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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
152/426

152  我思う、故に我あり


 AKIRAは常に自分を疑ってきたが、その中でも自分の意識だけはそのような眼差しを向けずに信念を貫いていた。何故意識だけが特別扱いされているのかと言うと、自分のプレーを疑っている時は意識が正しいと断言できるからに他ならない。フランスの著名人デカルトは「我思う、故に我あり」と言っていたが、AKIRAはまさしくそれは実在していると断言できるのだ。何かを考えている時の自分を疑っていては話が進まずに、何も進展しないのを分かっているからこそ自分の意識だけは正しいと断固とした決意を持って物事に取り組もうと出来る。自分を疑う行為は人として生きるためには必要な行為であるとAKIRAは考えているが、それでも自分の全てを疑っていてはいくら精神力があっても足りないのだと仰っている。疑うべきは自分の行動だけで、行動を決定するための意識を疑っていては絶対にいけないと言うのだ。この考え方は昨年144試合をフル出場してから唐突に思うようになって、理想の自分に近づくためには必要な行為だと悟るように変化が起きていた。以前のAKIRAは自分の意識さえも疑っていて、精神的にも不安定な状況が続いていたのでそれでは何も得られないと至った訳だ。しかしだからと言って、考えるだけでは事態は好転しないのは当たり前である。勇気を振り絞って前進していくのが人生において非常に大切であり、当たり前の事からは決して逃げてはいけない。小学生の時には当たり前にやっていた行為を過小評価して仕事をするのは決してありえないと、少なくとも今のAKIRAは結論に至っていた。特に読書や明日の準備は時間がかかるので面倒だと避ける大人が大半を占めているがAKIRAは違う。その2つがどんなに面倒だろうとも明日に活力を見出す原動力になると分かっているので、時間を割くだけの価値はあると判断できるのだ。このように、壁にぶち当たると子供の時にしていた当たり前の行動を再度見直すのが真のプロフェッショナルだと言えよう。


 そんな事を考えながらバイクを運転していると公園で飯を食べている男が視界に入った。公園で飯を食べるのは当たり前と言えば当たり前だ。しかし、この時ばかりは妙に気になって頭の中から彼が離れずにモヤモヤとした気持ちが襲ってくる。こうなった時は無視をしてバイクを走らせるのが常人の思考であるがmとにかくAKIRAは野球の妨げになる存在を排除しようと考えるので、この場合のAKIRAはバイクから降りてヘルメットを外して彼の元に赴いた。本当は他人と喋るなんて苦手も苦手である。それでも、頭の中にモヤモヤとした感情を残したまま球場に向かうのは今後のプレーに大きく影響が出ると思ったのでAKIRAは勇気を振り絞って話しかける事にしたのだ。それに今の自分はペルソナを被っているので、どうとでもなるポジティブな気持ちを抱いていた。それだけ普段の渡辺明と野球選手のAKIRAは陰と陽の存在になってしまっている。しかし、それが面白いのだと感じるが故に普段は何も考えずに陽気に喋り、球場に赴くと言葉の意味を吟味しながら冷静に喋るといった具合に変化を生み出している。これは変化こそが脳に新鮮な空気を吸わせるための行動なのだと独自に考えているAKIRAならではの思考だった。


 そして、AKIRAはベンチに座っている男に近づいていた。しかも今のAKIRAは何の変装もせずに革ジャンとジャージを履いているだけなので普通ならば気が付く筈だ。隣に世間を賑わせている和製大砲が立っていると。しかし、ベンチに座っている男は違っていた。AKIRAの事に気が付いているのではなく、むしろ人間が隣に立っていて気味が悪いといった表情で黙々と飯を食っている。つまりAKIRAをAKIRAだと認識していないのだ。これには変化を重んじるAKIRAもよりいっそう興味を抱いて思わずニンマリとしていた。それもそのはずだ。今の彼は日本中の人々に顔を知られている程の知名度を誇っているので、何処を歩くにも変装が必要な程だ。それなのに、ベンチに座っている男は無表情で黙々と弁当に食らいついているのだから、凄まじい思考回路を持っているのだと予想して興味を抱いてしまっていた。こうなると、話しかけるのも時間の問題だった。AKIRAはいつものように独特の低い声を出して相手に語りかけていた。


「こんなところで飯を食っていて平気なのか。もう夕方だぞ」


 目の前の男は汚らしい髭を生やしていて髪もボサボサである。どうみても浮浪者にしか見えないが、相手に向かってホームレスだとは言えないのでAKIRAは遠回りの言葉を投げかけたのだ。するとコンビニ弁当にありついていた男はピタリと箸の動きを止めると、弁当をベンチに置いて立ち上がったではないか。しかもAKIRAと身長がほとんど一緒なので2メートルの身長がある事を意味している。ここまで背の高い浮浪者など見た事も聞いた事もないので度胆を抜かされながらも、更なる変化を感じているAKIRAは胸が鼓動して幸福感を抱いていた。


「そうですね……。そろそろ仕事の時間だ」


 目の前の男は明らかに年上の出で立ちをしているのにも関わらず、AKIRAに向かって敬語を使っていた。さすがにこれには違和感を感じて仕方がないので自分はまだ未成年だとジェスチャーを交えて伝える事にした。


「おいおい、俺はまだ19歳だぞ」


 すると、目の前の男は仰天した顔で目を見開いてた。どうやらAKIRAの低い声と大人っぽい印象を見て自分よりも年上だと判断していたようだ。


「なんだと? 俺より9つも下なのか。しかもまだ10代とは恐ろしいな」


「お言葉を返すようだが、あんたもとてもじゃないが20代には見えないぞ」


 こうして実際年齢より幾分も老けて見られる2人は出会ったのだった。



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