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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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019  阪海の熱狂的なファン


 速水大道はやみずだいどうが所属するダイスターズとの試合が始まった。この日のAKIRAは3番センターで出場である。1回の表ダイスターズの攻撃、先頭打者がセンター方向に打ち上げた打球を、AKIRAがキャッチした。やはりAKIRAは守備もいい。阪海ファンの人達からたちまち拍手が送られていた。


「さすがAKIRAや。守備もええな」


 阪海側の席にとある阪海ファンがいた。その男はビールを片手に、野球観戦をつまみにして、隣の男と喋っていた。その隣の男は阪海のキャップを被って、背番号53のユニフォームを着ていた。背番号53はAKIRAの背番号である。この二人は大のAKIRAファンで、偶然隣同士の席に座って、意気投合していた。それはもう、電話番号を好感してしまう程だ。しかし、それが野球観戦のいいところだ。共通の選手を好きになると、それだけで話題が広がり、交友関係も栄える。


「そうですね。彼は高校時代から外野も守っていましたからね」


「高校と言えば、今日はライバル同士の戦いが見れるな」


「決勝戦を投げ合った二人が、こうしてプロの舞台で野手と投手で対戦するのは魂が揺さぶられますね」


 二人の団塊はAKIRAの背中を見つめていた。こうして見ると、まるで息子がプロ野球選手になったみたいで、自分の子のように嬉しくなるのだ。やはり野球は生で見るのが一番記憶に残るのだと、二人はこの時思っていた。


「いやはや、チケットを買うのが大変やったわ」


「満員ですね」


 そう、満員なのだ。二人の高卒スターが対戦するということで、全国の野球ファン達が殺到していた。やはり野球は若者が引っ張っていくスポーツなのだろう。


「阪海の旗がうねりをあげておるわ」


「去年までは閑古鳥が鳴いていましたのに、AKIRA君が入団してくれたおかげで、毎日のように球場が満員ですよ」


 AKIRAは18歳でスター選手の仲間入りをしていた。しかも、一人で破たん寸前の球団を、ここまでの人気球団にしたのだ。その素質たるや、群を抜いている。


「ついに和製大砲の誕生やな。ワシらが待ち続けた」


「そうですね。ここ最近は外国人バッターにホームラン王を獲られていましたから、そろそろ日本人打者でホームラン王になる人材が見たかったところです」


 丁度、その時だった。和製大砲が左打席に立っていた。しかも対戦相手は速水大道。高校野球決勝戦を投げ合った二人の対戦だけに、球場のボルテージはマキシマムまで上昇していた。無論、この二人も例外ではない。


「あんちゃん、ホームラン打ったれえ!」


「こっちまで飛ばしてくれ!」


 AKIRAと速水の対戦は死闘を強いられていた。マックス163キロのフォーシームを武器に投球する速水だったが、AKIRAはそのボールに食らいついて、ファールで粘っている。しかし、前には飛んでいなかった。この日は調子がいいのか、いつもよりノビが凄まじいのだ。それは外野の観客席からも分かるぐらいだ。


「今日の速水は、また随分と調子がいいな」


 顎に手を当てて、「むむむ」と悩んでいた。


「ここまで山室と田中を三振に打ち取っていますからね」


「しかも全球フォーシームや。漫画みたいなピッチャーやの」



 ●



 その瞬間だ。ここで、AKIRAも三振に倒れた。電光掲示板には160キロの球速が映し出されていて、球場がどよめいている。


「あちゃあ、三振ですね」


「ええ。それでもフルスイングやったで」


「見ごたえのある対戦でした。次の打席が楽しみですよ」


 そう言いいながら、センターの守備位置にやってくるAKIRAを祝福していた。守備位置が強打を警戒しているシフトだったので、その隙をついてセーフティバントをすればもしかしたらバントヒットになっていたかもしれない。しかし、敢えてAKIRAは真っ向勝負を選んだ。そのことが、二人にとっては嬉しかったのだ。


「あの速球に強いAKIRAを三振にするとは……速水もやるやないか」


 阪海ファンは敵チームの選手も味方チームの選手も結果を出せば、褒め称えるのだ。しかし、結果の出ない者には容赦ない罵倒を浴びせる。これは愛情の裏返しなのだ。決して、私利私欲のために野次を飛ばしている訳ではない。


「これで、速水は全てフォーシームを投げて三者連続三振ですか」


 プロ野球で、これをやってのけるのはごくわずかだ。


「田中はともかく、ノリにノッテいる山室とAKIRAをフォーシームだけで空振りさせるのは相当な真っ直ぐを持ってるっちゅうことや。あの兄ちゃんは」


「制球力が素晴らしいですね。キャッチャーが要求する箇所に、きっちり投げていますから」


「まさに、ズドンやな。力のこもった球が来とるで」


 二人は速水の事も絶賛していた。やはり阪海ファンは認める時は認めるのだ。



 そして、第二打席が回ってきた。ここまで速水は一人のランナーを出しておらず、ましてや四球の一つも出していなかったのだ。案の定、ここもAKIRAは三振に倒れてしまった。全球フルスイングで三振をして悔しい表情を出しているが、やはりそれでも阪海ファンはAKIRAに大歓声を送っている。


「あのスイング、鬼崎さんを思い出します」


 70歳で、今も尚現役で活躍している鬼崎を思い出すというのだ。AKIRAのフルスイングを見ていると。


「分かるで、わしもそうおもっとった。若いときの鬼崎さんに瓜二つや」


「高卒で活躍しているところも似ています」


「あの人は一年目でいきなり首位打者をとったな」


「今でも破られていないシーズン打率を残しましたね」


 そう、鬼崎もまた高卒一年目で圧倒的な功績を残していた。それは阪海ファンにいつまでも色あせることの無い記憶として。



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