138 ストレス発散の重要性
心技体の中で一番重要とされるのは心だと言うのはAKIRAにとっては決定的だった。精神力が弱くなると体調管理にも支障が出てしまい、結果的に更に精神力が弱くなるという悪循環に陥るのも必須だ。そういう意味では、やはり人間はメンタルの部分が欠如していると思うようなプレーを出来なくなるから注意が必要だ。特にAKIRAのような新人選手は最初こそ上手くいったとしても、段々と体と感覚にズレが生じてそこからスランプに陥る要因が生まれるようになる。そういう意味では誰でも最初はプロのようにヒットを量産出きるし、ホームランを打てる。だがそれはあくまでもビギナーズラックであり、長くは続かないのが辛い現状だ。どんなに順調な野球生活を送っていたとしても必ずスランプに陥る時は来るというのだから末恐ろしい。その点では、AKIRAもプロ野球選手になってから何度もスランプに陥っているのだから世の中から天才と呼ばれている選手は実は平凡だというのが現実性を帯びている。たった一言が原因でバランスを崩して結果を残せなくなるのが野球というスポーツだ。AKIRAのようなインパクトの高い選手でも、今の今まで当たり前に出来ていた事を突然出来なくなってスランプに陥る可能性は十分にありえるし、出来る限りスランプは体験したくないというのが彼の本音だ。口ではポジティブな事を言っているかもしれないが、中身はネガティブそのものなので本当はスランプなんて来てほしくないし後退したくもない。だが、平凡な選手である以上、不調になるのは仕方ない事なので諦めてスランプ脱出の糸口を探ろうと必死になって解決策を模索するのがAKIRAという選手だ。彼は決してメンタルが強い選手では無いので、自分を言い聞かせようとポジティブな発言を良くしている。だが、ファン達はそのポジティブな言葉を真に受けてしまい、AKIRAという選手から出た格言としてファンの記憶の中に眠り続けてしまっている。しかしAKIRAが口を酸っぱくして言っているのは他人の格言よりも自分の心の中の叫びの方がよっぽど重要であるという点だ。人間は不思議と同じ性格の持ち主はいないので、他人の言葉を胸に秘めて行動するよりも、自分の内なる言葉に耳を傾けて欲しいというのが正直な気持ちだ。しかし、AKIRAの言葉があまりにも人々を感銘の渦に巻きこませるので、彼の願いもしばらくは実現されそうにないようだ。
そして人間は口に出さないだけで多くの悩みを持って生きている。ほとんどは潜在意識の中に隠れているので表には出てこないが、裏では日頃の不満と愚痴が溜まって爆発寸前になっている。これが所謂ストレスという厄介な敵だ。野球選手にとっても大敵であるのは勿論であり、なるべくストレスを感じずに野球を続けるのが肉体と精神を保つ上での重要な鍵となる。そのためには心を預けられるだけのパートナーが必要となってくるのだ。どんなに落ちぶれた選手でも最愛の妻がいれば何とかなるし、実際に野球選手としてより高みを目指そうとするのならば結婚相手を探し出して家庭を築く方がよっぽど精神的に楽になる。結婚をせずに孤独のまま野球選手を続けていられるのは鬼崎喜三郎ぐらいであり、他の独身選手はあまり長続きしていない。日米共に活躍している選手の共通点は、最愛の妻がいるといないの一点も関係してくる筈だ。そして今のAKIRAには結婚を前提におつきあいしている女性がいる。今年高校を卒業したばかりの19歳で、ほとんど年齢は一緒のようなものだ。それ故に二人共意気揚々とお互いの事を好きでいるのだから、デートの回数も自ずと増えてくる。そしてAKIRAは彼女という存在が出来た事によって、選手としての幅も広がったと感じている。たかが彼女でここまでのモチベーションを確立できるのだから結婚をすれば更に野球選手として上へ目指せるだろうという気持ちはあった。肌と肌を触れ合える存在がいるのといないのとでは、自分の精神状態にここまでの違いがあるのかと驚かせるぐらい、女という存在は野球選手にとって欠かせない者だ。
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AKIRAは遊園地に来ていた。勿論一人では無く彼女と一緒にだ。せっかくのオフなのでのんびりと過ごしたいという気持ちがあって、珍しく練習を中断して遊園地に遊びに来ていた。これはあくまでも練習を中断しているのであって、寮に帰ったらいつものように野球の練習を続けるだけの意志はあった。しかし寮に帰っても練習が出来るだけの体力が残されているのか、それがAKIRAにとって最大の恐れだった。というのも毎日続けている練習だけは絶対に日付が変わるまでに終わらせたいという強い気持ちがあるからだった。
「ああ……やっぱりデートと言えば遊園地だよな」
AKIRAは背伸びをしながら、この遊園地で日頃のストレスを発散しようと考えていた。ジェットコースターに乗って悲鳴を上げたり、お化け屋敷に入って悲鳴を上げたり、鮫に襲われて悲鳴を上げたりと、とにかくいつも以上に感性を研ぎ澄まさせる事は想定済みなので、後は思う存分楽しむだけだ。




