけで精一杯なんだから」
「そうか……そいつは残念だ」
石井は投手版AKIRAの完成形態を拝みたいらしい。
「第一、俺の速球はノビもないしキレもない。ただ速いだけだ」
「そうひがむなよ。まだ18歳だろ。いくらでも成長できるさ」
「それに、今は外野のポジションが楽しくて仕方ない」
先程までとは一転して、うきうきとした表情で語り始めた。
「お前はセンターを守っているけど、どんな感じなんだ?」
ワーグナー監督が、AKIRAの驚異的な身体能力を見出してセンターに抜擢したのだ。本来ならばショートにするべきなのだが、ショートには不動の石井がいるためセンターに回された。しかし、それでもAKIRAはハイペースでファインプレーを連発している。元々、センターの特性があったようだ。
「守りやすいな。右打者の逆方向の当たりにも対応できる」
異様に足が速いため、大抵のフライにはおいついてしまうのだ。しかも判断能力が高いため、取れないと思った打球には素直にレフトやライトに捕球を任せている。AKIRAはまだ18歳でありながら、外野の司令塔としても活躍していた。
「センターから飛んでくるお前のホーミングミサイルには見とれちまうぜ」
前半戦だけで補殺を9つも決めていた。それだけ肩が強いのだ。ワーグナー監督がショートに抜擢しようと思っただけのことはある。




