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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
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147  2年目のジンクス


 それからも不調は続いていた。打ちたくもないのに、ホームランの数は増えていく。その度に観客から称えられて、自分の中にもどかしい思いを抱いていた。気が付けばホームランの数は増えていくが、内野安打やバントヒットの数は激減しており、前半戦だけで4割あった打率もいつの間にか3割代前半にまで下回っていた。それでも前年と比べれば打率もホームランの数も向上しているのだが、AKIRAは納得していなかった。本来の自分はホームランアーチストなどではなく、足を生かしたバントヒットや内野安打でファンを魅了する単打ヒッターであると自覚をしていた。それでも勝手に増えていくホームランの数を見ていると精神的に追い込まれて、単打を放つ練習に取り組んでいた。それこそ睡眠時間や趣味の時間を減らしてまで、自分を追い込んでいたのだが、どうしても量産体制が終わらない。打ちたくないと思っていても、何故か打ててしまう。誰よりも理由を重んじるAKIRAにとっては常人が考えられない程の精神的ストレスを受けていて、次第に彼は試合中にも関わらず泣きそうになる瞬間が増えていた。これは決して悔しい訳じゃなく、むしろ自分が本来持っているポテンシャルを十分に生かしきれずにファンの人達に誤解を生み、称賛させてしまっている自分の不甲斐なさに涙腺が緩みそうになる。だが、その度にAKIRAは歯を食いしばって弱い自分を必死に奮い立たせている。


 それでもホームランを打ってしまうイップスは続いていた。7月には15本もホームランを放った事で月間MVPを獲得していたが、インタビューの際には明らかに暗い表情をしてしまっていた。そしてその場では「決して誇りとは言えない。自分は満足していない」と答えたのだが、これが結果的にファンの人達を更に盛り上げてしまったのがAKIRAのミスだった。それからというもの、誰もが認めるスーパースターとして人々は更に熱狂的な視線でAKIRAを見るようになってしまったのだ。もはや途方に暮れていた彼は次第に部屋の中に閉じこもる生活が増えてしまっていた。自分の思い描くヒットを打つことが出来ない、打ちたくも無いホームランが勝手に増えてしまう。これは精神的に弱さがある自分にしか分からないスランプであると分かっていたので、下手に誰かに相談すれば反感される恐れもあるので、誰かに愚痴をこぼす事も出来なかった。その結果、AKIRAは冷静な表情でマシーンのようにホームランを連発させる試合が多くなってしまっていた。その反動で、試合が終わると人が変わったかのように笑顔を振りまいてファンの人達にも接するのだが、自分の意識が徐々に薄れているのをAKIRAは感じていた。フィールドに立っても野球をしている気持ちになれず、むしろ普通の会社員のようにキーボードを叩いて書類を作っているような感覚に陥っていた。それぐらい、AKIRAにとって理由の分からないホームランは心を苦しめる存在に成りえていた。


 気晴らしにバントヒットを打とうと思っても、立場上それが出来ない。AKIRAの活躍によってふたたび4番の座に逆戻りして長打を期待されるようになっていた。単打を放つ事を生きがいに感じているAKIRAにとっては、長打狙いのバッティングは苦痛の種でしかなかった。そもそも彼は単打の延長線上に長打はあると考えているので、始めから長打を狙って打ちにいく事に違和感を感じて、たまらなく辛い。本当は監督にこの事を話して単打狙いのバッティングをさせて欲しいと言いたかったが、阪海の戦力を考えればとてもじゃないが言えなかった。それに自分の考え方がどうあれ、4番として機能しているのは間違いないので、文句を言える道理すら無かった。それが同時にAKIRAを苦しめる材料になっているのは言うまでもない。


 テレビや雑誌でも毎日のようにAKIRAを特集しているので、どうしても世間と自分のギャップを感じてしまう。野球評論家も解説者もプロの目線でAKIRAを称賛しているので、自分の考え方が全否定されているような感覚になって悲しくなってくる。どうしてここまでAKIRAが単打に拘っているのかというと、野球に出会った高校1年生の時が原因だとハッキリと言える。あの時はまだホームランを打つ技術など無くて、とにかく「単打を打て」と監督に教えられていた。そして初めての試合でバントヒットを成功させて単打を放った時には猛烈な達成感と満足感を感じて、恥じらいもなく大声を上げて悦んだ時代が思い出される。その記憶があるから、AKIRAはいまでも足を生かした単打を打つ事に生きがいを感じる。それにホームランを打つとダイヤモンドをゆっくりと一周しなければいけないので、走る事が大好きなAKIRAには精神的苦痛になるだけの理由があった。


 だからこそ、今までのAKIRAは狙って長打を打ちにいくバッティングスタイルを貫いてきたのだが、ここにきて理由の分からない長打が増えてしまっている事に違和感を覚えていた。そしてAKIRAはこの感覚こそが『2年目のジンクス』ではないかと思えるようになっていたのだった。



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