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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
148/426

148  自分らしさとは何か


 8月が始まってからは、自分のバッティングを見つめ直すための日々を過ごしていた。どうすればホームランの数を少なくしてヒット性の当たりを増やせるかと考えているAKIRAの表情はとてもじゃないが野球を楽しんでいる様子には思えなかった。むしろ野球というスポーツに辛さを感じていて、苦痛を噛みしめている雰囲気を醸し出していた。これにより、他の選手は容易にAKIRAには近づけないと考えていただろう。それは本人にとっても同じようで、今は他人の意見よりも自分の内なる言葉に耳を傾ける時間だと自覚もしていた。それだけ、AKIRAが抱えている悩みは常人の抱えている悩みとはかけ離れていて時間的余裕さえも払拭するような壮絶な労力を費やしていた。そして彼が自問自答を続けていく内に、とある考えを導き出していた。どうやら自分は思っている以上にプロ野球の環境に対応しているようで、それについていけない自分がそこに存在していると結論に至った。要するに、免許を持っていない人間が自動車に上手く乗れないのと同じで、体の成長についていけない自分がいるのだとAKIRAは考えている訳だ。


 そして自問自答を続けていく内に自分らしさとは何かと、考える機会が増えていた。バッティングをする上での技術や守備の流れなどは関係なく、むしろ野球選手として生きていく上でファンの人達を魅了させられる点は何処なのかと考えるようになっていた。それもこれもAKIRAの心の中に存在している接客魂が燃えたぎっているからであり、ファンの人が求め続けるためには自分らしさを追求しないと無理なのは言うまでもない。自分の存在が認められるようになって、初めてファンの人達はAKIRAのプレーを求めるので自分にしか出来ない事をどれだけ人様に見せられるかが重要になってくる。それはすなわちオリジナリティーだ。もはやこの世のほとんどのコンテンツはネタ切れとなっている。映画やドラマに続き物が多い理由がそこである。もはやオリジナルを出すためのネタや情熱量さえも足りないので、人気の作品をシリーズ化して自らのオリジナルの無さを必死に隠そうとしているのが今の世界の現状だと言える。だが、AKIRAはそんな現状をしっているからこそ、敢えてオリジナルを極めると心に誓っていた。


 そこで、自分は他の選手と何が違うのかと自分に問い続けた結果、身長2メートルを超えた偉丈夫でも足が速ければ盗塁も出来るのだと導き出した。そもそも2メートルを超えている野手が日本球界にはAKIRAしかいないので、偉丈夫は活躍出来ないと言われ続けたジンクスをAKIRA一人の存在が跳ね返した事になる。つまり、自分が本来の活躍を続ければオリジナル性は磨かれると結論に至ったのだ。しかし、その本来の活躍が上手くできていないからこそ苦悩の日々は続いていた。AKIRAが唯一達成感に似た感情を芽生えるのは足を生かしたプレーをしている時だけであり、バントヒットや内野安打を放った時こそが本来の活躍をしたと胸を張って言える瞬間だった。それに球場に足を運んでくれるお客さんのほとんどは、AKIRAが最年少で世界陸上に出場した頃からのファンであるため、足を生かしたプレーをすると、ファンの人達は無上に喜んでくれるとAKIRAは知っていた。


「昨日の盗塁は4年前の世界陸上を彷彿とさせるものだった」


 AKIRAはアメリカの野球掲示板の英訳をしていた。あの国はメジャーリーグだけではなく、他国のリーグに興味を抱いているファンが多く存在しているので日本プロ野球に詳しい人間はたくさんいる。だからこそ、AKIRAは米国のファンサイトを見て刺激を求めていた。というのも、日本のファンの人達が書いてある掲示板を見るよりも、アメリカのファンが抱えている考え方を取り入れる方がAKIRAには性に合っていた。他国という名のワンクッションを挟む方がダイレクトに胸に響いてしまうのが、精神面で追い込まれている自分がここにいるのだとハッキリと分かってしまった。日本の生の声が聞けずに、アメリカの数少ないファンの声に頼るようになっているのだろう。定かでは無いが、そう思う事によって自分を安定しようとしていた。


 いつもならファンの意見に耳を傾けるのは最小限に食い止めていたAKIRAだったが今の彼には心の支えとなる言葉が欲しかった。それだけ野球は精神的に追い込まれるスポーツで決して楽しい球技では無いのだとプロ野球に入ってからは特に思うようになっていた。実はこれに似た感覚は既に体験済みなので、耐性があっただけまだマシだと少しだけポジティブに考えられる自分もいた。というのも、100メートル走の日本最速記録を更新し世界陸上に出るようになってからあれほど好きだった陸上を退屈に感じる瞬間が確実に増えていた。当時はまだ子供だったからその理由は分からず仕舞いだったが、プロ野球選手になってからは、何故陸上に恐怖と不安を抱くようになったのかがちょっとだけ分かるようになっていたのだった。



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