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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
199/426

199  モチベーションの維持


 やると決めた事は何が何でもやり通すと決めたはいいが、やはり目標を見失いそうになり機会は多々ある。例えば球場から帰って身も心もクタクタな時は一刻も早く寝たいという欲求がAKIRAを襲ってしまう。その原因はやはり慢性的なストレスだろう。ストレスが溜まってるからこそ普段やっている当たり前の事も出来なくなってくる。面倒くさいと思ってしまい、身体が鉛のように動かないのだ。その結果、弱気な自分が現れて布団の中に逃げ込む瞬間がある。しかし決めた事を放棄してしまうと返って時間の無駄である。忙しい状況に追い込まれている時は大抵、時間が無いから普段の行いを全くしないようになる。当然ながらそこには葛藤があるので葛藤と闘っている内にどんどん時間が経過してしまい、結局最初からウダウダ言わずにやっていた方が時間の削減になる。AKIRAはそれを苦い経験として何度も体験しているので、どんなに疲れて帰った時も普段の行いを全力で行った。身も心も疲労困憊の状態なので最初は辛いかもしれないが、やっている内に体が慣れてくる。家事や洗濯に気を取られて睡眠時間が無くなるかもしれない。でもだからと言って、生活習慣を放棄してまで睡眠時間を確保しようとするのは自分の身を絞めているのと同じだろう。明日、山積みになった洗濯物や食器を見て愕然をするのは自分だ。たとえ疲れてるからと言って明日に持ち越そうとしてはいけない。そうした苦しい経験があるからこそAKIRAは睡眠時間を削ってでも家事洗濯を完璧にこなそうとする。その結果、寝不足になったとしても大したデメリットは無い。睡眠不足の自分をコントロールする術を身に着けているのだ。どうしても人は眠たい時に落ち込みやすくて精神が弱まってしまう。だがそこに勝機を見出したのがAKIRAだった。たとえ精神が弱くなっていても自分の心の持ち方次第でどうとでもなる。たとえば、心の中で「俺は今、最高に絶好調だ」と何度も言い聞かせれば弱気な自分は一瞬で消え失せる。そもそも寝不足など自分のモノサシ次第だ。「今日は4時間しか寝てない」と後ろ向きになるか「今日は4時間も寝ているぞ」と前向きに考えるか、それは自分の気持ちである。だから弱気になって寝不足を主張するよりも、ポジティブにぐっすり寝たと自分に言い聞かせればいい。AKIRAがこの主張に辿り着いたのは自身の不眠心配症が影響していた。このように病気から勝利の法則を見出すのがAKIRAの特徴である。ようするにタダでは転ばない訳だ。



 *************



 AKIRAの待っている楽屋に突然訪問者が現れた。その人物は昨シーズン熾烈な三冠王を争いを繰り広げた相手、矢部捕手だった。矢部捕手は意気込んだ様子でスタイリストが用意した衣装に身を包んでいるではないか。球界一のオシャレさんと言われる矢部だけあって、そのチョイスにも自分らしさが全開に出ていた。恐らくスタイリストさんと何度も吟味し合って、この服装に決めたのだろう。少なくともAKIRAはそう考えていた。


「AKIRA君。今日の収録はよろしく頼むね」


 矢部が握手を求めてきたので、AKIRAはそれに応えるように手を伸ばした。かつて二人は犬猿の仲と呼ばれる程の関係だった。ところが二人の関係は一人の少女によって修復され、今では互いをライバルと認め合う仲に成長していた。友情にも芽生えているのでメアド、ライン、電話番号を既に交換している。滅多に連絡はしないが、もしもの事があった時ように連絡先を控えているのだ。なので友達感覚で電話を掛けたりなどは絶対にしない。そこは大人の関係としてお互いに察し合っているようだった。試合に出てしまえばたちまち敵と味方に別れるだけあって、余計な感情を抱いては元も子もない。そういう交流するのは同じ球団同士の間だけでいいと思っていた。


「ああこちらこそ。矢部先輩のトーク術に期待しているからな」


 そう言って、AKIRAと矢部はガッチリと握手を交わしていた。



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