025 ハンバーガー店
AKIRAと石井はとあるハンバーガ屋さんに来ていた。やはりプロ野球選手は体重を維持しないといけないため、すぐに痩せるタイプの石井はこいったファミリーフードのお店で腹いっぱい食べて体重を増やすというのが御約束だった。そこで石井は後輩かつ親友とも言うべきAKIRAを連れてきたのだ。
石井は長年のプロ野球生活で億万長者の身だが、食べる物は質素極まりなかった。過去の人物に例えるならば、血染め指令所で有名なロベスピエールやビスマルクなどの著名人も質素を極めていた。もしかしたら、石井も政治家としての才能を秘めているのかもしれない。なぜなら、政治家には質素な人間が多いからだ。あのアドルフ・ヒトラーですらそうである。石井もいずれこの面々に並ぶ時が来るかもしれない。
「本当に大丈夫なのか、ここは有名な某ハンバーガーチェーン店だぞ」
一応、スーパースターである石井が庶民の店でハンバーガーを食べるのはどうかと思うとAKIRAは言っていた。石井の財力ならば高級フランス料理店で腹いっぱいに食べることも十分に可能だ。しかし、隣の石井は笑顔でいた。
「俺は昔からここのハンバーガーが好きなんだよ」
「随分と庶民的だな。高級料理店とかはいかないのか?」
「あんな独特な雰囲気……俺には似合わねえよ」
石井はそう言うと、AKIRAは確かにというような感じで頷いていた。極めて失礼であるが、言われてみると石井に高級店は似合わない。パッと見は普通の一般人にしか見えないからだ。こんなオジサンは日に三回は見かけるぐらいの平凡な顔立ちである。しかし、その平凡な顔とはうって変わって、残してきた成績は破格のものがあるが。
「そうだな。石井さんは食堂にいそうなタイプだ」
「だろう? 俺自身も分かるのさ」
「それじゃ、行くとするか」
AKIRAと石井は扉を開けて店内に入った。お互いに変装というよりかは奇妙な格好をしている。AKIRAは金色のサングラスをかけてウエスタンハットを被り、髑髏のマークのTシャツとボロボロに破けたジーパンを履いている。石井に至ってはTシャツと半ズボンという非常にラフな格好なのだ。どちらもプロ野球選手が着こなすような格好ではない。一人はアメリカのバイカーで、一人はただの休日のオジサンなのだ。こんな正反対の二人が来店すれば店内で目を引いてしまうだろう。しかも、二人共プロレスラーなみのガタイをしているのだ。どんなに変装をしても、一発で普通の職業ではないとバレてしまう。
案の定、二人の耳には店内のザワメキが聞こえる。
「あれってAKIRAじゃね?」
「嘘、こんな店に来るの?」
「言っても高卒一年目だからな。来るだろう」
「隣の人って誰?」
「知らないな。普通のオジサンだよな」
「AKIRAのお父さんとか」
「AKIRAも老けてるから同世代にしか見えないよな」
「にしても、なんだよあの格好。西部劇かよ」
「きっと。アメリカの映画が好きなんじゃね?」
「そうだよな。きっとそれらに触発されたんだよな」
「サインサインサイン!」
子供がAKIRAにサインを求めて近寄ってきたとたん、他の学生や大人達もAKIRAに寄ってきた。日本人は誰かが先に行動してからじゃないと行動出来ないという特性を持っているので、このような現象が起きてしまう。
「キャー! キャー! キャー!」
「やばいやばい!」
「握手してください!」
AKIRAはモテモテである。それもそのはずだろう。顔立ちはハンサムで、ここまでの成績を収めているのだ。マスコミが注目しない筈もなく、連日のようにAKIRAのニュースが新聞、インターネット、テレビ、ラジオ等で取り上げられているのだ。そんな訳で、特に中高生の女子はAKIRAを写真で撮影している。
「相変わらず、ハーレム製造機だな」
ここで、石井に命名された。
「おいおい、やめてくれよ」
そう言いながらも、AKIRAは嬉しそうだった。女子に囲まれているのだから無理も無いだろう。AKIRAはサインを書きながら写真撮影にも応じていた。しかし、石井の周りには誰も集まってこようとしないので、石井は不機嫌そうな顔をしてメニューを注文しようとしていた。
「おーい、何を食うんだ?」
歓声が取り巻く中に、その言葉を放りこんだ。
「チーズバーガー三つ!」
AKIRAは顔だけ出して、石井に叫び伝えている。そうでもしないと周りの声にかき消されてしまうからだ。
「AKIRA……見損なったぜ」
「はあ!?」
「俺はここの看板メニュー……クレイジーバーガーを頂く」
「ああ、じゃあ俺もそれ一つ頼むわ!」
AKIRAも雰囲気的にそれが伝わって、クレイジーバーガーを頼んだ。周りの人達からの視線でようやく分かったのだ。有名人が普通のメニューを頼んではいけないのだと。
「というわけで店員さん、クレイジーバーガーを二つ」
「お持ち帰りですか、こちらで召し上がりますか?」
「迷惑になりそうだな……」
「私共と致しましては、店が盛り上がるので大歓迎ですが」
「それじゃ、店で食べるわ」
「店内でお召し上がりですね。かしこまりました。クレイジーバーガー二つで1680円になります」
石井が10000円を出すと、まもなくお釣りが帰ってきた。そして厨房からお姉さんがクレイジーバーガーを運んできた。その大きさはお姉さんの上半身が丁度隠れる程の大きさである。
「サンキュー! AKIRA食うぞ!」
石井はテンションを上げてAKIRAを呼んでいた。
「オッケーだ。こっちもサイン書き終わったぞ」
そして、AKIRAも自身の分のクレイジーバーガーを手に取って席に向かった。すると、後ろから客達がゾロゾロとついてくるではないか。
そうなると、石井とAKIRAが座った席の周りには人だかりが出来ることになる。落ち着いて食べれるのかと思うぐらい、人の目がびっしりとAKIRAに注目しているのだ。何度も言うが、誰も石井の事は見ていないが。
「それにしても、ビックなバーガーだな」
AKIRAは眼前のクレイジーバーガーに目をひん剥いていた。
「この大きさで840円だぜ。お手頃だろ?」
「リーズナブルの域を超えているな」
「だから人気なのさ。このバーガーちゃんは」
ただし、テイクアウトでは不人気だ。そもそも車にも入らないからドライブスルーで頼むと店員さんに失笑されてしまう。
「で、どうやって食えばいい?」
AKIRAが声を出すたびに、辺りから黄色い悲鳴が上がりだす。もはやアイドルなみの待遇だった。
「豪快に上からかぶりつけ」
ただし、石井の声には誰も反応しない。
「おいおい、顎が砕けちまうぞ」
「だったら分解して食うか」
「それが一番だろう」
こうして、AKIRAと石井は巨大ハンバーガーを頂こうとするのだった。




