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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
178/426

178  予想外の誘い


 今年の阪海ワイルドダックスは60勝81敗3引き分けに終わっていた。後半戦が始まるまでは首位攻防戦をしていた程の勢いがあったのだが、正捕手の玉井が怪我をしてから調子が音を立てて崩れてしまう。最終戦が近づく頃には泥沼の20連敗をしてしまい、球場には毎日のように野次が飛ぶ異常事態になっていた。しかしそれも最終戦で勝ち星を頂いたので何とか野次の声も収まったが、やはりクライマックスシリーズも日本シリーズも出れないのは少し寂しい。せっかく後半戦の途中までは順調に事が運んでいたのに、玉井が戦線離脱しただけでこの有り様だ。こうして考えてみるとやはり根本的な原因は絶対的エースの不在だろうか。ほとんどの球団にはエースと呼ばれる投手はいるのだが、生憎この球団にはエースは存在していない。かろうじて東川がエースクラスに思しき成績を出しているが、防御率3点台のエースなど今の時代は笑われる。なんせ低反発球が主流になっているのだからエースの条件は防御率1点台が望ましい。それに昔のような日本人パワーヒッターは全滅傾向を辿っているのだから防御率0点台の投手が出てきてもおかしくはない。無論、ワイルドダックスのオーナーがやる気になればの話だが。ここでいうオーナーとは勿論、謎の覆面監督である。彼は一昨年前任者に変わって新しい球団オーナーに勤めている。もしもこの状況を危機だと思えば、きっと新しい先発投手をFAなりドラフトなりで補強してくれるのでその点は深く考える必要は無かった。あくまでも球団管理はオーナーとGMに任せておけばいいので、選手達は自分の成績だけを心配していればいい。勝敗を気にするのはシーズンが始まってからでいい。既にAKIRA達のシーズンは終了したのだから、後は選手としての力量を蓄えていくだけである。




 *******************



 そして、AKIRAには思いもよらぬ誘いがあった。なんとAKIRAの投球を見ていた鬼崎が1打席勝負をして欲しいとお願いしてきたのだ。鬼崎程の男がお願いするぐらい、AKIRAのボールに衝撃が走ったのだろう。現役メジャーリーガーの中でも最強クラスに匹敵する打者と対戦するのは確実に成長するために必要である。本来ならばAKIRAが頭を下げる必要がある。なので彼は「こちらこそお願いします」と握手を交わしたのだ。こうして2人は屋内練習場にでも向かおうとしたのだが、駐車場に止まっている一台のバイクに目が留まってしまっていた。ここは球団関係者の駐車場なので大体停まっている車なりバイクの種類は把握している。たとえば高級車に紛れて軽自動車があるのだが、あれは石井の車であるという風に何となく持ち主の名前がパッと出てくる。ところが、そのバイクにはまるで見覚えが無かった。しかも金色に光っていてかなり目立っている。


「一体、何処の目立ちたがり屋があんなバイクに乗っているんだ?」


 AKIRAは心の中でそう思いながら屋内練習場に向かっていた。無論、屋内の名前だけあって球場の中にあるのでそれほど遠くない。しかもお喋りする暇も無いぐらいの距離である。鬼崎とAKIRAはあっという間に到着して、二人共それぞれの立ち位置に移動していた。普段ならばAKIRAが左打席に立つのだが、今回は鬼崎に譲っている。その理由は言わなくても分かるだろう。自分がピッチャーとしてマウンドに立ち、彼の打席を感じたいからだ。実際18.44メートルの距離から放たれているプレッシャーは凄まじかった。彼はまだウォーミングアップで素振りをしているだけなのに、礫のような圧が勢いよく飛んでくる。あまりの力強いスイングもあってか素振りの風がマウンドまで飛んできているようだ。しかし、そんな凄まじい素振りを人間が出来る筈も無いので、これはプレッシャーによる圧力だと容易に想像可能だ。そんな事を脳裏に思い浮かべていると、不意に鬼崎が話しかけてきた。その喋り方も軍人のようなハッキリした口調である。耳を閉じて声だけを聴いていると、決して70過ぎの老人とは思えない程に。


「一つだけ質問がある。君は将来海を渡ってメジャーリーグに挑戦したいと思っているのか?」


 以外にも質問の内容はありきたりだった。此の手の質問はテレビ局のインタビューでも必ず問われるし、雑誌でも扱われている。なのでAKIRAの答えは既に決まっているようなものである。あとは口に出せば良いのだが、それが出来なかった。まるで喉が詰まっているような感覚に襲われて言葉が出てこない。どうやらAKIRAは自分が思っている以上に緊張しているようだ。それも仕方ない。なんせ眼前に存在しているのは生きる伝説と呼ばれるメジャーリーガーだ。日本よりも過酷な試合数を重ね、その中で結果を残している。それも40年以上目立った怪我も無く。そんな相手にマスコミ相手に答える言葉を使っても良いのだろうかと不安が過っていた。なのでAKIRAはあらかじめ用意されていた答えでは無く、今この瞬間に感じている生きた言葉を使おうと、頭の中で吟味をしていた。



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