表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
142/426

142  誰しもが孤高である


 来年で20歳を迎えるAKIRAは、今が絶頂期だとファンや評論家は口を揃えて言っている。2年目のジンクスをものともせずに進み続ける姿を見てAKIRAの事を完璧超人だと錯覚してしまうケースが増えているのだ。しかし、彼は誰よりも凡人でメンタルも非常に弱いので、ハッキリ言ってそこらの高校生よりも打たれ弱いし、悔しさにまみれる日も当然ある。だが、球場で見せているAKIRAの冷静沈着な態度がファンや評論家を錯覚させる要因となっていた。本当は打席に立っているだけで吐きそうなぐらいのプレッシャーに襲われているのだが、それを我慢して結果を残しているから彼は絶好調だと見られがちだが、毎日絶不調で元気の欠片も無いのがAKIRAという野球選手だ。それでも球場に足を運んでくれているファンの人達やテレビの前のちびっ子達の期待を裏切らないように、必死でヒットを打とうともがいている。プロの世界には高校野球のような楽しさなど全くなく、球場に行こうとするだけで憂鬱になってシューズを履こうとする手も震える。現時点で首位打者、最多安打、最多ホームラン、最多打点、最高出塁率、最多盗塁という輝かしい成績を残しているにも関わらず、精神的に追い込まれてしまうのだからやはりAKIRAは打たれ弱い性質を持っている。20歳という若さで他者を圧倒する成績を残しているから不安や緊張を覚えてしまっているのもそうだが。


 それでも野球選手として頑張れる理由はやはり、毎日のように届くファンレターだろう。特に小学生や幼稚園生からの手紙が圧倒的に多く、とてもシンプルな内容ばかりだ。「頑張ってください」とか「応援しています」という一言に、お世辞とも言えないが似てないイラストを書いて送ってきている。だが、それがAKIRAにとっては涙が出そうになるぐらい嬉しくなるのは言うまでもない。常に逆境に立たされていて、受け身で野球をしていればどうしても不安を感じたり、後ろ向きになってしまう。試合中は前向きかもしれないが、いざ家に帰ると我に戻ったように悲観的に物事を考えてしまう。どれだけホームランを打って称賛されようとも、彼は決して調子に乗るような真似をしないし、それどころかホームランを打つ事に対して多少の恐怖感を感じているのだから、やはり彼は精神的に弱い部分を抱えている。だからこそ、子供達から送られてくるファンレターに心を打たれて、泣きそうになる自分がそこにいた。


 どれだけの成績を叩きだそうが、決して満足する事は無くむしろ疑問に感じるのがAKIRAという野球選手の特徴である。特に全打席ヒットや守備でファインプレーをした時は何故、自分は好プレーを出せたのかと疑問を感じる。いつも練習で好プレーの練習をしているから、本番でも出来たのかもしれないが、もしかすると偶然の産物だったかもしれない。それだけ自分のプレーに納得も出来ていないし、信用もしていない。まだプロ生活2年目だからこそビギナーズラックという言葉があるようにたまたま上手くいっているのかもしれない。疑問と不安は尽きないが、それらがあるからこそ前に進めると言っても過言では無い。少なくともファンの人達が自分のプレーを見るために球場に運んでくれる以上は、どんなに苦しくても試合に出続けないといけないし、AKIRAは結果を残せる野球選手なのでチームのためにも活躍をしないといけない。そういう意味では、彼は今まで自分のために野球をやってきたという気持ちなど微塵も感じられなかった。他人から求められているから野球をやっているだけであり、もしも彼を慕ってくれる人が一人もいなければ野球選手という道は選ばなかっただろう。だからもしも自分が40歳を超えても野球選手として現役を続けられたのなら、求められる範囲内でプレーを続けたいという思いもあった。誰よりも見てくれる人のために野球をやり続けていた彼ならではの発想であり、他の野球選手とは明らかに違う感情を彼は抱いていた。というのも、成功している選手のほとんどは自分のために野球をやっていて、その延長線上にチームメイトやファンの人達がいるというのがありきたりだ。しかし、AKIRAは根っからの接客業タイプのようで、人に奉仕する事に最高の喜びを感じている。だが、その考え方を他人に教えたことなど無いので、ファンや評論家はAKIRAの事を『孤高の天才』と言って称賛しているのだからズレが生じている。だが、それは当たり前だ。本当の自分を知っているのは自分だけなので、本当の自分と他人から見た時の自分が違うのは当たり前の事でありAKIRAも他人の意見は左程気にしないタイプなので、そのズレを不安に思うような事はしていなかった。むしろ他人の評価よりも自分の中に湧きあがる疑問や苦悩にだけ不安を抱く事をしているからこそ、自分の中だけでストレスを溜めこむのがAKIRAだった。それ故に、孤高と呼ばれるのは意外にも正しいのかもしれない。自分は天才ではないとハッキリと否定は出来るが、孤高を否定するのはあまりにも難しいからだ。どんなに他人が大事だと言っていても、球場に足を運べば誰も助けてはくれないし、自分の理性だけを頼りにフィールドを駆けなければならないのだから誰しもが、ある意味では孤高であるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ