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AKIRA  作者: 千路文也
プロ1年目  -友情-
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016  古稀の星


「ところで、石井先輩の握力はどれぐらいだ?」


「右が48キロで、左が42キロだな」


 そうだというのだ。石井は。


「そんなものなのか」


「実際、ホームランを打つには握力はあまり関係ないぞ」


「そうなのか」


「無論、無いに越したことはないが」


 そう言って、石井は肩を揉みながらくつろぎ始めた。やはり歳をとっているからなのか、会話をするだけで肩が凝るようだ。AKIRAは立ち上がって、そんな石井の肩を揉み始める。


「肩が凝ると頭痛を引き起こす」


「悪いな。AKIRA」


「どうってことないさ。これぐらい」


「俺がお前ぐらいの年の時、俺みたいなジジイはいなかった。40手間に差し掛かると、みんな現役をスパっとやめていたぞ」


 石井はそうだと言っていた。


「へえ、そうなのか」


 AKIRAは揉みに揉み倒している。


「俺より年上は日本にはいないな。メジャーにはいるが」


「石井先輩より年上がいるのか」


 そう、48歳の石井より年上の選手がいるというのだ。


「そうだ。70歳で現役メジャーリーガーの選手が一人いる」


 70歳で戦っているというのだ。あのメジャーリーグで。


「誰だ」


「嘘だろ。知らないのか!」


 石井は驚いた様子で素っ頓狂な声を出していた。そして、此方を一瞬だけ振り向いてきた。


「知らないな」


「阪海が生んだ世界のスーパースターだぞ。日本人なら誰でも知ってる」


「うーん……記憶に無い。その男の名前を教えてくれないか?」


 いくら脳から捻りだそうとしても、そういった男の顔と名前は出てこなかった。最近までメジャーリーグの存在すら知らなかったので、無理もないのかもしれない。


鬼崎喜三郎おにざききさぶろう


 低い声で呟いていた。


「鬼崎喜三郎か……知らないな」


 名前を聞いても思い出さないという事は知らないという事なのだろう。AKIRAはそう思って、素直に知らないと認めた。


「鬼崎大先輩は史上最強の5ツールプレイヤーだ。まるで侍のようにバットを腰に構えて射抜く、一本斬いっぽんぎ打法だほうで野球界にその名を轟かせた」


 あの石井が大先輩というのだ。鬼崎喜三郎は余程の人物らしい。


「驚いたな。その鬼崎という選手は本当に70を超えてプレーしているのか」


 にわかには信じられない話しだ。しかし、石井は黙々と頷いていた。それが証拠だろう。


「見てみるか。鬼崎さんのプレーを」


 すると、石井はスマホからメジャーリーグの公式サイトに飛んだ。確かにそこには『Kisaburou Onizaki』の名前が書かれているではないか。しかも鬼崎の顔は確かに老け込んで、髪が真っ白だ。それでも、鬼崎の眼は鋭く、ピッチャーを威圧しているような雰囲気を見せている。これは紛れも無く現役打者の顔つき。


「これが鬼崎選手の画像か」


 厳格な顔だ。まるで、本物の侍のように見える。


「動画もあるぞ」


「動画もあるのか!」


「括目しろ、これが鬼崎さんだ」


 しばらく待機していると、不意にムービーが流れた。そこには鬼崎がバッタボックスに立っているのだが、何球もファールで粘った後、四球を選んで一塁に歩いていたのだ。70歳を超えてもなお、バットコントロールと選球眼が一級品だ。


「凄いな」


「まだだ。気を抜くな」


 そう、まだだったのだ。次の瞬間、鬼崎はスタートを切って二塁に到達した。盗塁である。しかも悠々とセーフだった。70歳が全力疾走したというのに、鬼崎は二塁で清々しい顔をしているではないか。


「なんだ、この爺さん」


 さすがのAKIRAも驚きを隠せない。


「これが鬼崎喜三郎だ」


「走れる70歳か」


 矛盾しているようで、していない。


「バッテイングは衰えているが、メジャーでホームランを打っているのは現状で鬼崎先輩だけだ。他にも日本人メジャーリーガーは何人かいるが、全員ホームランを一本も打っていない」


「年金を貰える歳で、ホームランを打ってるのか!」


 そうだというのだ。極めて恐ろしいが。


「鬼崎さんの今年の成績をしりたいか?」


「ああ、勿論だ」


「打率.288 3本 89安打 14盗塁」


 70歳でこの成績だ。


「ありえん。どんな体の構造をしているんだ」


 このAKIRAですら不思議に思っている


「しかも、去年は200本安打を打っていたぞ」


「人の域を超えているな。一度会って話しをしてみたい」


「AKIRAがメジャーに行けば話せるだろうな」


 石井は笑いながらそう言うのだった。


「その頃にはさすがに引退しているだろう」


「どうかな。俺もそう言って、もう三十年は経つ」


「石井先輩もメジャーに行こうとしたのか?」


「俺にとっても大先輩もだぞ。そりゃ話したいさ」


 48歳で現役の石井ですら直接話した事はないらしい。それだけ雲の上の人なのだろうか。


「70歳を超えても現役を続けられる訳と理由は何だろうか」


「鬼崎先輩は異様に衰えが遅い。今も昔も、走塁、守備、打撃、全てが一級品だ」


「大器晩成ということか」


「ま、そういう事だ。俺も負けてられねえよ」


 どうやら、石井に現役を続ける意力が湧いたようだ。


「70歳まで現役か。俺はその頃、丁度40歳だな」


「普通なら引退する時期だな」


「なんだか、鬼崎さんのプレーを見ていると活力を貰えたよ。ありがとさん」


 AKIRAは礼を言うのだった。



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