188 誰かに真似をされる選手になりたい
AKIRAの精神状態は常に不安定だった。試合に出ている時は常に緊張していて両肩が凝ってしまう。それを感じてしまうため、打席の中では両肩を上げ下げしていた。つまり肩をほぐしている行程さえも次第にルーティンに変わってしまった。次第にそこまで肩が凝っていない時にも、両肩をピクピクと動かしてしまう自分がそこに存在していた。ファンの間でもそれは注目されるようになり、AKIRAをモノマネしているカントリー親父という芸人は、必要以上に肩を上げ下げしながらインタビューに答える斬新なコントを披露していた。AKIRA自身もそれを見ていると笑いが止まらなくなり、ちゃぶ台をひっくり返して笑い転げる。やはり自分のモノマネをされるのは面白くて仕方が無かった。自分は人からこう見られているんだなと、知る事が出来るのでモノマネに関しては寛容的だった。それにカントリー親父との対談を望むぐらい、彼の芸には心惹かれるようになっていた。考えれば考える程、彼のモノマネには人生哲学を感じざる終えなかった。あそこまで面白くモノマネをされてしまえば、如何に冷静なAKIRAと言えど興奮してしまう。なのでAKIRAは自身のツイッターでカントリー親父のアカウントをフォローしていた。AKIRAにとって、バラエティ番組は最高のストレス解消方法だ。テレビを見ながら腹を抱えてゲラゲラと笑っている時が一番楽しくてストレスが溜まらない。中学校の時から日本のバラエティ番組を見始めたのだが、そこからほぼ毎日のようにバラエティ番組を見続けている。当時所属していた陸上部には鬼のような先輩がたくさんいたので、ストレスはかなり溜まっていた。AKIRAにとって何が一番ストレスが溜まるかと言うと、それは体が鈍っている時だ。AKIRAのような凡人は1日でも練習をサボってしまえばその時点で選手生命の危機が訪れる。練習不足になると、あっという間にコンディションが落ちてしまい全力疾走もままならなくなるのだ。AKIRAが陸上部に所属していた時は先輩達が先に練習しているので、後輩はそれを見るしかなかった。練習不足で運動を放棄している行為などAKIRAにとっては非日常もいいとこだった。だからAKIRAは中学1年生の時は運動部に所属している感覚は無かった。そもそも自分は本当に陸上部に所属しているのかと、疑問が絶えなかった。練習不足で帰った時は家の敷地で黙々と走る毎日。無論、他の学生達はAKIRAが帰って走り込みをしている事実は知らないので、当たり前のように大会記録を更新するAKIRAを見て「天才だ」と呼ぶようになっていた。しかし、ハッキリ言えば天才で活躍する人はいない。天才は努力を怠り、自分から破滅の道を選ぶのが鉄則となっている。だから世間で天才と呼ばれている人間のほとんどは、凡人であるとAKIRAは確信していた。テレビのインタビューを見ていても『自分が天才だから成功した』と語るアスリートはいない。全てのアスリートに共通して言えるのは究極の凡人だった。運動部の中でも一番弱者とされていた人間が、アスリートとしては大成している。その理由は、弱いからこそ強くなろうとする意志が生まれるからだとAKIRAは思っていた。意志が強ければ強い程、いくら孤独を抱えていても努力を放棄するような真似はしない。遥か高みに存在している理想の自分に少しでも近づくために毎日の出来事に全力を尽くす。それだけで人間は変われる。
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AKIRAのフォーシームはスピードだけだった。キレも無ければ、回転数も少ないのでポンポンと打たれてしまう。球速以上の速さを全く感じなかった。それは自分自身でも気が付いていたので、何とかそれを改善しようと試行錯誤をしてきた。AKIRAの球にはキレが存在しないのもそうだが、コントロールもかなり乱れていた。去年のシーズン中には何度も押し出しを経験してメンタルの弱さが浮き彫りになる。メンタルの弱さは今も変わっていないので、どうしようも無かった。こればっかりはどうにもならないので、AKIRAは投手としてプロに入団するのは諦めていた。しかし、球団から二刀流の検討を頂いたので、弱い自分と向き合う時間も確保しなければならない。だからこそ、AKIRAは助言を求めて越智さんがいるマウンドに向かっていた。
「相変わらずキレキレのボールだな。現役復帰したらどうだ?」
これはお世辞では無かった。本当に越智さんのボールはキレが凄まじく、バッターに襲いかかるようなボールを放っている。本気で越智さんと勝負した時に、自分は果たして勝てるのかそれさえも怪し気だ。それに越智さんはほとんどのボールを投げられる特殊な才能の持ち主だ。変化球を絡められると初見ではヒットを打てないだろう。と、AKIRAは頭の中でシュミレーションをしていた。
「そーだな。左のワンポイントでいいなら防御率1.09は約束するぞ」
越智さんは冗談のつもりで笑いながら答えていたが、選手としては冗談と思えなかった。それぐらい、彼のボールは加速している。まるで浮き上がるようにキャッチャーミットに収まるので本気の勝負をしてみたいとずっと思っていた。しかし今日は越智さんに投球の極意を教わろうとしているのだが。




