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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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020  居酒屋


 試合終了後、二人の熱狂的なファンは居酒屋に来ていた。やはり野球の話しをするのは居酒屋の雰囲気が一番だというように、居酒屋内には他にも阪海ファンと思しき人物がちらほらと見える。現在の時刻は22時40分なので、今が一番繁盛している時間帯だろう。そんな時間に二人は席に座って、つまみをかじりながら今日の試合を振り返っていた。


「まさか、AKIRAが全打席三振だとは思わなかったな」


 そうなのだ。四打席連続三振である。


「はい。速水に最後までいかれましたね」


 まったくだ。まったくタイミングが合わなかった。ファールで粘る事はあれど、それ以上続くことが出来なかった。まさしく完敗だった。


「これでダイスターズの完封勝ちか……。でも、明日は阪海が勝つで」


 9回をわずか1安打に抑えた速水は完封勝利をおさめていた。これで今シーズン13勝目だ。


「勿論です。阪海の勝利を信じましょう!」


 ここで、二人は生ビールの杯を合わせて乾杯をした。そして、ごくごくと喉を鳴らせて喉を通るビールの冷たい感触を味わうようにして飲むのだった。


「ぷはああ、これや!」


 熱気に包まれていた球場の応援後のビールは格別である。仕事から帰って飲むビールと同じような気持ちになれるのだ。やはりそういった気分にさせてくれる球場応援は最高だ。


「これですね。喉にきます」


 そう、ビールは喉を刺激するのだ。


「やっぱり一口目が最高やな。ビールは」


 すると、男のビールのジョッキは三分の一が無くなっていた。それほど、ビールにかける情熱があるという証拠なのだろう。


「はい。それにしても、今日のAKIRAは凄かったです」


 敬語使いの男は、全打席三振に倒れたAKIRAを凄いと言っていた。これには大阪訛りの男も首を縦に大きく振って頷いているではないか。


「全打席フルスイングや。立派な男やで、あの兄ちゃんは」


「普通なら欲を出して単打狙いをするのですがね」


「三振かホームランか。当たれば場外まで飛びそうなスイングやったで」


 単打狙いとは程遠いスイングだったと言うのだ。今日のAKIRAは。


「あのスイングスピードは鬼崎さんと引けを取らないかも知れませんね」


 古稀というのに、メジャーリーグで活躍している鬼崎の事を言っていた。その鬼崎のスイングスピードはメジャーでもトップクラスに位置している。その鬼崎とAKIRAのスイングスピードが同じだと推測しているのだ。しかも、


「鬼崎は細いバットをつこうてるから、スイングスピードが速いんや。でも、AKIRAは球界一の太いバットをつこうて、あのスイングスピードやで。末恐ろしいわ」


 まさに当たれば場外ホームランの重量級バットだ。そんなバットをコンパクトに使う事が出来るのは握力100キロ越えのAKIRAにしかできない芸当だろう。


「70歳を超えて18歳の選手と同じスイングスピードなのも十分恐ろしいです」


 敬語の男は、鬼崎を称賛していた。年金暮らしの父親と同じぐらいの年なのに、現役バリバリで活躍している鬼崎を尊敬しているのだろう。それは隣の男も同じだった。


「せやな。ワシの親父なんか歩くだけでヒーヒーいっとるのに、鬼崎は全力で走っとる。まさに、阪海が生んだ世界のスーパースターやな」


 知名度も世界でトップクラスの選手だ。70歳を超えて現役で活躍しているのは、どのスポーツ界でも鬼崎ぐらいなので、必然的に注目されて、知名度もグングンと上昇する。


「野球選手で全国ネットのCMに出ているのは、鬼崎さんぐらいですね」


 そうなのだ。鬼崎は日本の野球選手の中で唯一、全国ネットのCMに出演しているほどの男だ。その数は年間で10本以上はくだらない。


「十年前、鬼崎さんが日本球界に復帰した時は球場がファンで溢れかえっていたな。外国人も鬼崎さん目当てで球場に来ていたからな。遠くからご苦労様やで」


 鬼崎が阪海に復帰した一年間は、常に球場は満員だった。しかし、鬼崎がメジャーリーグに再挑戦してからは球団人気が低くなり、AKIRAが入団するまで、観客動員数が最下位だったのだ。しかし、AKIRAのスター性のおかげで、球場は連日のように満員である。それ故に、人々は阪海球場が満員になるたび、『鬼崎の再来』と口にしていた。


「鬼崎さんは殿堂入り確実なのでしょうか?」


 ここで、敬語使いの男が質問をした。すると、隣の男は勢いよくグラスをテーブルの上に置いて、大きく深呼吸をして、こう言った。


「あたぼうよ。メジャーで40年近くプレーしてるのは歴代でも鬼崎さんぐらいや。他のどんな記録よりも、偉大な記録やで」


 それだけ、長く続けることは難しいのだ。どんな事でもそうだが、一つの物事を何年も続けている人はカッコいい。素直に尊敬してしまう。


「鬼崎さんが引退するのが先か、僕らが定年退職するのが先か」


「ハハッ!」


 敬語使いの男の冗談を聞いて、笑い飛ばしていた。


「年齢の壁なんて無いってことを鬼崎さんは教えてくれましたよね」


「せやな。鬼崎さんみたいにAKIRAも長く続けて欲しいな」


「そうするには、やはり怪我をしないことが大前提ですよね」


「怪我で野球人生が終わった選手は此の眼で何人も見てきた。そうなって欲しくはないで。AKIRAには現役を長く続けて、2000本、4000本とヒットを積み重ねて欲しい」


 男は神妙な面持ちでそう言うのだった。


「鬼崎さんは一度も怪我をしていないですよね。毎年怪我人続出のメジャーリーグで」


 52年のプロ野球人生の中で一度も怪我をしていないのだ。鬼崎喜三郎という男は。


「あの歳でも、焼肉とか牛丼とかハンバーグとか食べまくってるらしいわ。わしらでも最近キツくなったのに、鬼崎さんは平然とやで」


 食べると言うのだ。アメリカの分厚い肉を、ペロリと。


「元気な証拠ですね」


 そう、鬼崎はそこらの学生よりも元気が有り余っていると言っても過言ではない。それぐらいの活力を全身からみなぎらせているのだ。


「肉食系男子の進化系やな。あの歳でもスキャンダルは絶えないし」


 確かに、そうだというのだ。


「そうですね。ハリウッドスターの彼女がいるとか一時期噂になっていましたよね」


「ガハハ。竿の方も現役っちゅうことや」


 鬼崎に目立った衰えはない、それは人間本来が持つ生殖機能も同じだ。


「AKIRA君も是非豪快な選手になってほしいです」


「メジャーで旋風を巻き起こすような選手にな。AKIRA伝説をこんな箱庭で終わらせたくないで」


 それから、二人の熱い会話は朝まで続くのだった。



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