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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
156/426

156  AKIRAと加々美の対決


 この日の試合、AKIRAの打撃センスが爆発していた。相手投手は広島カーツのエース加々美で彼はボサボサのロングヘアーと鎖骨まで伸びた髭をなびかせて、独特のフォームで投げる選手だ。これだけの情報ならば、まるで外国人のような印象を与えるが根っからの日本人なので心配は御無用である。それに彼とは一度、公園で遭遇した事があり、その時はホームレスかと勘違いしてしまったので試合直前に礼をして詫びていた。向こうは不機嫌でもなく愛想が良い訳でもなく、淡々とした顔で「別にいいさ」と言っただけで会話はそこで終わってしまった。恐らく、加々美は今から闘う相手と馴れ合うつもりはないと感じていて、敢えて素っ気ない態度をとったのだろうとAKIRAは予測していた。あくまでも信憑性は無いのだが確たる証拠も無いし、試合を中断して相手に言葉の真相を聞く訳にはいかなかったので、AKIRAはそうだと思う事で打席に立っていた。


 加々美は昔、速球派のピッチャーとして160キロを超えるフォーシームを武器にしてマウンドで躍動していたと情報はあったが、今ではすっかりコントロールピッチャーに様変わりしていている。その理由は怪我で160キロの直球を投げられなくなってしまい、苦肉の策としてコントロールを磨く鍛錬を行った。その結果、再び1軍に舞い戻って不死鳥の如く活躍をして、今ではメジャーリーグの関係者がスカウトをしかけてくる程のピッチャーに成り上がった。彼の速球は140前半から140後半と、そこまで速くは無い。ところが、直球と同じフォームで投げる高速スライダーがストライクゾーンの枠いっぱいに決まるのでバッターは苦戦を強いられている。それでいて、他の変化球も一級品で、それらを織り交ぜてくるのだから日本では既に敵無しとされていた。怪我明けで復活したシーズンは驚異の防御率0.68を記録して沢村賞を獲得。その後も0点台とまではいかなかったが、防御率1点台を連続して8年連続沢村賞に輝いた正真正銘のスーパーピッチャーだ。そんな加々美は今年も防御率1.08と万全の状態で、阪海ワイルドダックスとの勝負を挑んでいた。登板予定が中々噛みあわず、今年で最初の対決となるのだが、去年は完全に抑え込まれて完封試合を何度も体験させられた。AKIRA自身もまるでタイミングが合わずに、140キロ前半のフォーシームに振り遅れていたのだ。しかし、今のAKIRAは去年よりも確実に成長していると自負を持っているので、期待感を胸に秘めて左のバッターボックスでいつものルーティンをした後に、ボールが投げられるの待った。


 するとその初球。真ん中高めのストレートが投げ込まれた。本来の球速で言えば140キロ前半だろうが、バッターボックスに立つとそれ以上の速度に感じる。それに加えて、彼の速球は浮かび上がるような錯覚を植え付けられるので、火の玉ストレートと呼ばれるフォーシームにかなり近い。AKIRAはその球を見送っていたが、今回は敢えて打ちには行かなかった。積極性の心を持っているにも関わらず、初球を見逃してストライクカウントを一つ重ねる。この行為が意味するのは勿論、精神的に余裕があるからだ。AKIRAが思っていた通り、確実に去年の自分よりもバッティングが進化しているのだ。去年は加々美の発している威圧感オーラにさえ恐怖心を植え付けられ、三球三振の屈辱に終わってしまった。ところが今回は互いに対等の威圧感オーラを発しているようで、初球は互いに様子を見た形になっていた。こうして初球を見送ったAKIRAは次のボールが投げられるまでの間に、いつものルーティンをこなす。打席では特別な緊張感を感じるのであっという間に肩が凝ってしまう。そうなると血流が悪くなるのでプレーに支障をきたす危険性があるので、ちょっとしたストレッチをするだけだ。特別な事をせずとも当たり前の動作をこなせば、いつの間にかそれがルーティンとなるので至って問題は無い。


 続いて第二球はAKIRAの苦手な外角高めのコースに投げ込まれた。AKIRAはここで敢えてバットを振り、苦手なコースと正面から向き合おうとする意志を現す。これは以前監督から教えられた言葉から突き動かされた物である。今もまだ完全に治ったとは言えないが、AKIRAはホームランを打てる理由が分からなくて苦しんでいる。そんな時に監督から「恐怖から逃げるな。迎え撃て」と言われたので、ここでその言葉を胸に秘めてバットを振ったのだ。しかし、心の中でひそかにストレートだと思った球は打者から逃げるように横へと延びていく。そう、これがストレートと全くフォームが同じの高速スライダーだ。速度も大差ないのでほとんどの打者が完全には見極めきれずに終わってしまう。だが、AKIRAは土壇場で巧みなバットコントロールを発揮した。バットにさえ当てれば前に飛ぶ自信はあったので、とにかくタイミングを合わせた。その結果、体勢は崩れてしまったがバットがボールに当たった。



 バギュウウウンンンンンン! 



 打ったボールはてんてんとショートとセカンドの間を抜けていき、センター方向に転がった。センターがボールをキャッチした頃には既にAKIRAは一塁ベースに到達していて一塁手の外国人選手と談笑を交わしていた。本来ならば内野ゴロに打ち取られてもおかしくはない打球だったのだが、思ったより打球のスピードが速かったおかげで何とか抜けれたのでホッとしたと流暢なスペイン語で説明するAKIRAだった。彼は10歳になるまで両親の都合でアメリカに住んでいたので、英語とスペイン語はペラペラに喋れるのだ。しかも本場仕込みなので、日本語訛りもなく、スームズに語ることが可能である。



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