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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
141/426

141  最上のストレス解消方法


 ストレス解消方法を思いついたのは中学2年生の時だった。あの時は陰湿な先輩達に絡まれてロクに練習をさせてもらえずにストレスが溜まる一方だった。「世界大会で銅メダル取ったくせに練習する必要あるのかよ?」という愚かな考え方をしている先輩に邪魔をされて、練習が出来なかったのは中学時代で一番辛かった出来事だ。なぜならばAKIRAは誰よりも自分は凡人であると胸を張って言えるぐらい才能が枯渇してしまっているので、誰よりも練習をしないと直ぐにでもスランプが訪れて誰かに抜き去られてしまうだろうという思いが強かった。しかし、中学時代の先輩後輩関係はプロ野球界よりも厳しいと断言できる。1年歳が離れているだけで神様と奴隷ぐらいの関係性が出来上がってしまうほど、学生時代の先輩後輩は恐ろしい。そんな中で神様である先輩に文句など言えるはずも無く、AKIRAは傍観と指導の日々が続いていた。一個下の後輩に世界トップレベルの脚力になるにはどうすべきを教えた後は、何もせずに練習風景を眺めている。先輩に「練習するな」と言われれば刃向えないという関係性が出来上がっているのは、学生の悪い習慣だ。


 そんな中で、AKIRAはどうやってストレスを解消しようかという一点のみに時間を費やしていた。練習出来ないのは仕方ないと諦められるがそれでもストレスは溜まってしまう一方だったので、不平不満を発散する方法を考える必要があった。そして今のプロ野球選手時代でもやっているストレス解消を生み出した。それは大声で叫ぶという事だ。しかし、外で大声を出すのは一目に引くのでやってはいけない。かといって誰もいない場所を見つけて大声を出すのは至難の業だったので、AKIRAは風呂に頭を突っ込んで大声を上げるという独自の方法を思いついた。それを機に風呂の中で「ぼわぼわぼわ!」という声にならない音を出して叫び倒し、ストレス解消を始めたAKIRAは何とか病に苦しまずに、見事中学時代は皆勤賞を獲得して表彰される程の病気知らずとなった。やはり人間はどれだけストレスを溜めずに生きるかが焦点とされるポイントなので、極力外的からの精神攻撃から身を守る必要がある。だが、AKIRAのように根っからのネガティブ人間はどうやってもストレスからは逃げ慣れないので、今度はストレスを解消する一番の手を考えないといけない。AKIRAの場合は風呂に顔を突っ込んで大声を出すというのが最良の手だったが、これは個人さがあるのでまずは試した方がいいかもしれないと、AKIRAはチームメンバーに話していた。特に絶賛スランプ中の山室にはこのストレス解消方法を話していて、既に称賛を得ていた。大阪という都会に住んでいると、どうしても人の目があって大声を出せない。だが、液体の中から声が響かなくて済むのでいくらでも大声を出せるという画期的なアイディアだった。無論、これは自分の家の風呂場でする行為であり、他人の家や銭湯などでこれをすると妙な疑いを招く危険性があるので注意が必要だと、AKIRAは口酸っぱく言っている。他人の家や銭湯で頭を突っ込むマナー知らずの輩が本当にいるのかと問われれば、恐らくいるだろう。世の中には良い奴もいれば悪い奴もいるので、そういう行為を平気で外の世界でする人間もいる可能性もあるという話しだ。



「ぶくぶくぶく……ぼああああ!」



 こうして、遊園地から帰ったAKIRAは風呂に頭だけを突っ込んで大声を上げていた。球場ではいつも冷静沈着で落ち着いているAKIRAだったが、それは仕事だけのペルソナに過ぎないので、家に帰るとこのようにハッスルを始めるのがAKIRAという男だ。そもそも、何故ここまでのストレスを感じているのかというと遊園地があまりに混雑し過ぎてお目当てのアトラクションに乗れなくてストレスが溜まり放題だったからだ。いつもの冷静沈着なAKIRAならポジティブな事を考えて極力ストレスを溜めないようにするが、生憎オフの日は渡辺明という本来の自分に戻っているので、そんな器用な真似は出来っこないのだ。こうして、彼は家に帰った後は一人でブクブクと泡を立てながら怒りの咆哮を湯船の中で上げているという訳だ。それに遊園地の中にはまともな飲食店が一つも無かったというのもストレスを溜める要因の一つだった。どこもかしこも、アトラクションを生かした凝った料理を作っていて、見た目が不気味そのものだ。確かに子供受けはいいかもしれないが、まともな食事をしたいという大人には到底我慢できない物ばかりであり、空腹が満たされる筈も無かった。


「くそ……修学旅行生とスケジュールが被ったのは大きな間違いだった」


 散々大きな声を出してスッキリしたAKIRAは、湯船から顔を出して冷静な分析をしていた。いくら今の彼が渡辺明だったとしても瞬時にスイッチを切りかえればAKIRAになれるのは不幸中の幸いだと言うべきだ。AKIRAの思考回路は常人の域を遥かに超えていて、予想とは斜め上の見解を導く頭を持っていたので悩んだり悔んだりする時はAKIRAになって考え事をした方が実に都合がいいのだった。



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