015 最年長と最年少の談笑
試合前、AKIRAはロッカールームで石井と話しをしていた。チーム最年長とチーム最年少の話が合うのは中々みられない光景だが、AKIRAは年配者と会話するのが得意らしい。
「そろそろ、オールスターが始まる時期だな」
AKIRAがスマートフォンのアプリに熱中していた時、石井が話しかけてきた。AKIRAは手を止めて、スマホを膝の上に置く。
「オールスターか。名前は聞いた事がある」
話が長くなりそうなので一旦アプリを閉じて、石井の顔を見上げた。
「名前だけかよ。何をするのかも知らないのか?」
「それぐらいは知っている馬鹿にするな」
「悪い悪い」
石井は素直に謝っていた。しかし、
「メジャーの選手と日本の選手が戦うんだろ?」
AKIRAは突拍子も無いことを言い始めた。
「それは日米野球だ!」
石井はパイプ椅子から転げ回りながら突っ込みを入れた。
「それじゃあ、どういう意味だよ」
なかば逆切れの状態でAKIRAは尋ねていた。
「オールスターってのはな。ファン投票で選ばれた選手たちがリーグごとに別れて試合をするんだよ」
「ラ・リーグとマ・リーグに別れて試合をするのか?」
AKIRAが所属している阪海ワイルドダックスはマ・リーグだ。
「そうだ。本来なら敵同士の選手たちが、オールスターでは同じチームになって二日間だけ戦うんだ。毎年の恒例行事だな」
「そうなのか。それって俺も出れるのか?」
AKIRAは自分の顔に向けて指を差した。すると、石井はドテンとパイプ椅子から転げて頭を打った。そして、頭を触りながら「いてて」と言って、再びパイプ椅子に座り直す。
「全選手に出場可能な権利がある。ま、選ばれないと意味は無いが」
「そうなのか。せっかくだから俺も出たいな」
「謙遜するなよ。お前は確実だろうが」
そう言うと、石井はスマホでオールスターの途中結果を表示した。すると、AKIRAは外野手部門でぶっちぎりの一位だったのだ。これにはAKIRAも驚いた様子で口を金魚のようにパクパクと動かしているではないか。
「おいおい、独走じゃないか」
「前半戦の途中で二十本もホームランを打つ高卒が何処にいる?」
「ここにいる」
AKIRAは言った。自分は前半戦の途中で二十本ホームランを打ったのだと。
「だからだよ。ファンもお前を一目見たくて、投票してくれたぞ」
「それはありがたいな……で、石井先輩は?」
その瞬間、石井の顔がニヤけた。石井はスマホをタッチして、上部にスクロールしていく。すると、石井は遊撃手部門で一位を獲得していたのだ。あの成績で。
「もちろん、俺も選ばれているぞ!」
「さすがだな。三十年も現役を続けていることはある」
「これで、俺は三十年連続オールスター出場が間近になった」
すっかり、石井の顔はニヤニヤと笑っていた。やはりファン投票で一位になった自分の名前を見るのは嬉しくてたまらないのだろう。
「そんなに出ているのか」
AKIRAは口を大きく開いて驚いていた。
「昔はホームランを量産する選手がたくさんいて、オールスターも賑わっていたんだが、去年はホームラン打者がまったくいなくて盛り上がりに欠けていたな」
「今年はどうなんだ?」
「今年も少ないな。低反発球を使っているからホームランがでにくい」
「だから和製大砲が減ったのか」
「お前が出てくるまで、それはそれは壊滅的だった。去年は日本人打者トップの成績がホームラン二十五本だったからな」
「それは誰だ?」
「ツネーズの矢部だよ。お前とホームラン王争いをしている」
実は矢部も二十六歳という期待の若手だ。今年は長打力が成長して、今の時点で二十五本を打っている。そう、前半戦だけで去年の成績を叩きだしているのだ。
「聞くところによると、奴も筋トレが好きらしいが」
「右の握力が97あると聞いたな。左は88とか」
ツネーズの矢部は筋肉隆々である。だからこそ、メジャーで通用する捕手として、ひそかに名が挙がっていた。矢部もAKIRAと同じように英語を話せるのだ。
「へえ、中々じゃないか」
AKIRAは素直に感心していた。矢部は性格は最低以下だが、選手としては尊敬の出来る部分がたくさんあるのだ。
「でも、お前は高校一年の時に握力測定器が振り切れたんだろ?」
「あの時は筋トレが趣味だったからな。それに乗じて握力も増えていった」
そうだというのだ。
「そこまでいくと、異次元だな」
「石井先輩の記録に比べれば、俺なんて雀の涙だ」
そうだといっているのだ。
「お前も怪我なく長続きしろよ」
「ああ。気を付けよう」
そうだといっていたのだった。
「怪我で野球人生が終わった奴は何人も見てきた。どんなに野球の才能があったとしても、怪我をすればもう終わりだからな」
「怪我をしない体づくりが大切なんだな」
そうなのだ。無事之名馬という言葉もあるように、怪我をしないことは野球において非常に大切なことだ。考えも無しに野性味あふれるプレーをしていれば、あっという間に怪我をしてしまう。そうじゃなくて、スマートなプレーを身に着けるのが大事だ。
「その点、お前は頑丈だよな。鋼の肉体かよ」
「人生で一回も風邪を引いた事は無いし、学校も休んだことがない」
怪我や病気とは無縁の体だと言うのだ。この男は。
「俺は怪我をしたことは一度も無いが、風邪はよく引くぞ。お前が羨ましいよ」
「親がくれたこの体を誇りに思うよ」
AKIRAは、両親の家の方角に向かってお辞儀をしたのだった。
「お前の父親もプロ野球選手だったらしいな」
「ああ。石井先輩と同期入団だ。親父は一軍にあがれないまま戦力外になったけどさ」
AKIRAの父親と石井は同い年だという。
「その体も父親譲りなのか?」
「そうだ。肩幅が広くて腕が太いのも親父譲りだ」
「尻もデカいな。そんな体で良く170キロも投げられるな」
「若い証拠かもしれん」
すると、石井は頷いていた。この答えで納得したのだろう。




