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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
190/426

190  やり方は変えても、思想は変えない


 今年、AKIRAは打撃の中でイップスを発生してしまい、自分の納得する成績を残す事が出来なかった。客観的に見れば三冠王を獲得した19歳は何の苦労も無く、順風満帆なシーズンを過ごしたんだなと思いがちだ。しかし、AKIRAにとって今シーズンは苦痛の二文字しか思い浮かばない程、精神的に追い込まれてきた。もしも自分の寮が二階以上の高さにあったら飛び降りていたかもしれないと考えるぐらい苦痛を感じていた。その理由は、単打の数があまりにも少なすぎたからだ。AKIRAは元々、ホームランおりも四球やヒットで塁に出る方が好きだった。その方が自分の足を生かせるし、世界陸上の時から自分を見続けてきてくれたファンの人達を楽しませる事が可能だった。ところが、今年はホームランを放つ機会があまりに多すぎた。自分の中では『今年のホームラン数は30本前後でいいだろう』と決めていたのに、気が付いたら今年も40本以上のホームランを打ってしまっていた。AKIRAは走っている瞬間に生きがいを感じているので、ホームランを打ってダイヤモンドを周っている時も走りたいと思っている。しかし、そんな事は出来ないので、四球なり単打なりを狙って盗塁をしたいと願っている。だから究極的に言えばホームランの数は0本でもいいと思っていた。とにかく単打と四球に全神経を注いで、塁に出たら盗塁をする。そういう生き方もありだと思っていたのだが、やはりそれではファンの期待を裏切ってしまう。せっかくホームランを打てる技術とパワーを持っているのだから、年間30本程度のホームラン数は見たい筈だ。なのでAKIRAは30本を目標に今シーズンを闘い続けてきたのだ。とは言っても首脳陣の考え方を危惧するとホームランの数は多ければ多いほど良いよ思っている筈だ。本来、AKIRAには鬼崎喜三郎が持っているシーズン本塁打記録を塗り替えられる力を持っている。鬼崎は半世紀前に55本塁打打って本塁打のシーズン記録を叩きだした。その記録は未だに打ち破られていないので、首脳陣からしてみれば鬼崎の再来と呼ばれているAKIRAに記録を更新して欲しいと思っている筈だ。決して口に出していないが、そういう雰囲気で話し掛けられる機会が多かった。それでもAKIRAは本塁打の数に何の価値も見いだせなかった。確かに本塁打を打つためだけに特化すれば、シーズン記録を塗り替える可能性も出てくるだろう。しかしそんな事を行ってしまえば自分の思想を変えてしまう。あくまでもAKIRAは単打と四球に拘っているので、それを度外視してまで本塁打を打とうとするのはアスリートとしての生き方に問題が浮上する。アスリートは自分自身が価値を見出している目標に向かって、前進を続ける姿勢を貫かなければいけない。そこで本塁打の数を増やそうとして、単打と四球の数を無視するのは簡単だ。しかしだからと言って自分の信じてきた思想を変えてしまうのはAKIRAにとってはありえない。首脳陣が求めている結果など、どうでもいい。大切なのは自分が信じている生き方だとAKIRAは確信を持って言える。だからこそ、今シーズンの結果には苦痛を感じざる終えなかった。


 打率.361は合格点だった。去年の打率を大幅に上げてヒットの数は激増した。今年AKIRAが打った安打数は212本。歴代でも3位に位置する数だ。そこには不満を持っていないが、問題なのは本塁打の数だ。今年は年間に30本程度で良いだろうと思っていたにも関わらず、最終的には46本もホームランを打ってしまった。AKIRAにとっては数の多さが問題なのではなく、本当に問題なのはホームランを打つ理由だ。あくまでもホームランは単打の延長線上だと思っているので、狙わないと打てない。以前までのAKIRAであればそうだったのだが、今年のAKIRAは狙っていないのにホームランを打ってしまった。それが原因で前半戦は4割を超えていた打率も、後半戦になってから失速。最終的には打率.361に終わってしまった。ハッキリ言ってホームランを意識的に打てていれば打率4割の壁も超えられただろうと考えていた。それだけに、悔しさと物足りなさが付きまとっていた。もう終わってしまった事なので、来シーズンに向けて準備をしていく時期だろうがそれさえも考えられない。今は後悔に念で押し潰されそうだ。しかし、そんな弱い姿をファンの人達は見たくない筈なので、AKIRAは普段通りの自分を演じながら練習なり行事なりに参加していくのだった。



 ***************



 越智のアドバイス通りにボールを投げてみたが、それでも回転数が変わった気はしなかった。神野光太郎に打席に立ってもらってシュミレーションをしたのだが、普通にヒットを打たれてしまう。それも当然だ。AKIRAにはフォーシームの球種しか存在していない。昨シーズンは苦し紛れの変化球を混ぜていたが、そんな棒球はメジャーリーガーには通用しない。それを分かっているので、新しい変化球を習得する必要もあるのではないかとAKIRAは考えていた。去年覚えたようなチャチな変化球では無く、本当に空振りを取れる新変化球。それを習得したいと、いつしかAKIRAの頭の中は支配されていた。



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