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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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017  バッティングセンター


 着替えが終わると、石井とAKIRAは近所のバッティングセンターに足を運んでいた。ここは石井がオフに良く使っている馴染みの場所であり、AKIRAに紹介したのだ。


「AKIRAだ!」


 すると、リトルリーグの帽子を被った野球少年達が続々と集まってきた。突然のプロ野球選手の来訪に、子供達を目をキラキラと輝かせていた。


「君達、俺を知ってるのか」


 自分に向かって指を差した。


「知ってるよ!」


「有名だもん」


「クラスでも話題で持ちきりだよ!」


「サインください!」


 まさに、モテモテだった。全員分のサインを書き終わるまで、とてもじゃないが、練習をすることは出来ず、結局AKIRAは子供達全員にサインを書いて、ようやく石井の元に近寄った。すると、既に石井はバッティング練習をしていて、金属バットを持って来た球を打ち返している。


「耳よりの情報がある。このオジサンもプロ野球選手だぞ」


 AKIRAの後ろを大名行列のようについて来ている子供達に、石井がプロ野球選手であることを教えてあげた。しかし、


「そうなの?」


「知らなーい」


「存在感に欠けるわ」


「そうよね」


 子供達に散々言われたのが聞こえていたのか、石井は思い切り空振りをしていた。


「うるへー! 俺もプロ野球選手だ!」


 石井はそれまで以上に興奮した様子で鼻息を荒くしている。しかし、気合が入り過ぎたのか、プロらしくない空振りを重ねてしまっていた。見ると、子供達の視線が冷たい。


「オジサンのバッティングなんて見ててもつまらない」


「下手だなあ」


「僕の方がもっと打てるよ」


「ねえねえ、AKIRA選手打ってみてよ!」


 子供達から大人気のAKIRAは要望通りに打席に立った。そして、機械から放たれる120キロのボールをいとも簡単にホームラン打ち返すのだ。カキーンという金属音を立てて。


「こいつは爽快だ。ストレス解消になる」


 AKIRAはホームランを量産していた。まさに、ホームラン賞の懸賞が尽きるのではないかと心配になるほど。


 子供達は後ろから「凄い凄い」と褒め称えていた。すると、隣でバッティング練習をしていた石井が大きな声で話し掛けてきた。


「いいよな、お前は」


 そう言いながら、打ち返す。


「何がだ?」


 二人共バッティングをしながら会話を交わすのだった。


「子供達に人気があってよ」


「プロ野球選手だからな。人気が無いと逆に困る」


「おいおい、ディスってんのかよ」


 次第に石井もバットに当たり始めて、ヒット性の当たりも増えていた。


「なんだかんだ言って、先輩も人気あるくせに」


 石井は阪海一筋三十年の大ベテランだ。故に主婦や老人から相当な人気を得ているのだが、いまいち子供人気は無かった。やはり子供にはいぶし銀のオジサンより、若くてパワーが有り余った新人スターの方が輝いて見えるのだろう。


「へへっ、奥様方からの人気なら負けないぜ」


 同世代ということもあり、主婦からの人気は圧倒的で、石井は今でこそお茶目なオジサンだが、昔はクールな二枚目キャラだったのだ。当時、ブロマイドの売り上げも相当だった。


「石井先輩もなんだかんだ言ってスターだよな」


「お前の話題性には負けるがな」


「俺の話題性か」


 AKIRAは長打を連発していた。しかし、子供達から「バント」をやってとの声が有ったので、バントの構えをした。すると、後ろから歓声が響く。


「それだよ」


 コンッ、とバットにボールを当てた。


「これって、バントのことか?」


「そうだ。セーフティスクイズやドラッグバントを仕掛けるお前の姿を見て感銘を受けたのか、少年野球でバントが流行っているらしいぜ」


 圧倒的に地味なバントが、AKIRAの活躍で流行になっているというのだ。


「俺のバントが子供達に人気なのか?」


「ああ。実際に、俺のとこのガキもバント練習してらあ」


 石井の子供もAKIRAに影響されてバントの練習を始めているというのだ。それもセーフティバントやドラックバントなどの高度な技を。


「それは嬉しいな」


 AKIRAは再びホームラン量産体制に移行した。さすがにバッティングセンターに足を運んでまでバント練習はしたくないからだ。それにAKIRAは球界一のバント技術を持っているため、今更練習する必要も無い。


「今後、お前みたいな足の速いパワーヒッターが出てくるかもしれんな」


 内野に転がせば、内野安打になるパワーヒッターだ。やはりホームランアーチストにはどうしても内野ゴロが多くなってしまうため、AKIRAのように足が速ければその分、内野安打になる可能性も増えてくる。


「AKIRA二世か。そう言われるまで野球を続けられていればいいが」


「お前さんなら大丈夫さ。俺みたいな凡人でもここまで続けられたのだから」


 AKIRAの類まれなる才能に比べれば、自分は凡人だと石井は言っていた。とんだ自虐だが、その通りかもしれない。


「石井先輩が凡人か」


「お前はどうなんだ」


「何が?」


「努力したことあるのか?」


「当たり前だ。俺だって努力はしてきた」


「そうか。それは良かったよ、お前も人間だったんだな」


 石井は何だか嬉しそうな顔をしていた。AKIRAが人間だと分かって嬉しいのだろうか。


「おいおい、人間に決まっているだろう」


 そう言うのだ。


「ハハッ! あまりにも桁外れだったから疑っちまったよ」


「何が桁違いなんだ?」


「飛距離も凄いじゃないか。ホームランの平均飛距離は145メートルだっけか?」


「数が少ないからな。参考程度の記録さ」 


「謙遜するなよ。いっつも看板に当てまくってるじゃないか」


「そうだな。この前ビール1年分を貰ったが、俺飲めないぞ」


 ツネーズ戦で看板直撃のホームランを放ったのだ。その時の景品がビール1年分だった。無論、18歳のAKIRAは酒の類は飲めない。


「家族にでもあげろよ。きっと喜ばれるぜ」


「そうだな。そうするか」


 そうするのだというのだった。



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