021 仕置き
ツネーズの矢部というキャッチャーはとんでもない輩である。その邪悪な性格がデータにも反映されていた。矢部とホームラン王争いをしているAKIRAは前半戦だけで15個の死球を記録している。そのうちの13個の死球は矢部のリードによるものだった。矢部は明らかにAKIRAを故意に怪我させようと策略しているようだ。ところが、今の野球界では暗黙のルールとして『死球も配球の1つ』という教えが今なお残っているので、矢部は何の御咎めも無く、ひたすらに強打者には死球をぶつけている。
矢部は某雑誌のインタビューで「四球で歩かせるより死球させた方がボール3つ分も節約になるし、もしかしたら怪我をしてくれるかもしれない」という姦雄な態度をとっていた。そんな犯罪者予備軍の矢部だが、これまでに残した成績は超一流なため、ファンは大勢いる。キャッチャーというのはチームの柱的存在であり。そんなキャッチャーが大活躍しているため、ツネーズファンの間で矢部は神格化されている部分も多数見受けられる。そのため、矢部の死球リードも一部のファンは大絶賛しているのだ。まさに狂気の沙汰だが、それでも矢部はプロ野球界には無くてはならない存在である。
矢部はまだ26歳という若手だ。これからグングンと力をつけて成長するかもしれない。やがてはメジャーリーグで活躍する人材になるかもしれないので、球界の宝と言っても良いだろう。性格が極端に悪いだけで、選手としての成績は圧倒的なのだ。
そんな矢部が最も嫌っている選手がいる。それは阪海ワイルドダックスのAKIRAだ。彼は18歳の高卒ルーキーでありながら、ここまで20本もホームランを放っている。もしかすると、自分の三冠王が白紙になってしまうという恐れもあるので、矢部はAKIRAに対しては極端な態度をとっていた。
まず、矢部が朝起きると、部屋の中に藁人形を設置して、その藁人形にAKIRAの写真を張って、五寸釘を打ち付けるのだ。心臓や頭を何度も何度も刺して、滅多刺しにする。それが終わると、某巨大掲示板にAKIRAを誹謗中傷する書き込みをした後、自身のスレッドに自分を称賛する書き込みをするのだ。この一連だけで、矢部という人間がいかに劣悪な人間か知っていただけたかと思うが、実はこれだけではない。
試合中にもAKIRAに対する嫌がらせはヒートアップしていた。本塁でのクロスプレーは当たり前で、AKIRAがアウトになった時、ホームインした時は関わらず、ユニフォームに唾を吐きかける。そして矢部が一塁手で出場している時は、AKIRAが塁に出ると、隣でひたすら呪詛を唱え続けているのだ。頭がイカレてるといっても過言ではないだろう。
そして極めつけは、やはり強気のリードだ。AKIRAには一切ストライクを投げず、顔面すれすれのプラッシュボールを投げて、AKIRAが回避するたびに舌打ちをする。しかも本人に聞こえるようにして。時にはワザとぶつける時もあるが、AKIRAは平然とした顔で一塁に歩いていくのだ。矢部はそれがたまらなく憎く、試合終了後には同じ高卒ルーキーをAKIRAに見立ててサンドバックにするのだった。
「やめてください」
一軍出場したばかりの高卒ルーキーの投手だったが、試合終了後には矢部に殴られ続けて、顔面や胸には痣が出来ている。しかし、矢部の進撃は止まらないのだ。
「うるせえ! お前が生半可にぶつけるから、AKIRAは死ななかったんだ!」
惨い仕打ちだ。しかも、他の一軍選手は見て見ぬ振りをしているのだ。それどころかニヤニヤと笑っているではないか。しかも監督やコーチも素通りしていく。
「ううう!」
高卒ルーキーは上半身を裸にされて、縛られて、おまけに鞭でシバかれているのだ。バシンバシンと肉と鞭が当たる音を立てて、矢部は満面の笑みを浮かべながら、高卒ルーキーをストレス解消にイジめている。こんな事は許されるものではないのだが、誰も密告しないため、外部には一切漏れていないのだ。
しかし。
急に外が騒がしくなったと思うと、阪海のユニフォームを着た二人の男が球団関係者と揉めていたのだ。彼等は必死に制止させようとする球団関係者を返り討ちにさせていた。その二人とは。
「ワシらのAKIRAを侮辱する輩は許さへんで!」
「ここで悪の権化に天誅を下す!」
なんと、あの熱狂的なファンの二人だった。二人は矢部の暴力を目撃して、怒りをあらわにしている。すると、球団関係者達は「生きて返すな!」とバットを持って、二人に襲いかかってくるのだが、二人は見事なフットワークで、攻撃を躱し、襲いかかってきた連中にボディーブローやアッパーを極めていた。
「くその役にも立たない連中だ!」
戦闘不能になって地面で蠢いている球団関係者を罵倒しながら、侵入者の二人の顔を覗いた。すると、二人の顔は赤鬼よろしく、怒りで真っ赤になっていたのだ。
「AKIRAのみならず、自分の後輩にまで手をかけるとは」
「恥を知れ! 蛆虫め!」
これまでの行いに痺れを切らした二人が、矢部を罵倒した。
「うるせえ、こうなったら墓場まで送ってやる」
そう決意する矢部だったが、二人の手によって、あっという間に身柄を拘束されてしまう。そして、矢部に対する復讐劇が始まった。
「AKIRAが受けた13個の死球を御前に叩き込むで!」
そう言いながら、二人の男は順番に矢部に向かってボールを投げ込んだ。無論、顔面を狙ってだ。矢部の顔は即座に赤くなり、鼻が骨折したのか、変な方向にネジ曲がって鼻血が出ていた。
「や、やめてくれえええ!」
ヨダレと涙を撒き散らし、プライドもかなぐり捨てて命乞いをする矢部だったが、そんなもので二人の怒りが収まる筈も無い。
「今更命乞いか! 精神まで腐ってるで、こいつ!」
「AKIRAが受けた苦しみ、身をもって味わえ!」
「ひいいいいいいい!」
こうして、至近距離で13個のボールを投げつけられた矢部は、顔面からポタポタと血を流して、やがてぐったりと顔を下に落とした。あまりの激痛に気絶してしまったのだろう。見ると、矢部の顔はボコボコに腫れ上がって、見る者を不快にさせる下劣な顔に仕上がっていたのだった。




