151 何故かメジャーリーグに挑戦しない男
プロ野球界で他者を圧倒する成績を残した者の大半はメジャーリーグに行って道の世界を体験する事になる。だが、ほとんどの者はアメリカの過酷なスケジュールに耐えきれずに不調を訴えて帰国する者がほとんどだ。投手はまだ休みの期間が長いので持ちこたえているが、野手となればもう壊滅的状況だ。去年、渡米した野手は一人残らずトリプルエーに降格してしまっている。日本では3割20本100打点を記録した選手であっても、アメリカではトリプルエーが関の山なのが今の現状だ。無論、これはポジションによって変わってくる。セカンドやキャッチャーなどの強打者が比較的少なめのポジションで、シーズンを通して2割後半も打てれば万々歳だ。しかし、外野やファーストなどの強打者がでやすいポジションであれば少なくとも打率を3割近く残さないとメジャーの椅子は約束されない筈だ。このように、野手と言ってもポジションによって求められる打撃力と守備力は違ってくるので何とも言えないが、少なくとも最近の日本人野手メジャーリーガーは最低限の仕事を出来ない者がほとんどである。こうなってくると、メジャーで40年以上プレーしていて未だに一流の成績を残している鬼崎の評価がうなぎのぼりなのは当たり前で、彼は宗教国家のアメリカで現人神と呼ばれる程の評価を全米から受けているのだから恐れ入る。彼の一言には審判さえも狼狽える程で、急遽鬼崎を含めた審判同士で話し合いが行われるのだ。
このように、今ではメジャーリーグで活躍している選手は鬼崎だけだと言っても過言ではない。その理由は、大した成績を収めていないのに勘違いして渡米する選手が圧倒的に増えたからだ。「高齢の鬼崎が活躍出来るのだったら俺も余裕だろ!」と、たかが3割20本100打点を2年続けて達成しただけで舞い上がって渡米してしまう選手がかなり多くいるのが今の野球界の現状だ。昔は誰もが納得する数字を何年も続けた選手だけがメジャーに挑戦して見事活躍した後、アメリカで引退して日本に帰るのがテンプレとされていた。しかし、鬼崎の存在が良い意味で他の選手にメジャー願望を植え付けてしまい、結果的に中途半端で帰国する選手が大半を占めているのだ。
しかし、そんな中でも日本で圧倒的な成績を長期間残している選手が存在する。防御率1点台を8年連続で記録していて、沢村賞を何度も受賞している投手が日本球界に座している。日本球界が誇れる現在の至宝は野手で言えばAKIRAだが、投手にも至宝と呼ばれる者がいるのだった。その者の名前は加々美仁と言い、年齢は28歳とまだまだ若い。今が成長のピークで後は全盛期が待っているのでその期間中にメジャーに挑戦した方が良いのかもしれない。ところが、加々美は頑なにメジャー挑戦を拒否して日本でプレーをする事に拘りを抱いている。もしもその理由が球団愛とかならばいいのだが、加々美はトレードとFAを経験しているので生え抜きではない。むしろシーズンオフになると球団側と契約で揉めて年俸の釣り上げを要求する程の男なので球団の事を愛おしいと思った事なんて一度たりともないのだろう。そんな金に汚い男がどうしてメジャーに行かないのかと問われれば、それは本人にしか分からない理由があるとしか言えない。少なくとも、並々ならぬ事情はありそうだ。
そんな加々美と対戦する機会があった。しかし、両者共に不思議と面識が無くて去年も対戦した筈なのにまるで記憶が無かったのだった。




