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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
146/426

146  自問自答


 AKIRAには遥かなるビジョンがあった。それは40歳を超えても脚力を生かしてバントヒットを量産したいという熱い思いだ。ほとんどの選手は40歳を迎えると引退が囁かれるようになるが、鬼崎や石井が伝説を作ったことで、まだまだ活躍出来るんじゃないかという意見も増えてきた。やはり人間は不可能を可能にさせた人物が過去にいると、現代でも可能なんじゃないかと思う種族のようで、昔ほど年齢に対して色眼鏡で見る人間は少なくなっていた。そしてそれはAKIRAも同じである。以前は40歳以上で現役を続けているスポーツ選手を見ていると「なんで晩節を汚してまでプレーするのだ」と素で思っていたが、鬼崎という選手の存在を知ってから40歳以上になっても選手といられる人達にそれなりの誇りを抱くようになっていた。それに人間は40歳を超えると人間的にも熟してくるので、その時にも現役でいられるようにと、今と昔では完全に考え方が変わっていた。昔は「40歳を迎えたらスパッとやめようと」思っていたのに、今では「40歳を超えても現役でバリバリに活躍したい」という気持ちの方が圧倒的に心の中を占めていた。


 勿論、40歳でプレイヤーとして活躍するためには好成績を残さなければならない。中途半端に活躍するだけでは決して40歳まで現役を貫くのは不可能だ。なので40歳で原石を続けている選手はそれなりに活躍している選手なので、自分よりも遥かに強くてかっこいい選手であるのは言うまでもない。人々はAKIRAの事をスーパースターだと称賛しているが、その声を聞くたびに背筋が凍りつくような感覚に陥る。そもそも自分は多少の結果を残しているだけのルーキーに過ぎないので、まるで長年好成績を残しているレジェンド達のような見方をするファンが圧倒的に多いので、プレッシャーを感じざる終えなかった。彼ら彼女らが期待しているのは好成績を維持するAKIRAなので、世間の目がこんなに辛くなるのかと苦悩の種になっていた。勿論、ファンの人達に歓声を受けるのは嬉しいが、それはあくまでも表面状でしか過ぎない。裏では称賛の声にプレッシャーを感じている自分がいるので、「俺って弱いな」と思う機会が更に増えていた。しかし周りの人間はこれでもかとAKIRAの事を完璧超人だと褒め称えるのが自分の声と世間の声とでギャップを生んでいた。今は何故、ホームランを打てたのかという疑問に吟味をしないといけない時間なのに、その事ばかりが頭の中を駆け巡っている。


「流し打ちでホームランとは恐れ入るぜ。さすが天下のAKIRA様だな」


 誰にでも分かるアイロニーを投げかけてくる知念の事など、眼中にも無かった。というより相手にする余裕さえも無いので、取り敢えず適当に聞いたフリをして相槌を打っていた。今大事なのはホームランを打った理由を知ることなので、誰かとコミュニケーションをとっている暇など無かった。どんな物事にも優先順位というのがあるのは当たり前だが、この場合は誰かと喋るよりも疑問を吟味して答えをみつけようとする意志の方がよっぽど大事だった。特にAKIRAは疑問を解決する行為を毎日のように積み重ねて、プロ野球の舞台に立つまでになったので優先順位は後者の方が上だった。


「何も誇れることじゃない。お前もいずれ打てる筈だ」


 AKIRA程ではないにしても、知念にもパワーがある。パワーだけならメジャーリーガーの主力級選手と引けを取らないとまで言われていて、それなりの技術もある。知念にも球界を代表するパワーヒッターになれる素質は十分にあるので、知念もいずれは流し打ちでホームランを打てると確信を持って言えた。なんせ、凡人の自分でさえも打てたのだから知念にもきっと出来るという考えがあった。それに今は相手の事よりも自分の事を考えるべき時だったので、とっとと会話を終わらせて自問自答に戻ろうと考えていたのだが、こういう時に限って知念は流暢に話し掛けてくる。いつも無愛想な顔をして、滅多に言葉を交わさないにも関わらずだ。これにはAKIRAも溜め息が出そうになったが、他人に甘いAKIRAは素直に会話に付き合ってやろうと、先輩風を吹かせ始めていた。


「ああ……そうだな。俺様もいずれやってみせるさ」


 相変わらず、知念は絶対的な自信を持っている男だった。AKIRAとは真逆の存在であり、常に自分が最強だと疑わないタイプなのだろう。そんな磁石のS極とN極だからこそ、会話をすることで得られる物もある筈だとAKIRAは妙な感覚に陥っていた。バッティングタイプは自分と似ているのに、人生のタイプは真逆というのがAKIRAにとって面白いと思わざる終えない点だった。なので彼と話していても不快感は無く、むしろ楽しい感情が芽生えるので、悪くはないのである。しかし物事には優先順位があるので、出来る限りは自問自答に時間を割きたかったのだがと、AKIRAは心の奥底で思っていた。



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