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AKIRA  作者: 千路文也
プロ2年目  -苦悩-
140/426

140  平凡な親から美人は生まれる


 お客さんを主体として考えるのだから、プロ野球はある意味、接客業と言っても過言では無い。グッズ販売からユニフォームの販売に至るまで、全てお客さんに提供するかり利益が生まれるので、やはりスター選手の出現が野球界を経済的にも潤すための絶対条件だ。しかし、そのスター選手が中々現れないので首脳陣達は苦労しているのだ。まだスター選手となれば一つの球団に何とか一人現れてくれる希少性なのだが、スーパースターの選手に至っては30年や40年の時を経立たないと出現しないので困ったものだ。かつて日本球界には鬼崎喜三郎というスーパースターがいたのだが、彼がメジャーリーグに挑戦してからはすっかり日本球界は駄目になってしまった。これまでに阪海とツネーズの伝統決戦は視聴率30%というテレビ業界でも嬉しい悲鳴を上げるものだったが、鬼崎がニューヨークに旅立ってからは、視聴率が9%にまで落ち込んだ程だ。このようにテレビの視聴率を上げる存在は決してスター選手ではなく、スーパースターの役目なので日本球界には全国的知名度のある選手が必要だった。


 そして、鬼崎がメジャーに挑戦してから40年近くが経過した頃にようやくスーパースターに相応しいルックスと成績を兼ね備えた選手が現れた。その名は渡辺明……もとい、AKIRAだ。AKIRAは独特の低い声と武士のような鋭い髭を蓄え、目鼻立ち整ったハンサムな顔をしており、たちまちお茶の間の奥様方から支援されるようになった。それでいて、身長は2メートルを超えていてホームランと内野安打を量産する5ツールプレイヤーだというのだから人気が出ない訳がない。人々は鬼崎の再来と言いながら、AKIRAの事を尊敬の眼差しでみつめてくる。それらが影響して、阪海とツネーズの伝統決戦は鬼崎が所属していた時のように視聴率が30%を超える機会が徐々に増えて、今では毎日のように地上波で阪海の試合が放送されるようになった。野球を知らない人間でもAKIRAの打席になるとテレビに注目して応援する。こうなれば「とりあえずAKIRAが見たい」と思って阪海球場に足を運ぶ観客が続々と増えて、ビジターの時は他球団でも利益に繋がるのだからAKIRAという選手は日本野球界の至宝としてその名に恥じない利益を生んでいた。


 と言っても、やはり鬼崎と比べようとする面白くない輩は存在している。その多くが団塊世代と呼ばれる人達であり「昔の鬼崎の方が顎がシュッとしてかっこよかった」などと空気の読めない発言をして野球界を再び暗闇に沈めようと無意識の内に行動しているのだから余計にタチが悪い。鬼崎が日本球界にいなくなった時の悲惨な現状を知っていても、こういう発言をしてくるのはやはり彼らの性格が問題なのだろう。確かに鬼崎と比べると残してきた成績が全く違うが、そもそもAKIRAはまだ19歳の青年だ。高卒二年目でプロ野球の球に対応しているだけで奇跡に近いのに、交流戦が終わった時点で首位打者、最多本塁打、最多打点などのタイトルを総なめにして現時点で全冠王になっているのだ。これだけの成績を残しているにも関わらず、AKIRAを日本球界の顔だと認めない一派は少数だが確実にいるので不愉快にもなって当然だ。


 しかし、AKIRAには彼らの言葉など耳に入ってこない。というよりも、世間の声は全てシャットアウトしているので今自分が世間からどのような目で見られているのかも分からず仕舞いだ。というのも、成績で一喜一憂していてはどんなに優れた精神状態でも、必ずいつか異常をきたすのは想像するだけでも容易に分かるので、AKIRAは世間の評価をまったく耳に入れないでプロ野球生活を過ごしている。だからこのように完璧な変装などせずに多少なラフな格好をして彼女と遊園地に来ていた。2メートルを超える身長の男がいればさぞ騒然になりそうだが、それ以上に隣の彼女が周りから尊敬の眼差しで見られていたので問題は無かった。彼女はアジア人の中でも最高の顔立ちだと絶賛出来る程の美貌を放っていて、隣に立っているAKIRAが霞むほどのオーラを放っているのだから相当の美人だ。この子が、あの石井から生まれてきたというのだから美人の娘は美人だと限らないという説は限りなく正しいかもしれない。そもそも石井という男は地味を極めていて、盗塁をしても相手の投手や捕手も気づかないぐらいの地味さを誇っている。容姿も何処にでもいそうな親父顔をしていて、恐らく他の親父を打席に立たせても審判すら気づかない事態に発展するだろう。それぐらい平凡な顔立ちで普通のお父さんだ。ところが、そのお父さんから飛びっきりの美人が生まれたのだから人生は何が起きるか分からない。


 実を言うと、母親もそこまで美人という訳ではない。AKIRAが石井家に尋ねた時に母の顔をチラリと目撃したのだが、それこそ何処にでもいそうな普通の奥さんという見た目だった。特別綺麗ではなく、参観日の日でも特に目立ちそうにない平凡な女性だった。しかし、この平凡な親からここまでの美人が生まれてくるのだから恐れ入ると、AKIRAは内心思っていたのだった。





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