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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
176/426

176  過度な緊張は余計な力みを生む


 古くからプレッシャー《威圧感》を放てる選手は一流打者と呼ばれていた。相手にプレッシャーを与えてコントロールのミスを図り、その結果に投げられる甘い球をバックスクリーンに運んだり、四球を選んだりしている。これは野球だけではなく、ありとあらゆる分野にも言えるが、気持ちで負けたらお終いだ。相手の気迫に動じずに、こちらも気迫を出して気持ちと気持ちのぶつかり合いになる方がよっぽど面白いし、ストレスも溜まらない。ところが、プロの選手だとしてもメンタルが弱い人間は珍しくない。ほとんどの人間は強がっているだけであり、内心はビクビクと震えている者があまりにも多すぎる。そんな人間がプレッシャーに勝てる筈も無く、相手のオーラに負けて凡退してしまう。相手の気迫に負けてしまうと今までの凡退よりも遥かに強大なストレスがのしかかる。AKIRAはそれを身を以って感じていたので、自分自身も早く気迫を出したバッティングをしたいと心に誓っていた。と言うのも、AKIRAと対戦した投手のほとんどが「思ったより絶望しなかった」と言っているのだ。これは恐らくAKIRAはまだ経験不足なので、本人さえも知らない弱点があるのだろう。相手首脳陣からはカーブに弱いと散々言われているようだが、実際にはそうじゃない。変化球全般に弱い。彼はまだ19歳の未熟なバッターなのでストレートについていくのがやっとなのだ。しかしそれでも三冠王を獲得してしまう所が、やはり天才だと言われる所以だろうか。とある試合中、技術不足で打てない変化球を「もう打たない!」と開き直りまったく手を出さなくなったのが打率と出塁率向上につながった。これまでに何度も積極的にバットを振り、初球凡打を重ねていたAKIRAだったが、苦手なボールを見送るようになってからは以外にも打率が上昇したのだ。去年の打率は.280が自分の限界だったが、今年はボールを選ぶようになって打率が.350にまで上昇していた。ホームランの数は去年と左程変わらないが、しかしそれでも低反発球で40本以上ホームランを打てる選手はそうもいない。精々、両リーグに1人や2人いるぐらいなのでAKIRAは外国人以上のパワーを持っていると噂されるようになっていた。確かに右手左手の握力は共に100キロを超えていて計り知れないが、ホームランを打つためにはパワーだけじゃなく技術が必要とされている。どれだけ握力が高かろうがミートする技術が無いとそもそも当たってくれないのだからパワーだけでは駄目だ。どんなに握力が低い選手だとしても、タイミングとインパクトが強ければ場外ホームランを打てる。なのでAKIRAはパワーヒッターと言うよりも自分はアベレージヒッターの類であると自己分析していた。


 そんなAKIRAでさえも、心と体を震撼させる出来事が起こっていた。それこそ、前述で触れたプレッシャー問題だ。観客として球場に来ているだけの鬼崎が、凄まじい威圧感を放っているのだ。これは恐らく、世界に名の知れたベースボールスターが観に来ているという感覚が選手の肩にのしかかり、重圧から逃げられない事態に発展しているのだろう。なんせ鬼崎はAKIRAが生まれる前よりもメジャーリーグで活躍していた男だ。アジア人で初めてオールスター戦のポスターでセンターを飾ったのは彼である。そのうえチームの花形であるショートに君臨し、3割30本100打点を毎年のように叩きだした伝説を持っている。そんな偉大なる選手が自分達のプレーを観ているのだから、無駄な力が入ったとしても何の不思議でも無い。むしろ、人間として当然の反応だ。


「成程……俺は知らず知らず過度な緊張していたのか。あの鬼崎に観られていると思ってしまい、体が自由に動いてくれなかったと?」


 AKIRAの言っている事は正しい。尊敬している人物が試合を観戦しているのと思えば誰だって緊張する。しかも相手は小学校の教科書にも普通に載っている程の有名人なのだから余計りな力みが入っても仕方なかった訳である。それを最初から石井は分かっていたようで、隣の席でうんうんと頷いていた。



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